作品タイトル不明
805 銀の女と金喰剣
『もしかして、抗魔と間違われるのか?』
「町には抗魔を探知する魔道具や、抗魔の侵入を防ぐ結界がある。それに引っかかっちまって、町には入れん」
「説明しても、ダメなの?」
「ああ。何百年か昔の特殊個体に、人間に化ける抗魔がいて、都市が落とされたことがあるらしい。そのせいで、抗魔の疑いがある内は絶対に入れちゃくれないのさ」
『でも、前はノクタに入れたんじゃないのか?』
「侵蝕がこれだけ進んだのは、ここ最近だからね」
抗魔を斬ったら斬っただけ強くなれる代わりに、その身が抗魔と化す廃棄神剣。そして、ここ最近になって侵蝕が急激に進んだというナディア。
それだけで、もうわかった。
彼女はカステルを守れなかったことを後悔し、力を欲したのだ。抗魔を狩り続け、その結果がこの体であり、この強さなのだろう。
それに、もう1つ重要なことに気が付いてしまった。
『抗魔は神の張った結界の外に出れないって話だが……』
「そこに気付いたかい? ああ、その通りさ。オーバーグロウスの所持者は、結界を越えることはできない」
『まじか……』
本当に体が抗魔化しちまうんだな。
「試したの? 絶対に通れない?」
「あたしは試しちゃいないが……。この剣はね、何千年もの間、この大陸に存在し続けているのさ。そして、幾人もの手を渡り歩いてきた。銀の女の手によってね」
『銀の女?』
それは、この大陸の都市伝説のようなものであるらしい。
呪いの魔剣を所持し、その使い手を探してゴルディシアを徘徊している銀の女。彼女は使い手に相応しい者を見つけると魔剣を手渡し、どこかに消えてしまうという。
銀の女が再び現れるのは、使い手が死んだ時。どこからともなく姿を見せ、剣を回収すると次の使い手を探すべく放浪を再開するのだ。
酒の席で怪談のように語られる都市伝説。しかし、この伝説は真実であった。
「銀の女っていうのは、神級鍛冶師ゼックスが生み出した特別なゴーレムさ」
オーバーグロウスを育てる為、銀の女は魔剣を扱うことが可能な資格者を探し、授けるということを続けているという。
オーバーグロウスの性能が凄まじいのは、歴代の所持者が抗魔を斬り続け、その力を吸収してきた結果であるのだ。
「その銀の女には、色々と話を聞かされているんだよ。神級鍛冶師ゼックスのことや、この魔剣の所持者の末路なんかをね」
『末路?』
不吉な言葉だ。少なくとも、幸せな結末は想像できない。
「オーバーグロウスの所持者が死ぬ場合、それは3パターンしかないって話だ。強力な抗魔に負けるか、身に宿った抗魔の力に抗いきれずに暴走して人間に討伐されるか、暴走の前に自滅して命を失うか。それしかないらしいね」
『危険なことが分かっているなら、剣を手放すんじゃダメなのか?』
「ふふふ。オーバーグロウスを使う資格は、抗魔への強い復讐心だ。そんな人間が、自分の意思でこの剣を手放すわけがない」
町にも入れず、大陸から外に出ることもできない。しかも、抗魔への強い復讐心を持つ。そんなの、手に入れた時から結末が決まっているようなものじゃないか。
「この剣の持ち主になった時から、死ぬまでこの大陸で抗魔を狩り続ける運命なのさ」
ナディアの声に後悔の色は全くない。むしろ、そんな結末を待っているようにさえ聞こえた。
「……おばちゃん」
「泣くんじゃないよ。この剣の所持者になったこと、私は悔いちゃいない。欠片もね。むしろ、これがあるから戦えるんだ」
ナディアが未進化でありながら、ランクA冒険者並の力を持つのは、抗魔の力を吸収し続けてきた結果だろう。
「フラン、あんたはできるだけ早くこの村を離れな」
「なんで!」
「村の周辺から、抗魔の気配が消えている」
『それが、どうかしたのか?』
「強力な指揮官がこの近辺に出現し、そいつが抗魔を集めているんだよ。これは、嵐の前の静けさって奴さね。数日もすれば抗魔の大侵攻が始まる」
『言っちゃ悪いが、カステルはもうナディアしかいない廃村同然の場所だ。ここに、抗魔が攻めてくるのか?』
「前回、ここを襲ってきた指揮官個体をとり逃した。奴がまだ存在しているなら、再度やってくる。拠点制圧型はそういう習性なんだよ」
「だったら私も――」
「ダメだ! 思い出があると言っても、ここは廃村なんだ。あたしみたいな死に損ないと違って、あんたには未来がある。それを捨ててまで、守る価値なんざないんだ」
「私も戦える! この村を守れる!」
「ダメだ」
ナディアの決意は断固としたものだった。初めて見る厳しい顔で、フランを睨んでいる。だが、フランも目を逸らさなかった。
2人の睨み合いが続く。
しかし、すぐにナディアの表情が和らいだ。
「はぁ……。あんたも頑固だねぇ」
「ん」
「実はね、フランにはいくつか仕事を引き受けてもらいたかったんだよ」
「仕事?」
「ああ、まずは。これをノクタの冒険者ギルドに届けてくれないかい?」
「これは……ギルドカード?」
「ああ、あたしの遺書みたいなもんさ。友人たちに、あたしの生死を知らせたいんだ。これで最後になるかもしれないしね。頼むよ、この通りだ」
「……」
「それに、ノクタにいる知人に手紙も持っていってもらいたいんだがね?」
ナディアは自分のギルドカードをフランに押し付けると、拝むように頭を下げた。フランは何も言えない。
自身が、ギルドにカードを預けるという習慣のおかげで両親のギルドカードを受け継ぐことができた。決して、無駄な行為ではないと分かってしまったのだろう。
「……わかった。これと手紙を届けて、すぐに戻ってくる」
「いや、それともう1つ頼みがある。ノクタの冒険者ギルドで、依頼を出して人を集めちゃくれないか?」
「カステルを守るため?」
「そうだ。最低でも戦える奴が100人は欲しい。できるかい?」
「任せて!」
「頼んだ」
そう言って笑うナディアの顔には、安堵の表情が浮かんでいた。
「師匠、フランを頼んだよ?」
『……ああ』