軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

804 カステルの夜

墓から遺品を掘り起こした俺たちは、そのままナディアの家で食事をしていた。安定のカレーである。

「美味いねぇ」

「師匠の料理は最高」

『まあ、スキルのおかげだがな』

「それだって、そのナリでこのレベルの料理を作れるのは信じられないね。料理の腕で剣に負けるとは思ってもなかったよ……。これでも主婦業をしていたこともあるんだがねぇ」

『結婚してたのか!?』

「もぐもぐ!?」

フランも初耳だったらしい。口いっぱいにカレーを頬張りながら、目を見開いている。

「はは、もう20年以上昔の事さ」

『旦那さんは……』

「抗魔にやられてあっさりとね。子もいなかったから、それからはまた冒険者暮らしさね」

そう言って肩をすくめるナディアの表情からは、寂しさのようなものは感じられない。昔のことと吹っ切ったつもりなのだろう。

それでも、俺には彼女が寂しそうに見えた。フランも同じであるらしい。

「おばちゃん……」

「なんて顔して――おっと。なんだい?」

「ううん。なんでもない」

「ははは。急に甘えん坊になったねぇ」

抱き付いてきたフランを受け止めて、撫でているナディア。さすが一流の戦士なだけあり、咄嗟にカレーの皿を上に掲げて、零さなかったな。

というか、フランはナディアの胸にグリグリと顔を埋めているけど、絶対にカレーで汚れたと思うぞ。大丈夫か?

そのまま廃棄神剣やゼックスの話を聞く。彼女のレベルが黒猫族のマックスである45を超えているのも、やはり抗魔の体になったからだそうだ。

まだ侵蝕が少なかった4年前までは、45で止まっていたらしい。

ナディアの持つ金喰というスキルが怪しそうだが、これをスキルテイカーで奪ったとしても元の体に戻せるか分からない。

オーバーグロウス由来のスキルだろうし、すぐに復活してしまう可能性もあるだろう。

どうすればナディアを救えるのか。フランのためにも、助かってほしいんだが……。

夕食を終わらせると、もう就寝時間だ。こっちの世界の人の夜は早いが、ナディアはなおさらだ。

僻地や辺境では油や魔石といった燃料類がどれでも貴重なので、サッサと寝てしまう人が多いのだろう。

「今日は泊まっていくんだろ?」

「いいの?」

「あたりまえさ! 寝床は狭いが、つめれば2人は寝れるだろうよ」

完全なるシングルベッドだが、小柄なフランなら問題ないか。

「少々あたしの臭いが付いちまってるベッドだが、野宿よりはマシだろ?」

「ん」

野宿用のベッドが次元収納に入っているが、フランがそれを取り出す素振りはなかった。俺も、あえて指摘するような野暮はしない。

浄化魔術を使ってから、いそいそとベッドに潜り込むフランを見ればなおさらである。

いつもなら布団に入った直後にはグッスリなフランだが、今日は違っていた。

「おばちゃん」

「どうした?」

「この大陸のこと聞かせて?」

「フランは勉強熱心だねー。いいよ、何が聞きたい?」

「なんでもいい」

「うーん、そうだなー」

何が聞きたいというよりも、ナディアの話が聞きたいのだろう。

普通の子供なら物語でもせがむところを、大陸の情報というところがフランらしい。

「西の港には――」

「ん」

「ノクタの――」

「ん」

ナディアは結構有益な情報を話してくれているんだが、フランは聞いているのか聞いていないのか、気持ち良さげに目を瞑りながら相槌を打っている。

それから1時間後。

遂に眠気に抗えなくなったのか、フランが寝息を立て始める。安らいだ表情だ。

少々自意識過剰かもしれんが、俺を抱き締めて寝ているとき並にリラックスしているように思えた。

ナディアはそんなフランの寝顔を、肘枕の状態でジッと見ている。

『ナディアさん。俺とウルシが周囲の警戒をするから、寝ていいぞ?』

「そうかい? もう少ししたら眠るよ」

ナディアはそう言いながら、フランから目を離さない。その顔には、まるで母親のような優しい表情が浮かんでいた。

翌朝。

朝食は俺の出した極厚ベーコンエッグと白パン食べ放題だ。

朝からカレーは、ナディアにはさすがに重いだろうしね。この場で焼き立てのベーコンを、フランたちの前に山盛りで積んでいく。

いや、1枚だけで十分かと思ったら、フランもウルシもナディアも、もっと欲しいっていうんですもの。考えてみたらナディアも、茶うけにステーキを貪る食いしん坊種族獣人の1人だった。

多分、カレーでも全然平気だったな。

朝からもりもりと肉を腹に収めながら、フランがナディアに質問をした。

「おばちゃんは、これからどうするの?」

「これからって、今日って意味じゃないさね?」

「ん」

フランがどこか期待した顔でナディアを見ている。そして、俺にそっと問いかけてきた。

(師匠。おばちゃんのこと――)

『旅に誘うつもりか?』

(ん。だめ?)

『いや、大賛成だよ』

フランにとって、保護者は一人でも多い方がいい。俺だけではなく、女性が側にいる意味っていうのは大きいはずだ。

しかし、ナディアは今度ははっきりと寂しさが分かる顔で、頭を振った。

「あたしはここにいるさ」

「……進化するためには、他の大陸に行かなくちゃダメ」

「そうだね。でも、ダメなのさ」

『墓守だからか?』

見ていれば、ナディアはこの村に強い思い入れを持っているのが分かる。それこそ、執着と言ってもいいだろう。

ただ、ナディアが一緒に行けない理由はそれだけではなかったのだ。

「あたしは、町に入れないんだよ。こいつのせいでね」

ナディアが変異した左腕をヒラヒラさせながら、肩をすくめた。