軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

800 フランの悪戯心

これまでのことを語り終えたフランだったが、実はまだ伝えていないことがある。

というか、これを伝えずして何を伝えるんだって話だが。

『進化について話さなくていいのか?』

(今からおしえて、驚かす)

『そうか』

(ん!)

実は、俺たちは進化隠蔽スキルを付けたままである。どこまで効果があるか分からないが、少しでも気配を消すためだ。

獣人は、相手の獣人が進化しているかどうか、対面しただけで理解できるという。

つまり、進化している獣人からは獣人に働きかける何らかの物質や力が発せられているということではなかろうか?

それを抗魔が嗅ぎ取れるかは分からない。しかし、少しでも見つからないようにするために、気休めでも進化隠蔽を発動させているのである。

ナディアと出会ってからも、特に解除などはしていない。

そのせいで、ナディアはまだフランが進化していることに気が付いていなかった。

どうやら、ナディアをビックリさせるつもりで、ここまであえて黙っていたようだ。フランが俺以外にここまで子供っぽさを見せる相手は、めずらしいな。

それだけ、彼女に心を許しているのだろう。

正直、悪戯にしては相手の心臓に悪すぎる気もするが……。

「実は、まだ秘密がある」

「へぇ? 秘密ねぇ。師匠が廃棄神剣だっていうことよりもかい?」

「師匠と同じくらいすごい秘密」

『いや、悔しいが、俺の正体なんかよりも、よほどナディアは驚くと思うぞ?』

俺に関する秘密は相当凄いものだと自負しているが、黒猫族にとっては進化情報の方が数段大きな驚きがあるだろう。

『驚きすぎて絶叫すること請け合いだ』

「そのとおり」

「ほ、ほう?」

ナディアの顔が微妙に歪む。

凄い情報を聞く緊張感にって感じじゃないな。大きなリアクションをしなくてはいけないという、変なプレッシャーを感じているのだろう。

明らかに「ちゃんとリアクションをしてやらないと、フランが傷付くかもしれない」と考えている顔だ。何かすまん。

まあ、わざとリアクションする必要もないと思うけどね。

「師匠」

『了解』

そして、俺が進化隠蔽を解いた瞬間、ナディアがベッドを軋ませながら凄まじい勢いで立ち上がった。

「……!」

言葉も出ないらしい。

「……っ!」

酸欠で喘ぐ金魚のように口をパクパクさせたまま、極限まで見開いた目でフランを見つめている。

「……ぁ」

「黒猫族は進化できる」

「な……なんてこったいっ!」

自らの髪をかき乱しながら、叫ぶナディア。フラフラと近寄ってくるその足取りは、かわいそうになるくらいに覚束なかった。

「本当に……進化を……」

「ん」

「は、はは……」

ナディアは、フランの前で崩れ落ちるように膝立ちになる。視線の高さをこちらと合わせると、ゆっくりと手を伸ばし、フランの頬を両手で挟んだ。

そして、再び涙を流す。

「ああ……」

さめざめという表現がこれほど似合う泣き方もないだろう。

「あたしらは、出来損ないなんかじゃなかったんだね」

「ん! もちろん」

しばらくの間呆然と涙を流していたナディアだったが、数分もすると興奮したように立ち上がった。

「ははははは! 凄いよ! 凄い! 確かに驚いたよ!」

「ふふん」

「どうすれば、進化を?」

「邪人を殺す」

『それじゃあ簡潔すぎるだろ』

フランに代わり、進化をするための方法をナディアに伝える。すると、ナディアは微妙な表情だ。

「ゴルディシア大陸じゃ、絶対に達成できないってことかね?」

「ん」

生まれも育ちもゴルディシア大陸のナディアにとって、邪人は未知の相手であるらしい。

なんとゴブリンさえ、見たことがないそうだ。

「他の大陸か……」

ナディアが困惑した様子で呟く。この齢で、生まれ育った大陸の外に出るというのはかなりの勇気が必要なのだろう。種族の悲願である進化と天秤にかけて、悩んでしまうほどには。

「それと、さっきまで進化していることが分からなかったのは何でなんだい?」

「師匠のおかげ」

『俺が進化を隠蔽するためのスキルを持っているんだ』

「そんなスキルがあるのかい。師匠はフランのためにあるような剣だね」

まあ、このスキルを手に入れたのは、フランが進化した後だけどな。俺がフランのための剣だっていうのは、同意だが。

「それだけじゃない。私が進化できたのも、師匠のおかげ」

「そうなのか?」

「ん。進化するための条件を知れたのも師匠のおかげ」

フランが頷くと、ナディアが急に真剣な顔となった。ジッと俺を見つめている。

すると、そのままナディアが深々とお辞儀をした。

「師匠殿、世界中の黒猫族を代表して、御礼申し上げる」

『ちょ、やめてくれ。そんな頭を下げられても困る』

「ふふふ。すまないね。しかし、これはあたしの本心さ。他の黒猫族は師匠の正体を知らないんだろ? だから、そいつらの分まで、あたしが礼を言わせてもらったよ」