作品タイトル不明
791 青猫族はどこに行っても青猫族
ソフィーリアと別れてから数分。
フランはメイン通りを逸れ、裏道へと足を踏み入れていた。
近道をしようというのではない。むしろ、冒険者ギルドを目指すなら遠回りだろう。
それでも裏道へと入ってきたのは、尾行者を釣り出すことが目的であった。オープンカフェを出てすぐに、こちらを尾行してくる者たちに気付いたのだ。
気配の消し方はかなり上手いが、こちらに対する悪意を消せていない。
俺とフランにとっては、居場所を自分から教えてくれているようなものだった。
無視してギルドへ向かってもいいんだが、相手が少々特別だったのである。少し話を聞いてみなければならないだろう。
人気のない細い路地で、フランが足を止める。すると、こちらの思惑通りに尾行者が姿を現した。
「……動くな」
「そのまま壁に手を突けや」
フランの背後から1人。先回りして、出口を塞ぐように1人。青猫族が鋭い視線をこちらに向けながら、ゆっくりと近づいてくる。
青猫族って、やることがワンパターンだよな。
ただ、さすがゴルディシア大陸で活動しているだけのことはある。
ジルバード大陸で斬ってきた青猫族に比べると、大分能力は高かった。そこらのチンピラとは格が違う。
冒険者ランクで言えばC程度はあるかもしれない。それが2人ともなれば、相当な戦力だった。
それでも、今のフランの強さは感じ取れていないけどね。これはこの青猫族たちがショボいというよりも、フランの実力隠蔽能力が上がったということだろう。
アレッサの町で襲われた時、相手がこいつらだったらかなり危険だったかもしれない。
「何か用?」
「ゴルディシアくんだりまで来ているんだ。駆け出しでもあるまい? 分かっているだろう?」
「ひひ、奴隷狩りだよ」
「黒猫族を見つけたとあっては見逃せん」
「いいカモだからなぁ! 動くんじゃねぇぞ! 死にたかねぇだろ?」
こちらに威圧感を叩きつけ、再度警告を発してくる青猫族。戦闘になって、商品が傷つくのを嫌っているのだろう。
「両手を上にあげろ」
「逃げられるなんて思うんじゃねぇぞ?」
馬鹿な奴らだ。
青猫族の言葉を聞いたフランが、微笑んだ。そこに、柔らかさなど微塵もない。あるのは、獣のような凶暴さだ。
まるで、生肉を前にした虎のような、獰猛な気配が発せられる。
「お前ら青猫族は、やっぱりどこでも青猫族」
「……! やれ!」
「ああ!」
フランが僅かに気配を解放したことで、ようやく力の差を理解したらしい。
背後の男が斬りかかってくると同時に、前の男がナイフを投げてくる。逃げられないと瞬時に悟り、攻撃を仕掛けてきたことは評価してやってもいい。
まあ、正解は、瞬時に武器を手放して命乞いをすることだったがな。
「ピンポイント・スタブ!」
「無駄」
「なっ!」
ナイフをあっさりと左手で弾きながら、背後から繰り出された剣技を振り向きもせずに俺で弾くフラン。
剣技レベル8の大技だ。相手がそこらのランクBクラスだったら、足止めくらいにはなったかもしれないが……。相手が悪かったな。
フランはそのまま背後を振り向くと、返す刀で背後の男の両足をぶった切る。
「ぎゃぁ!」
「くそっ!」
再度ナイフが投げられるが、フランは捻りを加えたバク宙で回避していた。
急に目の前に現れたフランに驚愕する男の腹に、覚えたばかりの浸透勁を叩き込む。
「なんて動きを――ごぼっ!」
口から血を吐き出して崩れ落ちる青猫族と、両足を失って騒ぐ青猫族。特に、騒いでいる方はメチャクチャ煩い。
「ぎゃあああぁ! 痛いぃ! 殺されるっ! 助けてくれぇ!」
どうやら、悲鳴を上げて衛兵を呼び寄せようとしているらしい。
死ぬよりは捕まる方がマシと思っているのか、衛兵を言いくるめる自信があるのか。それとも、衛兵もグルなのか。
「無駄。風の結界を張ったから、お前の声は外には届いてない」
「なっ……。いつの間に……!」
「この路地に入った時。どうせ、こうなると思ってたから」
「……!」
尾行者が青猫族と分かった時点で、こうなることは決定していたのだ。
「ヒール」
「……!」
とりあえず足の傷を塞ぎ、血を止めてやる。失血死なんてしたら馬鹿馬鹿しいからな。フランが優しさからそうした訳ではないと、理解したのだろう。
青猫族の目に怯えの色が混じった。
「逃げられると思うな」
「くっ……」
「さて、色々聞かせてもらう。話したくないなら、頑張って耐えればいい」
「!」
フランが振り上げた俺を、男が絶望的な表情で見上げる。これから何が行われるか、理解したのだろう。
五分後。青猫族の男たちはそれなりに耐えたが、最後には観念して情報を吐いていた。
「お前らは、違法奴隷商人?」
「そうですぅぅ……」
回復魔術を使って延々と体を痛めつけられるうえに、虚言の理によって真偽を言い当てられ続けたことで、心が完全に折れたらしい。
こいつらはやはり、違法奴隷を扱う闇組織の人間であった。青猫族の奴隷商人を中心に、かなりの人数が密かに活動しているらしい。
衛兵を呼ぼうとしていたのは、その中に違法奴隷組織の人間が混じっているからだ。ここで普通の衛兵に捕まっても、仲間の手引きで逃げ出すことが可能であるという。
奴隷が向かう先は様々で、レイドス王国などにも送られているようだった。
青猫族の奴隷商人とレイドス王国。フランにとっては殺すリストの上位の面々が揃ったな。これ以上ない敵である。
「お前らにボスはいる?」
「い、いるぅ! いますぅ!」
「どこにいる?」
「セ、センディア……! 違法町センディアにぃぃぃ!」
「センディア」
この大陸で向かわねばならない場所がまた増えたな。いや、俺としては無視しても構わないんだが……。
「師匠」
『分かってる。止めないよ』
「ん」
うちのフランさんがやる気ですから。
「カステルに行ったあと、センディア」
またやることが増えたな。