軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

767 カステルの今

喧嘩になりかけていた場面を仲裁された後、フランはギルドマスターの執務室へと連れてこられていた。

「お前……黒雷姫のフランだな?」

「ん」

「あのディアスの野郎を叩きのめしたんだって? すげーじゃねーか」

「なんで知ってるの?」

「有力な冒険者の情報はしっかりと回っているからな。ウルムットの武闘大会の情報も全部伝わってるぜ? エリアンテから連絡も貰ってるしよ」

遠く離れた大陸まで、フランが優勝したという話が伝わっていたらしい。

「あいつらはデカい冒険者集団の下っ端だ。喧嘩になれば、上のもんが出てくるだろう。お前さんみたいなのが暴れたら、どんだけ被害が出るか……。勘弁してくれよ」

「先に絡んできたのはあいつらのほう」

「分かってるんだがよ……。大攻勢の季節に何十人も引退者を出したら、俺の進退問題になるんだよ!」

引退者って……。フランだって、そこまで追い込みはしないぞ? まあ、エリアンテあたりから、誇張されたフランの噂を聞いているんだろう。

「だったら、ああいうのが馬鹿なことしないように見張ってればいい」

「見張ってたよ! だから割って入っただろ! なのに睨むしよぉ……! この時期に無駄な騒ぎ起こさないでくれっ! これだから戦闘狂どもはっ!」

ギルドマスターのダルホがそう叫びながら、頭を掻き毟った。それを見ていたフランが、妙に優しい表情になる。

絡まれていた側のフランに対して、随分な責め様だ。普段のフランならムッとする場面なんだが……。

「ごめんなさい。次は、無視することにする」

「ほ、本当か?」

「ん」

「ありがてぇ!」

やはり、ダルホに対してなぜか優しい。どうしたんだ?

『フラン? なんか、ダルホに甘いな?』

(ダルホ、エリアンテに似てる。かわいそう)

『あー、なるほど』

言われてみると、書類の山に埋もれて追い詰められている時のエリアンテに似ているかもしれない。

仕事に追われて精神的に参っている彼らの様子が、無条件に優しくしてやろうと思えるほどに哀れに見えるのだろう。

それは俺も同じだ。ブラック職場で追いつめられているかわいそうな人たちには、優しくしてあげないといけないよね。

「奴らのリーダーはそこそこまともな奴なんだが、部下には血の気が多いやつらが揃っててな。下っ端が子供に見える相手にやられたとなれば、絶対に報復に出てくるだろう。面子を気にする奴らだしな」

「ふうん。強いの?」

「だったら、お前さんに騒ぎを起こすななんて言わんさ」

実力はそこそこだが、群れることで戦力を確保しているらしい。それを聞いて、一気にフランの興味が失せたのが分かる。

初対面のダルホにも理解されたくらい、顔に出ているのだ。

「……。そいつらのことはもういい」

「そう言ってもらえると俺もありがてぇ。それで、抗魔カードの作製以外に何か用事があるのかい? 仕事なら適当に見繕ってやることもできるぜ?」

「依頼はまた今度でいい。それよりも、情報が欲しい」

そして、フランが自分がカステルを目指していることや、ランクS冒険者を探していること、最終的にはトリスメギストスに会うことを目標にしていると告げた。

反応はウィリアムと似たり寄ったりだ。ただ、さすが冒険者ギルド。違法村カステルについては管理委員会よりも詳しかった。

「これ、カステルの地図」

「ほう。確かにゴルディシアの地図だな。ノクタやセンディアの名前もある……」

アマンダから貰った地図を見せる。その地図によると、カステルはゴルディシア大陸の北東部に位置していた。

今いる西の港からだと、結構遠いだろう。

「ここがカステルか。ちょいと待ってな」

ダルホが机の中から数枚の地図を取り出し、いろいろと調べ出した。随分と熱心だ。

自分に同情的に接してくれたフランを気に入ったらしい。まあ、ランクA冒険者に勝利した実力者に対し、恩を売ろうという下心もあるのだろう。

「ふむ。カステルは……既に滅んだことになっているな」

「え?」

「理由は分からんが、今の地図には載っていない。4年前の地図には名前があるが、それ以降の地図からは名前が消えている」

ダルホが数枚の地図を見せてくれた。

確かに、古い地図には間違いなく載っているのに、最新の地図からはカステルの名前が消えてしまっている。

「……何のために行くかは分からんが、もう人は住んでいないと思うぞ」

「……それでもいい」

「……まあ、訳は聞かんさ」

「別に構わない。お墓参りに行くだけ」

「墓参り?」

「お父さんとお母さんのお墓」

「そうか。そりゃあ、行かんといかんな」

「ん」

頷くフランに、ダルホが色々と教えてくれた。カステルまでは一直線に行こうとすると、かなり高い山が邪魔をするらしい。それ故、北から迂回せねばいけないらしい。

「お前さんなら山越えもできそうだが、この大陸ではあまり無理はするもんじゃねぇ。大人しく迂回する方が、結果的には早いだろう。それに、北回りならノクタを経由できる」

「ノクタ?」

「ここだ」

ダルホが地図の一点を指差す。位置的には、ゴルディシア北部の中央。北港からやや南に行った場所だ。

確かに、西港からカステルへ北回りで向かう際、ちょうど通るルート上に位置している。

「ノクタは違法町じゃない。抗魔が一切湧かない完全空白地に作られた、管理委員会傘下の町だ。冒険者ギルドもあるし、様々な物資を補給可能だぞ」

大陸内で活動する者たちにとって、前線基地として利用されているらしい。

「それに、青猫族の情報に関しても、ノクタに行けば詳しい情報が手に入るかもしれん」

ノクタには、未帰還冒険者の捜索本部が置かれているそうだ。その名の通り、依頼中にも拘らず姿を消してしまった冒険者を捜索する部署である。

抗魔に負けた場合は吸収され、綺麗さっぱり消え去ってしまう。だが、依頼に失敗し、違約金を払いたくなくてそのまま逃げてしまう者もいた。

そういった冒険者を探し出し、制裁を加えるのが仕事であるそうだ。各国の貴族が関わってくる場合も多いので、この大陸では結構厳しく取り締まられるらしい。

ただ、未帰還冒険者の中には、密かに奴隷にされてしまったと思われる者もいる。当然、それらの情報も集めているはずだった。

「行けば、情報教えてもらえる?」

「ノクタのギルドマスターは強い奴が大好きな変態だ。お前さんなら一発で気に入られるだろう。情報も、教えてもらえるはずだ。安心しろ」

いや、全然安心できないんだけど。変態? 変態って言ったよな? だ、大丈夫か?