軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

765 大攻勢の季節

「さて、あとはランクS冒険者の居場所だったか?」

「ん。イザリオとアースラース」

「イザリオ殿に関しては、今は東港だな。あっちの冒険者ギルドに行けば、詳しい場所も分かるかもしれん」

今いる西港とは反対側か。ゴルディシア大陸に慣れないと、突っ切るのは少し怖いな。

墓参りを済ませたら、会いに行ってみよう。

「アースラースは?」

「大陸に入っていることは分かっているが、現在の居場所までは把握できていない。ランクS冒険者クラスであれば情報が共有されるはずなんだが……」

結界内に入ったまま、違法村などを拠点に活動していれば、正確な場所は分からないらしい。

アースラースに関しては自力で探すしかなさそうだ。まあ、絶対に会わなければいけない訳ではないし、会えたらラッキーと思っておこう。

「イザリオはともかく、アースラースは危険な男だぞ?」

「分かってる。知り合いだから」

「そうか、ならいい」

面倒を見てやれと言われた相手が、危険なランクS冒険者と接触しようとしているのだ。心配にもなるのだろう。

知り合いだと聞いて、ウィリアムがホッとしている。

「情報、ありがとう。助かった」

フランが頭を下げて椅子から立ち上がろうとすると、それをウィリアムが押し止めた。

「ちょっと待った。まだ伝えておきたい情報がある!」

「?」

「今はちょうど、大攻勢の季節だ。無茶はするんじゃないぞ?」

「大攻勢?」

「抗魔が増え、強さも増す。数年に一度あるんだ」

抗魔の湧きには波があるそうだ。

かなり少ない年もあれば、異常な数が湧くこともある。その中でも特に数が多く、危険な時期のことを『大攻勢』と呼ぶらしい。

いつ来るかも分からず、場合によっては2年連続でやってくることもあるという。今回は5年ぶりの大攻勢であり、そろそろ来るかもしれないと予見されていたそうだ。

「抗魔の数が増えて、強くなるだけ?」

「それだけじゃなくて、特異個体の目撃例も増えているぞ」

特異個体というのは、普通の抗魔には見られない特徴や能力を備えた、強力な個体であるらしい。

同じ個体は存在せず、どうやって生み出されるかも謎であるそうだ。いわゆる、ユニーク個体なのだろう。

そもそも、普通の抗魔は大別して5種類に分類されている。

ゴブリン程度のサイズで、近接戦闘をメインで行う剣士型。

剣士型よりもさらに小さく、魔力弾を遠距離から放ってくる弓士型。

オーガほどのサイズで、遠近どちらも行う騎士型。

四足歩行で、仔犬サイズから家屋ほどのサイズまで存在する牙獣型。

最低でも家屋サイズ。最大では砦ほどの大きさの個体も確認されたことがある、大規模遠距離攻撃主体の魔砲型。

これが、基本的な抗魔の情報だった。知能があるかは分からないが、集団として適切な行動を取り、人類に襲い掛かってくる。

交渉や共存を図ることは不可能で、どちらかが全滅するまで戦闘が続くという。

「普通の抗魔たちの場合、率いているのは騎士型。もしくは大型の牙獣型である場合が多いんだが、大群になると特異個体が指揮している場合もある」

「強いの?」

「ピンキリだが、以前はランクSと渡り合った個体も存在していたそうだ」

おいおい、ヤバいじゃないか。ランクSとやりあえるって、それだけでも最低脅威度Aだぞ?

「とはいえ、そのクラスの個体は数百年前に1度目撃されているだけだ。まあ、それでもかなり強いことに変わりはないが。平均すれば、脅威度Bってとこだろう」

よかった。脅威度Aクラスがウジャウジャいるようなところで活動するなんて、悪夢以外の何物でもないからな。

「ただ、お主が目指しているカステルは、急がないとマズいかもしれん」

「どういうこと?」

「大攻勢の季節に産まれる特異個体の中でも最も代表的なものに、占拠型という種類がいる」

この占拠型は積極的に村や町を襲い、その場所にあったもの全てを食らい尽くし、抗魔の拠点に変えてしまうのだという。

ゴルディシア大陸の結界内にある町村は、抗魔の湧かない、もしくは湧きづらい空白地帯に作られている。

しかし、占拠型に奪い取られた後は、空白地帯ではなくなってしまい、普通に抗魔が湧くようになってしまうそうだ。

「当然、カステルも空白地帯に作られているはずだ。だとすれば……」

「襲われる可能性がある?」

「そうだ。墓参りが目的だったな? 占拠型に滅ぼされれば、その地にあった全てのモノが食いつくされるだろう。人も、家も、墓も、全てだ」

ウィリアムの言葉を聞いたフランが、椅子を蹴立てて立ち上がる。その顔には焦りの色が浮かんでいる。

「……急がないと」

「まあ、まて」

「でも……!」

『フラン。どちらにせよ、すぐにはいけない。ベリオスの依頼を受けなきゃいけないんだ』

「……」

フランが唇を噛みしめた。

依頼を放り出してカステルに行くと言い出さないだけの分別は残っているようだが、その内の焦りは如何ともしがたいのだろう。

「フラン。大丈夫だ。まだ、時間はある」

「どういうこと?」

「焦らせるような言い方をして悪かった。大攻勢は、まだ本格化していない。大攻勢の時にだけ姿を見せる斥候型という抗魔の姿が、まだ僅かにしか目撃されておらんのだ」

斥候型というのは、情報収集を主に行なっていると思われる、人の頭部ほどのサイズの蜘蛛に似た抗魔であるらしい。

「占拠型は、斥候型の数が大量に目撃されるようになってから、さらに数日たたないと出現しない。本格的な大攻勢まで1週間以上は余裕があるだろう」

となると、まだカステルは無事ということだ。依頼の後に急げば、十分間に合うだろう。

「それに、大攻勢が始まったからといって、即座に占拠型が増える訳ではない。中心部に近い町から襲われる傾向にあるのだ。お主の持ってきた地図では大まかな位置しか分からんが、その辺りなら10日程度は猶予がある」

「……わかった」

ただ、遊んでいる暇はなくなってしまった。出来るだけ早く、カステルに向かわないとな。