軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

763 筋肉エルフ

管理委員会、西部支部。どんな堅苦しい組織かと思っていたら、中の雰囲気は意外と緩かった。

入り口付近にいた警備兵はニコニコと対応してくれたし、受付のお姉さんはお茶菓子まで出してくれたのである。アットホームな中小企業の事務所に、飛び込みで営業に行った時のことを思い出したね。

しかも、顧問のウィリアムがどこの支部にいるか知りたいと告げたら、30分ほどで部屋に通されてしまったのだ。

今日は居場所を特定するだけだと思っていたから、本当に驚いた。しかも、ここの支部にいるからと言って、すぐに会えるのも驚きだ。

ここはランクBと記された冒険者カードと、ウィーナレーンの名前が書かれた手紙が威力を発揮したらしい。

それでも職員たちの態度が変わらなかったのを見ると、大物の対応も慣れているようだった。緩いだけではないということだろう。

「よくきたな。俺がウィリアムだ」

「ん。冒険者のフラン」

それに、ウィリアムの姿にも驚いた。案内役の職員さんがエルフの顧問魔術師と言っていたので、ローブを被った美形のエルフを想像していたんだが……。

「エルフの魔術師?」

「ぶははは! この大陸で生き抜くには、後ろで魔術を撃っておるだけではいかんからな! 魔術師でも、鍛えねば!」

ウィリアムは汗臭い顔立ちの、ムキムキマッチョな男であった。身長は170ちょいしかないだろうが、体重は100kgを超えるかもしれん。

しかも、傷だらけの革の鎧を身に着け、部屋の壁には巨大なメイスが立てかけられている。どう見ても、歴戦の戦士の部屋であった。

エルフ成分が、長い耳と金髪にしかない。フリーオン以上にエルフっぽくない男を初めて見たな。

「それに、見た目のおかしさで言えば、お主も同じようなものだろう?」

「私?」

「うむ。その年齢でランクB。しかも、実力も確か。余程詐欺ではないか?」

種族詐欺のムキムキエルフに言われたくはないが、フランの見た目詐欺度がかなり高いことは確かである。

「それで、我が師からの手紙を持ってきてくれたということだが」

「ん。これ。中は知らない。ただ、顧問のウィリアムに渡せって言われてるだけ」

「そうか。中を拝見する」

フランに手渡された封筒を開き、読み始めるウィリアム。難しい表情が続く。だが、最後に差しかかったと思われるところ、その表情が緩んだ。

「ふ……」

「どうかした?」

「うむ。お主随分と気に入られているようだな? わざわざ最後に、お主には恩があるから、困っていたら手助けしてやれと書いてある」

ウィーナ、手紙でそんなことを頼んでくれたのか。あれで、意外と恩義を感じてくれていたらしかった。

「あの、誰にでも優しいようで誰にも興味がない師が、これほど気に掛けるとは……」

言い得て妙だな。ウィーナレーン――特に、レーンにしか興味がなかったウィーナのことを完全に言い当てている。

「これは、俺も丁重にもてなさねばな! それで、何か困っていることはないか? あの師に間接的に恩が売れる機会なのだ。労は惜しまぬぞ?」

し、正直! だが、ありがたい。幾つか知りたい情報があるのだ。

「知りたいことがある」

「ほう? どんなことだね?」

「まず、トリスメギストスの居場所」

「なに?」

「伝説の錬金術師に会いたい。それと、カステルっていう村への行き方と、ランクS冒険者2人の居場所――」

「ち、ちょっと待ってくれ! 一度に聞ききれん! それに、トリスメギストスだと?」

ウィリアムが戸惑った様子で、フランの言葉を遮った。

「トリスメギストスに会いたいというのか?」

「ん。ウィーナレーンがまだこの大陸の奥にいて、戦ってるって言ってた」

「だからこの手紙か……」

「大陸の奥に行ったら、会えるの?」

「うむ……」

ウィリアムが露骨に口籠った。考えてみれば、相手は史上最悪の罪人だ。行けば会えるという者ではないのかもしれない。

「理由は?」

「言えない」

「つまり、個人的な理由ということだな?」

「ん」

「そうか……。まず、いる場所だが、この大陸の中央になる。竜人王国のかつての王城。その場所で暮らし、ひたすらに深淵喰らいと戦い続けているはずだ」

「中央のお城」

「だが、ただ行っても会えるわけではない。トリスメギストスが座す居城は、結界によって出入りが制限されている。許可のない者は出入りすらできん」

「どうすれば許可がもらえる?」

「そうさな……。師からの推薦があると考えても、もう少し信用が必要になる。この大陸で抗魔を狩り、武勲を積み上げれば許可が出るやも知れん」

ウィリアムが言うには、トリスメギストスの城へ出入りするためには、各支部長の許可が必要だという。

各国の王が直接出向くような場合を除き、余程功績がある者しか許されないそうだ。

「つまり、ゴルディシア大陸で頑張ってればいい?」

「まあ、そういうことだ。冒険者ギルドで依頼を受ける形がいいだろう。功績が目に見えやすい。要は、この大陸に大きく貢献したと証明できればいいのだ」

「わかった。頑張る」

「うむ。頑張ってくれ。ただ、我らが出せるのは旧王城への立ち入り許可だ。トリスメギストスに無事に会えるかどうかまでは保証せん」

「どういうこと?」

「歴史学者やら戯曲の作家やら、会いたいと言ってやってくる者は多い。中には大国の後ろ盾を持っており、こちらとしても許可を出さざるを得ない者もいる。だがな……」

ウィリアムが苦々しい顔で肩をすくめる。

「毎年、トリスメギストスを怒らせて殺されるやつがいるのさ」

「それって、いいの?」

「仕方あるまい。神に罪人と認定されたからといって、俺たちの支配下にあるわけでもない。こちらで命令などもできんのだよ」

トリスメギストスのイメージはもっと罪人的な、それこそ枷をはめられて管理されているような感じだと思っていたが、意外にも自由に動いているらしい。

「公式には未帰還となるだけだが……。それで各国に文句を言われるのは俺たちだ。やってられんよ。もし興味本位だというのなら、やめておいたほうがいい」

「分かった。気を付ける」

「そうしてくれ。それと、他にも聞きたいことがあるんだったな? 村の場所と言っていたか?」

「カステル村。地図はある。これ」

フランが、アマンダに貰った地図を取り出し、ウィリアムに見せた。

「確かにカステルとあるな……。少々待ってくれ」

ウィリアムが書棚から薄い本を取り出して、ペラペラと捲り始める。どうやら、この大陸の地図をまとめた地図帳のような本であるらしい。

「こちらに記載はない……。違法村か……」

「違法村?」

「ああ、そうだ。ゴルディシア大陸の内部には、犯罪者や世捨て人、逃亡奴隷によって作られた村や町がいくつも存在している。カステルは、その内の1つだろう」