軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

762 綺麗で退屈な港

割り当てられた宿舎に向かう途中、俺たちは管理委員会について尋ねてみた。顧問のウィリアムに手紙を届けなくてはいけないが、どこにいるかも分からないからだ。

「管理委員会の場所? それなら、ここの港にもあるぞ。各港に支部があるからな」

「顧問っていう人は、どこにいる?」

「顧問? さて、そこまで詳しい内情はわからんなぁ」

となると、支部に行って聞いてみるのが一番早そうだ。

「支部なら、港の中央にあるから、すぐに分かると思うぞ。支部自体は大してデカい建物ではないが、看板が出ているしな」

「大きくないの?」

「ここでは権威を見せつける必要もないし、質実剛健という感じだ。文官ばかりで、戦力もさほど持っているわけではないしな」

「兵力がない?」

「ああ」

ブルネンが、管理委員会について軽く説明してくれた。

「管理委員会の主な仕事は、ゴルディシア大陸の各施設の管理保守。それと、ゴルディシア各地からもたらされる情報の取りまとめに、それを利用しての戦力の振り分け。まあ、そんなところだな」

管理委員会の人員は各国から派遣された文官が多く、自前の武力をほとんど持っていないらしい。せいぜい護衛戦力が少しある程度であるそうだ。ゴルディシア送りにされた重犯罪奴隷の管理なども行うが、それは専用の下部組織があるという。

ゴルディシア大陸で戦い続ける戦士や騎士の集団だと思っていたが、管理委員会自体は自前の戦力をほとんど持たない組織であるらしい。

「顧問というのは、長年管理委員を務めてきた人間が就く役職だな」

ゴルディシアに長期間滞在するというのは、普通の人間にとっては厳しいことである。それが、鍛えていない文官や一般兵士であればなおさらのことだ。

そこで、委員会の人間は数年で入れ替わるのが普通である。ただ、中には、遣り甲斐や使命感、他の理由でゴルディシア大陸に残り続けることを希望する者がいた。

やる気もあって、仕事の経験も豊富となれば非常に有用な人材であるが、そんな人間が増え続けると困ることもある。

委員会の人員が入れ替わらなくなってくると、各国が人員を送り込めなくなるのだ。つまり、ゴルディシアの責務を果たす際に、文官の派遣でお茶を濁せなくなる。小国の中には困る国も多かった。

そんなこんなで組織と各国の間で駆け引きが行われ、長期滞在希望者のための顧問という役職が設けられたらしい。

「お、宿舎が見えてきたぞ」

「……あそこ?」

「ああ、そうだ」

「お屋敷?」

フランが呟いた通り、ベリオス王国に割り振られた宿舎は、想像とは全く違うものだった。

少人数用の宿舎だと聞いていたので、こぢんまりとした田舎の宿屋みたいなものを想像していたのだ。港の周囲にある宿舎は、質素で地味で、正にそんな感じだったしね。

それが、現れたのはどう見ても貴族のお屋敷だ。サイズは確かに小さめだけど……。

「今年もここか。それとなく、グレードを落としてくれと頼んだんだが……」

ブルネンがそう言って苦笑いをした。

どうも、委員会側がウィーナレーンに気を使い、毎回ここが宛てがわれていたらしい。

ゴルディシアでは権力が意味を成さないと言っても、さすがに大国の王族や、それに連なる人間を一般宿舎というわけにはいかない。高位の貴族用の宿舎や特別室が存在している。

目の前にある屋敷は、そういった者たちと供回りに貸し出される特別な宿舎だった。まあ、ウィーナレーンは世界でも指折りの実力者だし、特別扱いは当然なのかもしれない。

一応、今回はウィーナレーンがいないということは伝えてあったらしいが、半ば慣習のようにこの宿舎が貸されてしまったようだった。

「仕方ないか……。一応、俺も貴族と言えば貴族。おかしくはないしなぁ」

ブルネンはこれでも伯爵である。小国の侯爵並の扱いでもおかしくはないらしかった。

「部屋は用意しておくから、後で文官に聞いてくれ」

「ねえ、管理委員会とか、冒険者ギルドに行ってきていい?」

「構わんぞ。出陣は4日後になるだろうから、それまでは好きにしていてくれ。ただ、遅れないでくれよ?」

「わかってる」

「ああ、他の国と揉めたら、ウィーナレーン殿の名前を出してくれればいい。それで大概は引き下がるからな」

揉め事を起こすなではなく、揉めたらウィーナレーンに押し付けろってことか。

「わかった」

「できれば、揉めないでくれるのが一番だがな……」

フランが勢い良く頷いたことで、ちょっと不安になったらしい。釘を刺されてしまった。

最後まで不安そうだったブルネンに見送られたフランは、早速港へと引き返す。普通、これだけの規模の港であれば荒くれ者が闊歩しているのだろうが、ゴルディシアではそういった輩はほとんどいない。

騎士や兵士が多く、冒険者などもあまりハメを外さないように気を使っているのだろう。

屋台なども存在しておらず、広くて綺麗な港が見渡す限り続いていた。

ゴルディシア大陸なんて、常に抗魔との激戦が繰り広げられる修羅の巷みたいなイメージだったのだが……。

各国の軍隊が駐留している港は、むしろ対極の場所であるらしい。

ただ、それも仕方ないだろう。

「ドワーフ」

「オフ」

俺たちの目の前を、ドワーフの戦士たちが黙々と進んでいく。しかし、ドワーフばかりだ。ドワーフの国とかから来たのか?

しかも、どいつもこいつもかなり強そうだ。フランが目を輝かせている。

無駄口を叩かずに綺麗に整列し、行進するように歩く様子は、正に軍隊といった感じだ。あんなのがうじゃうじゃいるような場所で、犯罪を起こす馬鹿はいないだろう。

しばらくドワーフの行進を見ていたフランだったが、すぐに飽きたようだ。ただ歩いているだけだからね。仕方ない。

「……つまんない」

「オン」

結局、その後も絡まれることも、屋台で足止めをされることもなく、短時間で管理委員会の建物へとたどり着いていた。

宿舎から15分もかからなかったんじゃないか?

ブルネンが言っていた通り、2階建ての地味な建物である。木造で、看板がなければ宿屋とでも思ってしまいそうなサイズだ。

『とりあえず、顧問のウィリアムがここにいるかどうか、聞いてみよう』

「ん」