軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

738 デミトリス流奥義

必殺の同時攻撃のはずだった。しかし、予想していた手応えはなかった。回避された? それともすり抜けた?

『くっ!』

悩む暇もなく、攻撃の気配を感じた俺は、慌てて転移を発動した。俺たちがいた場所に、魔力弾が突き刺さるのが見える。

ヒルトがさらに追ってくることも警戒したが、その様子はない。

改めて確認すると、そこには半身の構えでこちらを睨みつけるヒルトがいた。右腕は深々と斬り裂かれ、左腕は半ばから圧し折れている。

さらに、その両目と鼻からは、おびただしい量の血が流れ出しているのが分かった。

しかし、立ち位置は先程までと全く変わっていない。あれで、どうやって俺たちの攻撃を躱した?

《個体名・フラン、個体名・ウルシの攻撃を見切り、体を半回転させながら攻撃を往なしたと思われます》

やったことは単純で、体を反時計回りに回転させながら、右手で俺の刀身を受け流しつつ、左肘を使ってウルシの突進を逸らしたらしい。

《デミトリス流奥義・天による身体能力強化があれば不可能ではありません。成功率、推定20%》

『ヒルトは賭けに出て、勝ったってことか』

《是。ただし、完全に往なしきることはできず、腕にダメージが残った模様》

とは言え、俺たちの必殺の攻撃をあの程度のダメージで回避されるとは……。

『あの血涙と鼻血は、見切りの代償か?』

《デミトリス流奥義・天を使ったことによる反動と推測》

『ナイトハルト戦で、あんなことになってたか?』

《消耗、代償が非常に大きい技である可能性が大。二日間では消耗が癒えておらず、その反動が前戦を上回っていると思われます》

どうやらデミトリス流の奥義は、俺たちの潜在能力解放に相当するような、諸刃の剣であるらしい。

短期間で連続で使えば、寿命が削れていてもおかしくはないだろう。それでも、ヒルトは勝ちたいのだ。凄まじい執念だった。

フランもそう感じたらしい。

「……すごい」

尊敬の念すら感じる声で、そう呟いていた。

両者の視線が絡み合う。だが、ヒルトは、動かない。

奥義の消耗で動けないのか。それとも待ちの戦法に切り替えたのか。未だにその身には、奥義による莫大な気を纏っているが、ダメージは大きい。

特に、天断によって深い傷を穿たれた右腕は、ほとんど再生していなかった。神属性の効果である。

必殺の攻撃を回避された俺たちだったが、まだ有利なことに変わりはない。フランが気合を入れ直した表情で俺を構える。

(師匠、カンナカムイ!)

『了解! ウルシは影に!』

(オン!)

俺は勝利を手繰り寄せるべく、カンナカムイを多重起動した。ディアスさえ瀕死に追い込んだ、切り札の一つだ。白い雷が絡み合いながら、ヒルトに降り注ぐ。

だが、ヒルトは回避する様子を見せなかった。半身で構えたまま、降り注ぐ雷に対して傷ついた右腕を振り上げる。

あれで防御しようというのか?

「あああああああ!」

ヒルトの右手から放たれた気の塊が、カンナカムイとぶつかり合う。ほんの一瞬、拮抗したかと思われたが、すぐに雷鳴の勢いが勝り、白い閃光がヒルトを飲み込んでいた。

ドゴオオオォォオッォォッン!

ディアス戦と同じ様に、爆風と轟音を伴い、雷鳴が結界内を荒れ狂う。

爆心地にいて、タダで済むはずがない。これで勝利したかどうか分からないが、確実にダメージはあるはずだ。

(いく!)

『おう!』

ここで決める。フランの顔に決意が浮かんでいた。勝利を掴むため、雷鳴と爆風を割って駆け出そうとした、その時である。

ゴキャ!

「うぐ!」

鈍い音とともに、フランの足首が唐突に潰れた。そう。潰れたのだ。まるで、目に見えない巨大な万力で挟み込まれたかのように。

フランがバランスを失い、つんのめるように前に倒れ込む。

俺は咄嗟に念動で支えつつ、さらに障壁を全開にした。同時に凄まじい衝撃が障壁を揺らす。

『ヒルトの空握だ!』

間違いなかった。この状況で、攻撃し返してきたのだ。それだけではない。

『くる――』

未だに暴れ狂うカンナカムイの余波の中、ヒルトの気配が一直線に向かってくるのが分かった。凄まじい速度だ。

「はぁぁぁ!」

「!」

俺の注意喚起も間に合わず、気付いた時にはヒルトが真正面にいた。

鬼気迫る表情のヒルト。その全身は、満身創痍と言ってもいい状況だ。

爆発による火傷。飛散物による打撲や裂傷。その美しい顔の右側3分の1程は焼け爛れ、右の目蓋も眼球も焼け落ちて存在しない。それでいながら未だに美しいと感じてしまうのは、彼女の発する圧倒的な存在感ゆえだろうか。

カンナカムイに対して突き出されていた右腕も、すでに肩口から先がなくなっていた。

あれは、カンナカムイを防ごうとしたのではなく、もう動かない右腕を盾にして、自身を生き残らせるための行動だったのだ。

命さえあれば、逆転の目はある。そう考えたのだろう。あえて相手の大技を食らい、油断を誘う。格上のヒルトが、格下のフランに対して仕掛けるとは思えない、なりふり構わない作戦だった。

ナイトハルト戦での消耗で全力を出せないヒルトは、最初から押し込まれる展開も覚悟していたのかもしれない。

全ての治癒力を左腕に集中させたのだろう。すでに骨折は治っている。

今日一番の速さを前にして、フランが息を呑むのが分かった。

「デミトリス流奥義・龍っ!」

奥義という割に、その動作はシンプルだ。腰を落とし、引き絞っていた左の掌底を、螺旋を描くように捻りながら突き出す。

ただし、全てが超神速であり、突き出す手の平に神属性が集中していたが。

奥義・天による強化から繰り出す、全身全霊をかけた神属性の一撃。単純にして、最強。それがデミトリス流奥義・龍の正体だった。

もしかしたら、天の消耗の激しさも、神属性のせいなのかもしれない。

ヒルトの掌底が俺の障壁を容易く破壊し、フランの腹部にめり込む。

ドゴン!

人間を殴ったとは思えない重低音が響き、フランが水平に弾き飛ばされていた。音速を超えたとさえ思うような速度で飛んだフラン。

結界に叩きつけられれば、それで死んでしまうかもしれない。しかし、結界とフランの間に、黒いモノが割って入る。

「――!」

「ギャゥ……ッ!」

ウルシであった。その身を盾にして、フランを守ろうとしたのだ。堅い結界よりはマシだったろうが、フランもウルシもタダで済むはずがない。

声にならない悲鳴を上げるフランの全身から、骨の砕ける音が聞こえていた。口からは血液と胃液を噴水のように噴き出す。

ウルシも同様だ。いや、衝撃を受け止めたウルシのほうが、より酷いかもしれなかった。四肢を折って蹲り、不規則な呼吸を繰り返すことしかできない。

「ガッ……ブフ……」

『ウルシ! これ以上は危険だ! 影で傷を癒せ!』

(クゥ……)

これで、ウルシは戦線離脱。高速再生があれば数十分程度で回復するだろうが、この戦いの最中に戻ってくるのは難しい。

フランも死ななかっただけで瀕死だ。しかし、フランは倒れはしなかった。

「ぁ……ぐ……」

焦点を失った目が、それでもヒルトの気配がするほうを見ている。フラフラとした足取りで、前に出るフラン。

俺を握る手には僅かながらに力が入る。

『フラン! 瞬間再生を使えるか!』

(まだ……まだ……)

しかし、俺の言葉が聞こえていない。意識が朦朧としているようだ。治癒魔術を使うが、神属性のダメージは治りが遅い。再生も併せなければ、危険域を脱するまでにかなりの時間がかかるだろう。

(か……つ……)