作品タイトル不明
737 同時攻撃
「はぁぁ!」
『サンダー・ボルト多重起動!』
フランが物理、俺が魔術で、間断なく攻撃を続ける。しかも、攻撃の手はそれだけではない。
「ガルォォ!」
ウルシが常にヒルトの背後を取り続け、暗黒魔術で牽制を行なっているのだ。
しかし、未だにヒルトはまともにダメージを受けてはいなかった。
シビュラのような、超防御力を持っているわけではない。いや、シビュラに比べたら誰だって紙装甲になってしまうだろう。一般的に考えれば、気を鎧のように纏うヒルトの防御力は、十分に高かった。
そもそも素手で戦う以上、自分の防御力を高める技は必須である。魔獣の中には火炎や雷、毒を纏うものも多いからだ。対策もせずに殴れば、それだけで大ダメージを食らってしまうだろう。
実際、俺を通して伝わっているはずのフランの黒雷も、まともにダメージを与えているようには思えない。今の俺は、強力なスタン警棒のようなものだ。ゴブリンくらいはあっさり昏倒させる。
しかし、ヒルトの気の守りを前にして、黒雷も効果を発揮しているとは言い難かった。多少なりともヒルトの魔力消耗を促すような効果は出ているだろうが、それだけである。
ただ、それ以上に、その圧倒的な技量が厄介であった。俺たちの繰り出す全ての攻撃を、完璧に捌かれてしまっているのだ。
フランの斬撃を阿修羅の魔力腕を使って打ち払い、俺の魔術は空握で潰し、ウルシの牽制は背後に目でもあるのかという超反応で躱す。
高速で動き回りながら、こちらの攻撃に完璧に対処し続けるその技量は、敵ながら見とれてしまいそうになるほどだ。
ナイトハルト戦の消耗が残った状態で、これだけやるとは……。肉体操作法を使いこなすフランのほうが、最高速は上だ。そんな自分よりも速い相手を相手にしていても、崩れる様子は見せない。
「せっ!」
「あぐっ!」
しかも、時おりカウンターを放ってくる。体内まで響く浸透勁は、スキルや魔術で身体能力を高めているフランであっても、動きを鈍らせざるを得ない厄介な攻撃だ。
ヒルトもなんらかの武技によって傷を癒しているようで、互いに目に見えたダメージは残っていない。これだけの激戦で互いのダメージがほとんどないというのは、珍しかった。
「たぁぁぁ!」
「ちぇりゃぁぁ!」
互いの武器がぶつかり合うたびに、凄まじい轟音が鳴り響く。
ヒルトの武器もかなりの業物だな。俺と幾度も打ち合わされているのに、大した傷も付かないのだ。
(師匠、ヒルトの足を止められる?)
『やってみよう。ウルシはその後、フランに合わせろ』
(オン!)
俺は、知恵の神の加護から力を引き出しながら、形態変形を発動した。
『よし! やっぱりだ! 今まで以上に、使いやすい!』
魔力の制御が向上することで、形態変形の制御もまたやりやすくなっている。これなら、今まで以上に精密に俺自身を操ることができるだろう。
『おおらぁぁ!』
俺の飾り紐が20本に分裂する。太さは綱引きの綱と同じくらいだ。細い鋼糸では、ヒルトの防御を突破できるとは思えない。そこで、俺がイメージしたのは槍であった。
変幻自在の20本の槍が、四方からヒルトに迫る。これだけ太ければ魔力も十分に伝導させることも可能だし、威力は相当なものだろう。そこらの駆け出し槍士の技なんか目じゃないのだ。
「こんなことまで!」
ヒルトは一目でその危険性を看破し、俺の槍を回避する。紙一重で避けたのはさすがだが、本当にそれでいいのか?
『ここだぁ!』
槍でありながら飾り紐でもある槍は、直後には大きくしなり、鞭のように変化した。イメージは、アマンダの鞭術である。まあ、足元にも及ばんが。
俺の操る20本の槍は、20本の鞭と化してヒルトに襲い掛かった。
「くぅ!」
鞭術スキルも持たない俺の攻撃では大したダメージではなかったが、遂にヒルトのバランスが崩れた。しかし、念には念を入れよう。
『アース・ホール!』
俺はヒルトの足下に大地魔術で大きな穴を空けた。突然、足元の大地が消え、ヒルトの目が軽く見開かれる。それに加え、俺は念動と風魔術でヒルトの体を穴に落ちるように押さえつけていた。当然、鞭もまだヒルトを追っている。
しかし、ヒルトが穴に落ちることはなかった。
足の裏から魔力を勢い良く吹き出し、一気に後方へと跳んで落下を回避したのだ。かなりの勢いがあり、俺の念動も振り切られてしまった。迦楼羅の効果だろう。
素晴らしい動きだ。だが、ほんの僅かな俺とヒルトの攻防の間に、フランとウルシの準備は終了していた。
フランが強烈な殺気を放ち、まるで必殺技を放つかと思わせる。
危険を感じたヒルトの意識が、ほんの僅かにフランに偏る。しかし、それはフェイクだった。
「ガルオオオォォォォッ!」
ヒルトがフランに気を取られた直後、その背後からウルシが襲い掛かったのだ。一分の濁りもない深い闇を全身に纏ったウルシが、フランすら上回る速度で、ヒルトに突進した。
暗黒魔術ダーク・エンブレイスの効果で、今のウルシは脅威度Bの魔獣の中でも上位に位置するレベルの身体能力を得ている。その攻撃が直撃すれば、ヒルトであってもただでは済まない。
「っ!」
この状況でも、ヒルトは焦ることなく対応しようとしているのが分かった。ウルシに背を向けたまま、何かしようとしている。
しかし、フランがそれを黙って見ている訳がない。ヒルトを追うように跳んだフランが、俺を大きく振りかぶった。
「天断」
前門の黒天虎、後門の暗黒狼。どちらも、直撃さえすればランクA冒険者の命を奪うだけの威力がある。
絶体絶命の状況だ。
しかし、この期に及んでヒルトの顔に焦りの色はなかった。それどころか、どこか晴れやかとさえ思える表情で、自分に向かって振り下ろされる俺を見つめていた。
諦めた?
そんな訳がない。
そうではなく、これは覚悟を決めた表情だった。
「るああああぁぁぁぁぁぁっぁぁ!」
ヒルトの全身から、凄まじい量の魔力が噴き上がった。ナイトハルト戦で使った、奥義か? 確か、天という名前だった。だが、もう遅い。
ウルシの突進とフランの天断が、同時にヒルトに直撃――。
『えっ?』
「!」
「ガルッ?」
確かに捉えた。そう思った直後、フランは手応えを失ってたたらを踏んだ。
目標を見失ったウルシが俺たちの脇を抜け、結界に叩きつけられるのも見える。
何が起きた?