軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

727 ディアスの本気さ

元々のだるさに加え、覚醒を強制解除された反動によりフランの動きは目に見えて悪くなっていた。

ステータス面――特に素早さでの優位はもう失われているだろう。

対するディアスの動きは流麗で、洗練されている。無駄がないわけではない。その無駄さえも、誘いとしてあえて残しているのだ。

(師匠、すり抜けるやつ!)

『おう!』

フランの指示に従い、ディメンジョンシフトを発動する。これで攻撃を無効化し、一度仕切り直す。そう思っていたのだが――。

ディメンジョンシフトを使った直後、フランがその首を思い切り捻った。

「ぐっ!」

同時に、フランの鼻から大量の血が噴き出す。どうやら鼻に向かって剣を突き入れられそうになり、間一髪躱したらしい。それでも完全には避けられず、鼻の穴の入り口を切り裂かれたのだろう。

「その術は何度か見た!」

「むぅ……」

ディメンジョンシフトは対策済みか! 時空属性の武器はレアだが、ディアスなら用意できるかもしれん。時空属性と生命属性を持った短剣? それとも二刀流か? いや、傷は治らないし、同じ剣だろう。

『フラン、大丈夫か?』

「血、止まらない……ズズ」

再生が阻害されているせいで、回復が始まらない。ヒールも効かなかった。フランはボタボタと垂れる血を、すすり上げているが、その程度で血を止めることはできない。

再生阻害が有効な数分は、痛みと血の匂いで嗅覚が低下することは間違いないだろう。

幻像で誤魔化せるとはいえ、獣人の嗅覚を厄介だと考えたのかもしれないな。

それにしても、少女の鼻の穴に躊躇いなく短剣を突っ込みにくるとは……。改めてディアスの本気度が分かる。

覚醒を強制終了された影響でフランの体内魔力が乱れている、この試合中は覚醒を再使用できないかもしれない。しかも嗅覚を奪われ、相手の武器の能力も分からず、すでに幻像魔術で翻弄されかけている。

今のまま接近戦を行なうのはやはり分が悪いか? フランもそう考えたらしく、魔術を放ってディアスを牽制しようとした。

だが、その魔術が大きくディアスを逸れていく。フランが放った雷鳴魔術と火炎魔術が大きく狙いを外れて、ディアスの真横を通過していったのだ。

「え?」

『フラン、どうした!』

(わかんない!)

ディアスが何かした?

だが、魔力の流れは……。いや、幻像魔術で幻惑されている今、感覚は当てにならないかもしれない。思考誘導、視線誘導は俺の耐性スキルで防いでいるが、それがなくてもディアスの幻像魔術は十分に厄介だ。

やはり、このまま張り付かれ続けるのは危険だろう。

フランだけではなく、俺も魔術を放つ。だが、今度も狙いが大きく逸れた。絶対に何かされている! だが、なんだ? 何をされている?

その間にも、ディアスの攻撃によってフランの足に傷が増えていく。再度ディメンジョンシフトを発動させたが、同じだった。

ディアスが狙ってくるのは足か眼か、心臓、そこばかりだ。確実に有効なダメージを与えようと言うのだろう。

『転移で距離を取るぞ!』

(ん!)

俺は咄嗟に転移を発動させていた。追ってくるかと思ったが、ディアスが驚いた顔をしている。

フランが転移するとは思っていなかったらしい。もしかしたら、転移封じの道具でも持っているのかもな。だが、俺は封印無効を持っているのだ。

ウィーナレーンの時のように、時空魔術を直接妨害されたりすれば意味はないが、封印系の能力や魔道具は俺には効かない。

ただ、今回もおかしい。俺は舞台の一番端に逃げたつもりだったのだが、空中に跳んでしまっていた。やはり狙いが逸れてしまうらしい。

まあ、ここのほうが次の行動に移りやすいし、結果オーライだろう。

『フラン。プランBだ!』

(ん!)

『フランはアレを頼む』

(わかった!)

先日のディアス対アッバーブ戦。アッバーブは敗北したが、大きなヒントを残してくれていた。特にその戦法だ。

幻惑されて主導権を握られる前に、回避不可の広範囲技で勝負を決める。それは、俺たちでも有効なはずだ。アッバーブは毒対策をされていたが、それが難しい攻撃を放てばいい。

「たああ!」

フランが次元収納を開くと、そこからは赤熱した大量の液体が溢れ出す。それは、モルドレッド戦の最後に収納した溶岩であった。

ドバドバと流れ落ちる溶岩は、まるでパンケーキの上に垂らされたメープルシロップのように、舞台の上をあっという間に覆い尽くしていく。

ディアスは土魔術でバリケードを作って防いでいるが、俺たちの目的である足止めは成功していた。

それに、溶岩のもたらしたものは足止め効果だけではなかったのだ。

(なんか、消えた)

『幻像魔術を舞台や結界に仕掛けてたんだ!』

多分、幻像魔術を使って舞台の高低差を僅かに変化させたり、結界越しに見える観客席の光景を歪めていたのだろう。そうすることで、俺たちの遠近感を狂わせていたのだ。魔術が逸れた理由もこれだろう。

その距離感幻惑用の幻像が、溶岩によって破壊され、消え去ったのだ。

開始直後から、これほど大掛かりな魔術を使っていたとは思わなかった。ディアスの魔力隠蔽が上手過ぎて、全く気付けなかったのだ。

『フラン、魔術で牽制だ!』

「ん!」

よし! 今度は真っすぐ飛ぶぞ!

「む! 破られたのか!」

ディアスが魔術を剣で切り払いながら、顔をしかめる。嫌がっているな! いや、相手はディアスだ。これさえ演技かも知れん。

向こうの得意分野には付き合わず、やるべきことをやるのだ。

『よっし! いくぞ!』

「ん!」

『カンナカムイ多重起動だぁっ!』

そして、俺の放った3発の極雷が弾け、結界内を白い閃光が覆い尽くした。