軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

728 ディアス戦、決着

暴れ狂う白い極雷が、凄まじい閃光を伴って結界の内部を蹂躙する。

昨年、フェルムスを倒した黒雷と白雷の同時攻撃に匹敵する、超破壊力がディアスに襲い掛かっていることだろう。

防御力に特段秀でているわけではないディアスに、これほどの魔術を防げるとは思えなかった。ディアスの能力的に、得意としているのは囮と暗殺。本来は、狭い闘技場で正面切って戦うような能力構成ではないのだ。

去年は制御を途中で手放したせいで結界を破壊する事態になってしまったが、今年は大丈夫だ。俺がしっかりと制御をしている。威力が無駄に拡散しない分、内部の破壊力はむしろこちらのほうが上だろう。

ただ、そのせいで結界の外には逃げられない。ディメンジョンシフトを使い、爆風や衝撃を逃さねばならなかった。

バチバチという雷撃の弾ける音が鎮まり、白い閃光が収まっていく。

そして、舞台の上には倒れ伏すディアスの姿があった。全身が炭化し、見るからに虫の息だ。

「ぐ……やる、ね……」

そう呟いた直後、その体が輝きを放つ。何度も見たことがある、巻き戻しの光だ。

「かった……ズズ」

『ああ。さすがのディアスも、カンナカムイの直撃は耐えられなかったか』

ディアスの術中に嵌まりきる前に、なんとか勝利を得ることができたらしい。

とりあえず怪我を治さんとな。ずっと鼻血を流しっぱなしというのも可愛くないし。再生阻害の効果はいつ頃切れるんだろうか?

『これは、もしかして勝負が決まったのでしょうかぁ! 何が起きているのか、分かりません! 白い雷が収まった直後、ディアス様が倒れているがぁ!』

なんだ? 勝利宣言じゃない?

「ぐぅっ!」

解説者の言葉に違和感を覚えた直後、フランが真横へと身を投げ出した。

「逃がさない、よ!」

『ディアス!』

なんでだ! あっちに――。

『幻像か!』

倒れていたディアスは幻像であった。ご丁寧に時の揺り籠が発動したように見せかけて、俺たちの油断を誘ったのだ。高度な死んだふりである。

解説者には、時の揺り籠が発動していないのが分かっているのだろう。それなのに、闘技場ではディアスが時の揺り籠で復活したように見えたので、戸惑っていたのだ。

死んだように見せかけてフランの真横に移動したディアスが、逆手で持った短剣をフランの首めがけて突き出していた。

フランはその攻撃を食らう直前、ギリギリで察知して直撃を避けたのである。

だが、完全回避とはいかず、首筋から血が溢れ出していた。頸動脈が切り裂かれることはなんとか避けたが、傷は結構深い。

血をまき散らしながらも、ディアスに向き直るフラン。

「ぐ……。さすがディアス」

「渾身の、一撃を躱しておいて、よく言う」

「その怪我のせいで、僅かに気配が漏れた」

「はは……。この程度の傷で、乱れるとは、僕も耄碌したもん……だ」

ディアスが自らの失敗を皮肉るように笑う。だが、その怪我でまともに動けているほうが驚きだ。

ディアスの全身は黒く炭化し、所々がひび割れて血が溢れ出していた。先程、幻像で作った贋物の負っていたダメージは、本体の怪我を再現した物だったのだ。

この状態で意識を保ち、気配を殺してフランの真横まで気付かれずに近寄ってきたことが驚きである。

「最後、道具に頼るの、は申し訳ないけど……」

『ウルシ! やれ!』

息も絶え絶えなディアスがどこからともなく取り出した水晶玉を見た瞬間、ゾッとするような存在感に気圧された。恐ろしいほどの魔力だけではなく、もっと違う危険が感じられたのだ。

俺は思わず、ウルシに指示を出す。範囲攻撃に巻き込む恐れがあったため、今回は切り札としてずっと温存してきたのだ。

「ガアアアア――?」

「はは、幻だよ」

武器だけは本物であったらしく、舞台に一本の短剣が転がった。治癒妨害と再生妨害の能力を持った武器である。時空属性はなく、あれは他の道具の効果だったのかもしれない。

いつの間に! さっき攻撃してきた時は、絶対に本物だったよな? 幻像に、フランを傷付けることなどできる? いつ幻像にすり替わった?

待てよ、攻撃を仕掛けてきたのは幻像だったのか? 実体のある幻である幻像は、想像以上に膂力があったのかもしれない。

新たに現れたディアスも、同じように全身が炭化している。このダメージは本物なのか?

いや、今はそこを考えるな! こうして相手を混乱させるのも、ディアスの狙いなのだ!

「暴風よ。全てを、滅せよ」

もう隠す必要もないのだろう。ディアスの持っている道具を鑑定できた。精霊の玉。そのまんまの名前だな。効果は、精霊の力を込めておくことで、一度だけその効果を発揮できる。

精霊を封印して使役するのではなく、精霊使いに頼んで、力を込めてもらうような道具であるらしい。

精霊の玉から緑色の光が溢れ出す。それを見て直感した。このままだと、確実に負ける!

圧倒的な精霊の気配があった。これはもしかして、大精霊級の力なんじゃないか?

そうか、クリムトの大精霊! だとしたら本当にマズいぞ!

『ウルシ! フランを守れ!』

「オン!」

『おおおおおおおおおおおぉぉぉ!』

ウルシがその巨体で壁となり、フランを庇う。俺は咄嗟に精霊の手を発動していた。この力であれば、精霊の力にも干渉できるはずなのだ。

以前、一度使ったことで、俺は精霊の手の使い方を理解できている。いつも使っている念動によく似ていることも、俺にとっては幸運だったろう。

精霊の玉を精霊の手で包み、その力を押し込める。いや、だめだ。これは抑えきれない。精霊の手が吹き飛ばされそうになるのが分かった。

ならば、力の流れを操作する。もっと深く、干渉できるはずだ。

《一部、演算を肩代わりします。力の流れを、個体名・ディアスに向ける形で改変。個体名・師匠は力の制御に集中してください》

『頼む! アナウンスさん!』

ディアスの顔が驚愕に歪むのが分かった。

「まさか、精霊魔術、まで……? はは、短期間で、どれだけ……」

直後、精霊の玉が閃光と轟音を放って大爆発を起こした。精霊の力の巻き起こす爆風が、俺たちにも吹き寄せる。

威力の半分以上をディアスに向けたとはいえ、余波だけでも高位の暴風魔術に匹敵するだろう。

「うぐっ!」

「ガボッ!」

踏ん張ることができずに吹き飛ばされたフランをウルシが追い、その体をクッションにして受け止める。ウルシが悶絶しているが、あの程度のダメージなら大丈夫だろう。

そして、数秒間にも及ぶ大爆風が収まった後、そこには肉塊という表現以外が思いつかない、酷い状態のディアスが横たわっていた。手足がもげ、装備品もボロボロだ。

そんな、原型を留めていなかったディアスの体が白く光るのが見える。

さっきの轍は踏まないようにと、未だに警戒を解かない俺たち。周囲の気配を探る。あのディアスは本物か? だが、その警戒心を余所に、解説者の勝利宣言が闘技場に響き渡ったのであった。

『時の揺り籠が、発動しました! 今度こそ、間違いなく黒雷姫フランの勝利です!』