軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

721 Side シビュラ 上

不幸自慢をするつもりはないんだ。だが、私ほど数奇に満ちた人生を歩む人間は、それほど多くはないんじゃないかと思う。

いや、そもそも私を『人間』と括るなと言われるか?

私が生まれたのは、今から数十年も前らしい。私自身はそれほど長生きした記憶がないので、実感はないが。

場所は、空に浮かぶ島。レイドス王国の秘密実験場だった場所だ。

そこでは、ありとあらゆる非人道的な実験が日々行われていたが、私もそんな実験体の1人だった。

キメラという、人造の怪物がいる。魔獣を複数体合成し、最強の魔獣を作り上げようという頭の悪い計画の産物だ。結局、暴走していくつもの国を滅ぼしたわけだが、自分たちなら大丈夫だという根拠のない自信の下、浮遊島では密かに研究を続けていた。

奴らは様々な研究の末、暴走するのは魔獣が主体だからだ! 人間を主体にすれば、きっと暴走しないに違いない! そんな結論に達したらしい。

超人生産計画。名付けた奴の安直さを笑えばいいのか、実際に実行に移した奴らの狂い具合を心配してやればいいのか。

ともかく、そんな名前の人魔合成実験が行われ、幾百もの失敗の末に、私が生み出された。

私が造られる前にも、血を合成したり、魔石を埋め込んだり、色々と馬鹿なことを繰り返したようだ。

唯一の成功例が私だけというのもうなずける愚かな行為。その私からして、最終的には失敗作扱いされたからな。

私の場合は、成長した人間に魔獣の力を混ぜ込む方法ではなかった。母親の胎内で人の形になる前、その段階で龍とスライムの因子を混ぜ込むという方法が使われたらしい。

龍の力と、スライムの再生力を期待されていたのだろう。

しかも、特殊個体の出産に耐えうる母体として選ばれたのが、特殊なアンデッドであった。生きた人間に怨念を注ぎ込むことで、知性ある強力な死霊を生み出すという狂気の実験。その産物として生み出された、アンデッドだ。

ギリギリ理性を保っていたアンデッドの腹を借り生み出された、人と龍とスライムの因子を持って生まれた赤子。

それは果たして人なのだろうか?

しかも、その子供には望まれていただけの力は宿っていなかった。生まれつき再生能力を持ち合わせていたものの、成長が多少早い以外は人とほとんど変わらなかったのだ。

数年の人体実験の後、失敗作と判断された私は、違う研究へと回されることとなる。それが、冷凍睡眠実験。なんでも、人間を凍らせることで、長期間でも老いずに眠り続けられるようにする実験であるらしい。

こちらも成功例はなかったそうだが、私の持つ再生能力に着目したようだ。僅かでも再生能力を持っていれば、冷凍からの復活が可能なのではないかと、そう考えたのだろう。

棺に入れられ、ヌルヌルする変な水を注ぎこまれた時のことは、微かに覚えている。

まあ、この当時の記憶は、ほとんど覚えてはいないがな。恐ろし気な研究者たちと、地獄にあっても優しい同胞たち。それらを断片的に思い出せるくらいだろう。

その後の浮遊島のことは、私も知らない。ただ、集めた情報によると、私が冷凍された十数年後、浮遊島はダンジョン化してしまったようだった。

その時、浮遊島の研究者が死の直前に地上の研究所へと転送した僅かな研究資料の中に、私も混じっていたのだ。

だが、国の混乱の中で、私は長い間放置されることとなる。私がただの死体ではなく、冷凍睡眠実験のサンプルだと理解され、解凍が試みられたのは僅か10年前のことだった。

そして、そこでも私は失敗作扱いされる。内部の解凍が不十分だったせいで、生きる屍状態であったのだ。

結果として、私は廃棄された。どうも、解凍を行なった研究者たちは、功を独占するために秘密裏に私を持ち出したらしく、失敗作である私を手元に置いておくのは危険だと判断したようだ。

普通であれば殺して埋めれば済むことだが、その若い研究者たちは躊躇した。散々、切って開いて細切れにしておいて、殺すのは良心が咎めたらしい。馬鹿なのか?

さんざん悩んだ末、奴らは私を捨てることにした。それも、ただそこらに放り出したのではない。

元A級魔境『蟲の狂宴』。元なのは、冒険者ギルドの管理下を離れたからだ。その危険度は、当時ではそれ以上となっていた。

簡単に言うと、幅が30メートル、長さ2キロメートル。深さ100メートルほどの、深い大地の亀裂である。その中には、何十種類もの蟲型魔獣が生息し、入ったモノに群がり、食らい尽くしてしまうのだ。

私はそこに捨てられた。捨てられたというか、放り込まれた。とは言え、この時はまだ生きる屍状態。記憶もなく、後からその研究者共を見つけ出し、語らせたんだがな。

実際、私の記憶がハッキリしているのは、その直後からだった。

全身を苛む、凄まじい激痛。

それが私の意識を覚醒させた。

見ると、全身に何百という小さな蟲が纏わりつき、私の肉を食らっている。

なぜ? 私がいるのは、どこか狭い隙間だ。確か棺に入れられて――。

しかし、痛みでそれ以上何も考えられない。

痛みにのたうち回る時間がどれだけ過ぎただろうか。多分、数日は経過しただろう。

なぜか私は死なない。食われた端から、肉が再生していくのだ。何故?

そうしているうちに、次第に痛みに慣れてきた。相変わらず蟲どもが群がっている。奴らにとっては、無限に再生する餌のようなものなのだろう。

しかし、何故? 私の再生能力程度では、ここまでの高速再生は無理だと思うんだが……。血が止めどなく流れ出し、私の全身を濡らしている。生きているのはおかしい。

そういったことを考えることができる程度には余裕ができ、私は自分の状況をようやく理解することができた。

どうやら、岩にできた深い亀裂の中に入り込んでいるようだ。自分の血だと思っていた液体は、湧水であったらしい。

水か……。そう思った直後、凄まじい渇きが私を襲った。そういえば、何日も何も口に入れていない。

水に必死に手を伸ばし、手についた水を舐めとる。ああ、水だ。僅かに口が濡れただけで、凄まじいほどに活力が湧く。水というのは、これほど重要な物だったのか……。

まあ、結論から言うと、ただの水ではなかったのだが。それは、特殊な事情によって豊富な魔力を含んだ、マナポーションに近い魔水だったのだ。

私の再生が無限に発動し続けたのも、その水に体を浸すことで魔力を補給しつづけられたからだろう。

ただ、その時の私は水に感謝し、ひたすら舐め続けていたが。

喉の渇きが癒えると、次は空腹だ。だが、食べられるものなどない。いや、あった。

私は自身の血肉を食らって丸々と肥えた蟲を手に取ると、そのまま口に放り込んだ。臭くて不味い蟲を、必死に咀嚼する。ああ、不味い。

しかも、急激な腹痛だ。やはり食べてはいけないものだったか。それでも、私は死ななかった。再生様様だ。

死なないのであれば、食べられる。そもそも、死んだところで、どうということはない。毒で死ぬか、蟲に食われて死ぬか、餓死するか。大して違いはないのだ。

そうして私は、蟲を食い続けた。ムシャムシャと。一心不乱に。