軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

714 勝ち上がる猛者たち

『フラン、頑張ったな』

(ん。モルドレッドの真似してみた)

『まだまだ練習しなきゃならんし、経験も必要だろう。だが、それでもああいう勝ち方を選ぼうって思えるのがえらいぞ』

(ほんと?)

『おう! 相手をぶちのめすだけが、勝利じゃないからな』

(ん!)

モルドレッドとの戦闘は、俺の想像以上にフランに色々な影響があったらしい。

何せ、俺でさえ大技をぶち込むと予想していた場面で、搦め手を使ったのだ。すぐにそういう思考が身に付くわけではないだろうが、力押しだけではなくなったら、より戦闘の幅が広がるだろう。

これは、将来的に、フランにプラスになるはずだ。

まだ付け焼刃の戦い方だが、いつか使いこなせる日もくるだろう。そんな日が楽しみである。

『さて、次の戦いの相手が誰になるか、キッチリ見ておかないとな』

(ん)

次の試合の勝者が、フランと準々決勝で対戦することになる。

そして5分後。

「やっぱりシビュラ」

『だなぁ』

相手はエルザに憧れているという巨漢のメイス使いだった。メイスの破壊力は、かなりのものだろう。シビュラはそんな破壊力自慢相手に一歩も引くことなく、正面から攻撃を叩きつけ合い、1分もかからずに勝利していた。

まさか、あの巨大メイスを使った武技の直撃を受けて、一歩も後退しないとは思わなかった。あれは、ちょっとやそっとの攻撃ではビクともしなさそうだ。今度こそ、本気でいかねばならないだろう。

「……強い」

『おう』

その後、試合は進んでいき、Bブロックの勝者はエイワースの弟子であるアッバーブと、ディアスだ。どちらも危なげない勝利である。ディアスとエイワースは元パーティメンバーのはず。師弟対決まではいかないが、この2人の対決も見応えがありそうだな。

その次が、ヒルトとラデュルの戦いだ。

『これまた対照的な者同士だな』

多彩な魔術で相手を翻弄するラデュルと、力押しの格闘家であるヒルト。

さて、どんな戦いになるだろうか?

単純な腕力や魔力、速度で見れば、ヒルトの勝ちは当たり前に思える。

だが、それだけが勝敗を左右する要因ではない。経験や戦略性の差というのは、武闘大会ではかなり大きいのだ。

『三属性の上位魔術を使いこなす、ラデュル翁が再び多彩な魔術で相手を翻弄し、封じ込めるのか! それとも、ランクA冒険者、穿拳のヒルトーリアが、その圧倒的な力で老魔術師を粉砕するのか! 私には全くわかりません!』

ラデュル、ヒルトが、試合開始と同時に動いた。

「はあぁぁ!」

「むん!」

ヒルトが突進し、ラデュルが背後に飛ぶ。その速度はほぼ同じか?

ラデュルは試合前に、速度を上げる術を使っていたのだろう。多分、風魔術のウィンド・フットだ。

「おぉー」

『ラデュル爺さん、スゲーな』

ラデュルがまるでスケート選手のように、試合場を滑って移動していた。ウィンド・フットの効果だろう。だが、あんな風に制御するのは相当難しいはずだ。俺たちだって、直線的な動きを補助する程度にしか使っていない。

そんな超激ムズの魔術制御を行いながら、さらに次の術のために魔力を練り上げているのが分かった。凄まじいとしか言いようがない。

微細な魔術の制御という一点に関しては、ラデュルが出場者一かもしれなかった。

それにしっかりと付いていくヒルトもさすがだ。鋭い動きで、すぐに距離を詰めていく。

「アース・コントロール!」

「なにを――?」

ラデュルから膨大な魔力が発せられる。それを感じ、ヒルトが警戒を強めた直後であった。彼女の体が宙を舞っていた。

ラデュルが大地魔術で生み出した僅かな段差に、足を取られたのだ。空中で体を捻ってなんとか着地することに成功しているが、体勢が崩れている。

「今の!」

『魔力を隠蔽するんじゃなくて、周囲を魔力で覆うことで細かい変化を見えづらくしたんだ。なるほどな!』

「すごい」

ラデュルが使った術は大地を操るアース・コントロールだ。

ヒルトレベルの人間であれば、魔力の流れで見破ることができただろう。普通の術であれば、だが。

ラデュルは数センチの段差を作るために、舞台全域にアース・コントロールを仕掛けていた。まるで、舞台全てを操って攻撃する大技を仕掛けると宣言するかのように。

だが、実際はほんの少し変化させただけだった。これは、相手の意表を突くとともに、大魔力で少しの魔力を覆い隠すこともできる、非常に嫌らしい手である。

デメリットは、魔力消費が大きいことだろう。

それでもラデュルは、ヒルトの動きを僅かでも阻害できるのならば十分元が取れると判断したらしい。

「ほいさ!」

「ぺぇ!」

継続していたアース・コントロールを使い、ヒルトの足下を泥のプールへと変化させた。跳ねた泥が顔にかかり、ヒルトが顔をしかめている。

どれだけステータスが高くても、踏ん張りが急に失われれば、バランスを崩すのは当たり前だ。そこに、ラデュルが乾坤一擲の攻撃をしかける。

「去年の轍は踏まん! 主のようなタイプには、短期決戦じゃ! おおぉぉ! ハイ・ウェイブッ!」

「これだから老人って油断ならないのよ!」

ラデュルは弱い魔術を使いこなすことで有名だが、大技を使えないというわけではない。普段は、必要ないか、消耗を考えて無駄には使わないだけだ。

だが、勝負どころとなれば、当然その大技を使ってくる。

ラデュルが放ったのは、巨大な波を作り出す大海魔術だった。海などで使えば、船などを転覆させることも可能な術である。

この狭い闘技場で使えば、相手を場外へと押し出すことができるだろう。

高い波の壁が、起き上がったヒルトに襲いかかる。

観客の多くは、このままヒルトが波に飲み込まれ、場外負けになると確信しただろう。だが、次の瞬間にはその予想は大きく裏切られることとなる。

「るあああぁぁぁ!」

「ごがっ!」

ヒルトが放った魔力の弾丸が、波をぶち抜いてラデュルを吹き飛ばしていたのだ。

『ノータイムで、あの威力。ヒルトの魔力放出は、コルベルトよりも数段上だ。あれだけでも、十分に厄介だな』

「ん」

波とぶつかり合ったせいでそれほどの威力はなかったはずなんだが、ラデュルはその一撃で意識を失っている。やはり、肉体的には寄る年波に勝てないってことなのだろう。

『こ、これはぁぁ! ラデュル翁の勝利かと思われたその時! ヒルトーリアの謎の攻撃がその体を吹き飛ばしたぁぁ! さすが、不動の後継者! その強さは、底が知れなぁぁい!』

一見、ラデュルが善戦したように思えるが、ヒルトは全く本気を出していなかった。フランたちのように試合を楽しみたいわけではなく、自分の手の内をできるだけ隠すためだろう。

勿論、その相手はフランである。

勝利したヒルトの視線が、こちらを向いた。やはりフランを意識しているな。