軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

712 ビスコット戦開始

今朝もフランは元気に会場へと向かう。その両手には屋台で買った串焼き肉が装備されているが、これも毎朝のことだ。

宿の朝食も勿論食べている。というか、寝起きに自分の次元収納から色々取り出して食べた。それが何か? フランにとっては串焼きくらい、一般人のクッキー1枚みたいなものなのだ。

「もぐもぐ」

「モムモム」

ウルシはウルシで、出汁を取り終わった後の巨大牛骨をもらって齧っている。スープ屋台のおばちゃんがくれたのだ。

1メートル以上ある骨の真ん中を咥え、甘噛みしているだけで楽しいようだ。

その姿は、長い木の棒を咥えて歩くお馬鹿犬のようで、ちょっと間抜けにも見える。

昨日、フランが褒めてから客足が伸びたとかで、スープもただでもらってしまった。一瞬でフランとウルシの腹の中に消えたが。

結構デカい具材が入ってたと思うんだけどね。

「もぐも……む」

『どうしたフラン』

「あれ」

フランが急に足を止めたのだが、その視線の先には見覚えのある男が立っていた。

「なんとか国のなんとか」

『シャルス王国のエマート子爵な。まあ、覚える必要はないけど』

「どうする?」

『うーん』

明らかに誰かを待っている。それがフランである可能性は高いだろう。

実は昨日、ケイトリーからも少し話を聞けたのだ。その時のことを思い出す。

「シャルス王国? 私のとこにもきた」

「そうなのですね! その人たちが騒ぎを起こすせいで、お爺様も凄く忙しいらしいです。注意しても直らないから、シャルス王国に抗議の手紙を送るって言ってました」

国に抗議文? 想像以上に大事になっているらしい。

「全然約束を守らないらしいです」

「へー。じゃあ、私のとこもまたくるかな?」

「たぶん……。あまりにもしつこくされて、殴っちゃった人もいるそうですよ。相手は貴族ですから、そうなるとギルドも領主様も庇いきれないって言ってました」

「相手が悪いのに?」

「その、勧誘するのは犯罪なわけじゃないですし、相手は貴族なので……」

結局、手を出した側が悪いということにされてしまうようだ。もしかしてそれが目的なのだろうか? あえて暴発させて、有望な選手を失格にする? それか、弱みを握って言うことを聞かせるとか?

「フランお姉様も、お気を付けください」

「わかった」

なんてやり取りがあったのだ。

『とりあえずこのまま進もう。で、エマート子爵がこっちに来たら、転移で逃げる』

「わかった」

『ま、フランが気配消してれば、見つかることはないと思うけど』

競技場に入っていく観客たちに紛れて、エマート子爵とその従者らしき男性の前を通り過ぎる。

案の定、エマート子爵たちは気配を消したフランには気付かなかった。

「あの黒猫族の娘、まだこんのか?」

「もう時間だと思うのですが……」

「ええい! よく探せ!」

やっぱりフランが目当てか。まあ、今後もこうやって逃げていればいいや。どうせ、あと数日でこの町から去るわけだし。

それから30分後。

『今日も第一試合にこの少女が登場だ! 最強の黒猫族、黒雷姫のフラァァン!』

特に控室に邪魔者が現れることもなく、俺たちは闘技場の上で今日の対戦相手と向き合っていた。

つや消しの金属鎧に、巨大なタワーシールドを構えた巨漢の盾士。レイドス王国のスパイ疑惑のある男、ビスコットである。

一回戦を見たが、守りが非常に堅いタイプだ。

『フラン、今日はどうする?』

(……1人でやりたい)

『わかった』

(いいの?)

『なんでダメなんだ?』

(だって、モルドレッドにはそれで追い込まれた)

『命がかかった実戦ならともかく、これは模擬戦だからな。フランがやりたいように戦えばいいさ。それに、盾士と戦ってみたいんだろ?』

(ん)

フランは、これまで高レベルの盾士とサシで戦ったことがない。経験しておきたいのだろう。

だからこそ、全力で瞬殺するのではなく、あえてギリギリの攻防を体験したいと思っているようだ。

『その代わり、慎重にな?』

「ん」

俺としても、ここでビスコットとやりあっておくのはいい経験だと思う。それに、この後の対戦を考えれば、奥の手を温存するのは悪いことでもなかった。

「よお、ダンジョンぶりだな」

「ん」

「冒険者の強さってぇのを、見せてくれよ」

「そっちこそ、その盾が飾りじゃないってところ、見せて」

互いに殺気をぶつけ合う中、フランとビスコットの試合が始まる。

「はああああ!」

「ちぃ!」

覚醒済みのフランが、最初から全速力で切りかかった。その素早さは、さすがのビスコットも対応しきれないらしい。

盾をすり抜け、何発かいい攻撃が入った。金属鎧はかなりの逸品ではあるが、俺たちの攻撃を完全に弾き返すほどの強度はない。

これは期待外れか? そう思ったが、ビスコットはここからがしぶとかった。

「はぁ!」

「浅ぇ! 浅ぇんだよぉ!」

どんな深手を負わせても、全く怯まないのだ。明らかに大量の血を流しているのに、回復を行う素振りもない。どうも、自動再生系のスキルを持っているようだ。

シビュラのようなダメージ無効系のスキルではなく、ただただ頑丈で忍耐力があるタイプである。痛覚無効を持っていないのか、時折顔をしかめる。しかし、それだけだった。

「普段は、巨大な魔獣相手にしてんだ! このくらいの傷、日常茶飯事なんだよ!」

大型魔獣相手に、真正面からガチンコで殴り合いをしているってことか。そりゃあ打たれ強くなるだろう。

現状、フランは無傷なのだが、押しているという気がしない。やはり、ビスコットが全く応えていないからだろう。

「地龍に噛み砕かれて飲み込まれた時の方が、数段ヤバかったぜ!」

「地龍?」

「おう! うちの騎士だ――おっと、なんでもねぇ! ともかく、こっから本番だ! そっちも本気になれよ!」

「望むところ!」

ビスコット、うちの騎士団って言おうとしたよな? やっぱ、レイドスの騎士なんだろう。