軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

691 監視継続

ケイトリーを屋敷に送り届けた俺たちは、冒険者ギルドにやってきた。当然、シビュラたちのことを報告するためだ。

ギルドに入ると周囲の冒険者たちが騒めく。

この都市でフランは有名人だからな。

冒険者はケイトリーのように吟遊詩人の話を真に受けているわけではなく、昨年の武闘大会での活躍を覚えている者が多いのだ。

実際、町などを歩いていると、獣人じゃない冒険者にも憧れの目で見られることがあった。

「あらぁ? フランちゃんじゃない!」

「エルザ」

冒険者ギルドでフランを出迎えてくれたのは、ランクB冒険者のエルザであった。

「久しぶりねぇ!」

「ん。久しぶり」

相変わらずのド迫力だぜ。前の武闘大会でこの漢女にちょっとは慣れたつもりだったが、久しぶりに出会うとやっぱ驚くね。

内股で体をくねらせながら近寄ってくる、赤アフロのムキムキオネェさん。逃げ出したくなっている俺とは逆に、フランが笑顔で挨拶をしている。

「今年も大会に出てくれるのん?」

「勿論」

「それは嬉しいわね! 何せ、今年は昨年の1位と2位が出場できそうもないから」

「そうなの?」

エルザの言葉に、フランが残念そうに聞き返す。頷くエルザも残念そうだ。

「そうなのよぉ! まあ、冒険者なんだし、依頼が優先なのは仕方ないんだけど……。フランちゃんがきてくれてよかったわ」

アマンダはレイドス王国への牽制をしなければならないし、フォールンドはまだ王都かな? それとも、対レイドスの依頼を何か遂行中なのかもしれない。

これってもしかして、優勝のチャンスなんじゃないか? フランは残念がるだろうが、ライバルが一気に減ったのだ。

今年は獣王たちもいないし、去年激闘を繰り広げたランクA冒険者たちの出場がないかもしれない。そうなれば、フランよりも強い人間はそうそういないと思われた。

ライバルになりそうな相手としては、コルベルトとフェルムスだろうか? 強敵に違いないが、すでにフランは彼らに勝利している。あれから1年経ってさらに成長したフランなら、今回も勝てる公算は高いだろう。

まあ、フェルムスに関しては出場するかどうかは分からんけど。去年、確かディアスに頼まれて仕方なく出場した的なことを言っていたはずなのだ。

あと、この都市にきてから出会った中で強いのは、ディアスとシビュラだろう。しかし、ディアスはギルドマスターだし、シビュラはレイドスのスパイ(仮)だ。

彼らが出場する可能性は限りなく低いと思われた。まだ見ぬ強者が現れる可能性もあるが、去年ほどランクA冒険者がひしめき合うようなことはないだろう。

「今日はギルドに何か用かしら? それとも私に会いきてくれたのん?」

「違う」

「そ、そう……」

「ディアスに報告がある。エルザには後で会いに行くつもりだった」

「あらぁ! そうなの!」

フラン、悪い子! 落として上げる高等テクニックだ。エルザが喜色満面の顔で体をクネクネさせている。

「ギルマスなら上にいるわよ。でも、昨日からなんか変なのよねぇ」

エルザがそう言ってぼやく。これは間違いなく俺たちのせいだろう。

「……怒ってた?」

フランが恐る恐る尋ねるが、エルザは苦笑しながら首を横に振った。

「怒ってるっていう感じじゃないわねぇ。ただなんていうか、上の空? 全く仕事が手に付いてない感じ? それでいて、檻に入れられた獣みたいに、妙な唸り声を上げながら部屋の中をウロウロ歩き回ったりして」

「なるほど」

確かに怒っているわけではなさそうだが、何か悩んでいることは確かであるらしい。

「もしかしてギルマスが変なのって、フランちゃんと関係ある?」

「ん」

「そうなの……。とりあえず会うかどうか聞いてみるわね」

「お願い」

「フランちゃんのお願いだったら! なんでもするわよ! ギルマスが嫌だって言っても、引っ張ってきちゃうんだから!」

「ディアスが会いたくないって言ったら、無理しないでいい」

「あら? そう?」

「ん」

なんてやり取りから数分。

俺たちはギルドの階段を上っていた。会いたくないと言われるかと思ったが、普通にディアスに呼ばれたのだ。

部屋に入ったフランを出迎えてくれたのは、どこか苦笑のような表情を浮かべたディアスであった。

年齢の割に若々しい伊達男な爺さんだったはずなんだが、今は年相応に老けて見える。一晩で何やら大分お疲れであるようだ。

「会っていいの?」

「ちょっと迷ったけど、僕に報告があるんだって?」

「ん」

「昨日の話の続きなら、もう少し時間が欲しいって言おうと思ったけど……。報告って言われちゃねぇ? それとは全然違う用件があるってことでしょ?」

ギルドマスターとしては、高位冒険者からの報告を無視するわけにはいかないということであるらしい。

仕事に私情を持ち込むタイプだなんて思ってごめんよ。私情は持ち込むけど、仕事はキッチリこなすタイプであったらしい。

「私は出てましょうか?」

「へいき」

報告した後にディアスが動かす手勢は、多分エルザになるだろう。だったらここで報告してしまう方が、二度手間にならずに済むのだ。

「昨日、西のダンジョンで変なやつに会った」

「変なやつ? どう変なんだい?」

「ん――」

フランはシビュラたちについて、知っていることを全て語る。

バルボラにいたこと、そして今はウルムットにいるということ。かなりの実力者であるはずなのに、冒険者について無知過ぎるというアンバランスさ。そして、レイドス王国の話になった時の動揺。

「……レイドス王国のスパイかも知れない」

「なるほどね……。それは確かに由々しき事態だ。フラン君、そのシビュラという女性たちの居場所は把握してるのかな?」

「町の入り口の方にある宿屋にいる」

俺たちがダンジョンを出た段階で、ウルシが一度報告に戻ってきたのだ。

「なるほど。早速、確認をさせよう」

「今はまだウルシが監視してる。逃げようとしたら、報告にくるはず」

「それは有り難い」

「捕まえるの?」

「うーん……。難しいところだね。相手が雑魚なら拘束してもいいが、君から見ても強いんだろう?」

「ん」

「……下手にちょっかいかけて、町に被害が出るのもね。しかも今は時期が悪過ぎる。ここで変な騒ぎが起きたら、武闘大会に影響が出ちゃうかもしれないだろ? ギルドの威信にかけても、それは防ぎたいんだよね」

「じゃあ、どうするのん? 監視するだけかしら?」

「まあ、そうなるかな。捕縛するのは、大会終了後。それまでは監視するに留める。いざとなれば、手伝ってくれるよね?」

「ん。勿論」

フランはディアスの言葉に、力強く頷く。なんせ、シビュラと戦えるチャンスかもしれないからな。フランが断るわけないのだ。