軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

673 カレースープ

「小娘。よくきたな」

「ん。きた」

料理ギルドにて、フランが1人の老人と向かい合っていた。

昨年もお世話になった、料理評論家の男性だ。海原先生みたいな雰囲気は嫌いじゃない。

まあ、世話になったと思っているのは俺だけで、フランはライバル的な相手であると認識しているが。

それは、不敵な表情で男と向かい合う姿を見れば分かった。

前回の料理コンテストでそれなりに認め合ったはずなんだが……。互いに馴れあうタイプではないし、こうなってしまうのも仕方ないのかもしれない。

老人の名前はメッキャム。料理ギルドの重鎮だ。

「それで、どうだ? 昨日の提案。検討してもらえたのだろう?」

「ん。屋台、出す」

「今年もカレーか?」

「ん!」

「ほほう! それは楽しみだ。あれから1年。このバルボラでもカレー料理の店が爆発的に増えた。もう、珍しさでのアドバンテージは薄れているぞ?」

「ふふん。師匠のカレーはそんじょそこらのカレーじゃない。問題ない」

「それは楽しみだ」

「今年こそ、カレーが世界一だと認めさせる!」

実は、昨日にはバルボラに到着していたんだが、すでに料理コンテストは始まってしまっていた。

元々、時間的にコンテスト出場できるとは思っていなかったので、料理ギルドに顔を出した後は買い食いと料理研究に精を出そうと思っていたのだが――。

去年俺たちが出店した屋台「黒しっぽ亭」は元祖カレー料理の屋台として伝説となっており、今年はコンテストに出場しないのかという問い合わせが殺到しているらしい。

それなのに、フランが出店もせずに買い食いをして遊んでいたら? 料理ギルドに非難が集まることが予想された。

そこで料理ギルドがフランに頼み込んできたのである。

1日でいいから、コンテストの勝敗などに関係のない、特別枠として黒しっぽ亭の屋台を出してはくれないかと。

フランとしては買い食いも大事だが、カレーの普及もまた大事であるらしく、1日であればいいと考えたらしい。メッキャムの言葉に二つ返事で頷いていた。

「では、決勝の前日に場所を用意する。売り子なども希望があればこちらで揃えよう」

「わかった」

ということで、今年も料理コンテストに出品側として関わることになったのだが……。

「師匠、どんなカレー出す?」

『そうだな……』

カレーであることは確定だ。フランもお客さんも期待しているし、あえて他の料理にする理由もない。

ただ、できれば去年とは違う形にしたかった。カレーパンでもいいけど、今年はカレーライスはダメだろうか?

「カレーライス、去年はダメだった」

『去年はな。だが、今年ならいけるかもしれん』

去年は勝負だったのだ。採算性とか販売数とか、色々と気にしなければならないことが多かった。だが、今年は違う。

なにせ、コンテスト本戦とは関係ない出店。言わばエキシビション的なものなのだ。採算とかも気にしなくていい。

「なるほど」

『つまり、値段とかも気にしなくていいということだ! 超豪華なカレーでも許される!』

むしろ、採算度外視の特別感がある料理の方が喜ばれるだろう。

「じゃあ、すっごいの作る!」

『すっごいのかー』

「ん。一番いいお肉使って、最強のカレー作る。食べた人がカレーしか食べられなくなるくらいのやつ!」

サラリと恐ろしいことを言ったな。だが、それもいいかもしれない。

昨年末から魔狼の平原などで溜めこんだ魔獣肉が、凄まじい数ある。下位の魔獣肉だけでも1万食分はあるだろう。

食べられるものを捨てるのは抵抗があったのでなんとなく溜めこみ続けているんだが、俺の貧乏性がこんなところで役に立つとはね!

問題は寧ろ米だろう。今から大量に用意できるか?

料理ギルドに聞いてみて、米が手に入ればカレーライスで行こう。

そう思っていたのだが――。

『米がここまで少ないとはな……』

「ん」

バルボラ中を捜しても、米がほとんど手に入らなかったのだ。全くないわけではないが、古米なども多く、正直俺たちの目的にはそぐわなかった。

元々、米の最大輸出元はベリオス王国だった。水が豊富で、クランゼルに比べやや寒冷なベリオス王国は、米の一大産地であったらしい。日本でいえば東北などに近い気候なのだろう。

だが、今月はそこからの米の供給がガクンと減ってしまった。大魔獣騒動の余波だ。

ベリオスは収穫した米を独自の方法で保存しておき、そこから毎月少しずつ輸出する方法を取っていた。

これなら高品質の物を提供できるし、国内で何かアクシデントが発生した場合は輸出を取りやめて食料を確保することも可能である。

そして、先月には大事件が起きたことで、輸出量が減ってしまったというわけだ。

『仕方ない。他の方法を考えよう』

だが、去年と同じカレーパンは避けたい。つまらんからね。

「ルーだけじゃダメ?」

『そうだなー……。いや、スープにすればいけるか?』

カレースープにするのだ。具だくさんにして、食べ応えがあるようにすれば行けるんじゃないか? 肉も多めで。

「お肉いっぱいのカレースープ」

「オウン!」

フランとウルシの口の端から、涎がタリーッと垂れている。想像しただけで我慢できなくなったらしい。

カレー大好きコンビのお墨付きも出たし、これでいってみますか。