軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

670 ブルネン

ベリオス王国の王城へ向かった俺たちは、驚くほど簡単に中に入ることができてしまった。

ウィーナに書いてもらった紹介状が凄まじい威力を発揮したのだ。さらに、俺たちが到着する前に、湖で起きた事件の詳細な報告が国へと提出されていたらしい。

その中には当然、フランの素性などに関する情報もあったのだろう。王城の入り口では、簡単な検査で済んでしまった。

そして今は、王城の一角にある会議室のような場所で一人の老人と向かい合っている。

非常に人相の悪い、痩身色黒の老人だ。長い白髪の間からこちらを見つめる目は殺し屋のように鋭く、まるで睨まれているかのようだ。

千切れた右耳や、体中に刻まれた大小の傷跡は、この老人が堅気の人間ではないと否が応でも教えてくれていた。

何も知らずに出会っていたら、引退したヤクザとでも思っていただろう。

この老人の名前はブルネン。なんと、ベリオス王国の海軍提督の一人であるらしい。そう聞くと、確かに歴戦の勇士としての風格がある。まあ、提督よりは海賊寄りの外見だが。こっちの世界は舐められたら終わりだから、こういう感じで厳つい外見の男が多いよな。

ゴルディシアへの派兵について、彼が現場の責任者であるらしい。

「では、ウィーナレーン殿からの連絡にあった通り、我が国の雇われ冒険者として、ゴルディシアに向かう意思があるということだな?」

「ん」

「そうかそうか! そいつは有り難い!」

フランが頷くとブルネンが歓喜の表情を浮かべる。やはり、今回の事件の影響は大きく、ゴルディシアの責務をどうするか、王国首脳陣もかなり悩んでいたらしい。

そこにやってきたのが、ウィーナレーンがランクA並と評するフランだ。国としては正に救いの主なのだろう。

「こちらとしても、お主をぜひ雇い入れたいと思っている」

「ん。それで、いつ出発する?」

フランがワクワクを抑えきれない声で、ブルネンに問いかける。すると、ブルネンの表情が僅かに陰ってしまう。

「うむ……、それなのだが……」

「?」

「あー……」

なんだ? 急に歯切れが悪くなったぞ?

まだ出会って30分ほどだが、ブルネンは豪快な男だ。こんな風に口籠るのはらしくないように思える。

だが、話を詳しく聞いて理由が分かった。

「じゃあ、出発は2ヶ月後?」

「うむ」

元々は3月の末から4月の上旬、つまりあと10日ほどでの出発が予定されていたらしい。だが、ここにきての大魔獣騒動だ。

物資の搬入や兵力確保の遅れに加え、被害者への補償、商業船団の立て直しも行わなくてはならない。

ベリオス王国としても、予定の変更を余儀なくされていた。

「なるほど」

「頼む! 無理は承知だが、2ヶ月後に、また王都に来てくれやしないだろうか?」

2ヶ月というのは、国としてはそう長くない感覚だろう。たった2ヶ月の出発延期だ。だが、冒険者のような刹那的な生き方をする者たちにとっては、遥か先の話になる。

普通の冒険者だったら「そんな先の話は分からないから、今回の依頼はなかったことにしてほしい」と言い出す者が絶対に現れるはずだ。

ブルネンもそれが分かっているのだろう。

だが、ここで2ヶ月先に絶対に戻ってこいという契約を結んでしまえば、その間の保証金などが発生する。フランクラスの冒険者ならかなり高額になるだろう。

それだけではなく、縛られることが嫌いな冒険者の場合は、へそを曲げて去ってしまう者もいるに違いない。

しかし、フランほどの戦闘力をもつ冒険者相手に、上から高圧的に命令することも難しいし、他国出身のフランに国への忠誠など期待できない。

結局、ブルネンには頭を下げて、誠心誠意頼むことしかできないのである。

『どうする?』

(問題ない)

『まあ、口約束だから、破っても罰則があるわけじゃないしな』

ブルネンやウィーナには恨まれるだろうが。

そもそも、ゴルディシアに行くことはほぼ確定だ。だったら、国の後ろ盾がある状態の方がいいだろう。それを考えたら、ベリオスに恩を売った状態で依頼を受けるのは、悪くはない状況だった。

「わかった。2ヶ月後に戻ってくる」

「ほ、本当か! 恩に着る!」

「ん」

「それでフラン殿は、この後どうするつもりなんだ?」

そう。それが問題だ。

ゴルディシア大陸に渡るつもりだったから、特に予定もない。だが、フランにはキッチリ代案があったらしい。

「バルボラ! 料理コンテストにいく!」

『ああ、なるほど。そういえば、時間ができたんなら参加できるな』

クランゼル王国で開かれる2つのイベント。バルボラの料理コンテストと、ウルムットの武闘大会。

フランはどちらにも参加したが、今年は諦めていた。

ゴルディシアに渡るとなれば絶対に間に合わないだろうし、フランとしても未知の大陸への興味が勝っていたからだ。

だが、ゴルディシア行きは延期となり、都合よく時間ができた。これは、クランゼルでイベントに参加するチャンスだろう。

その言葉を聞いたブルネンが、何やら考え込んでいる。

「そうか……。南へ向かうか……。では、我が国からの依頼を1つ引き受けてもらうわけにはいかないか?」

「依頼?」

「うむ。とある人物に渡りを付けて、ゴルディシア行きに同行してほしいと頼んでほしいのだ。親書を 認(したた) める故、それを渡してもらえばいい」

クランゼル王国の人間だろうか? 戦力になりそうなところで考えると、アマンダは無理だろう。ジャンもダメだと思う。フォールンドとか?

「普段は南方の小国群を放浪しているはずだが、今年のウルムット武道大会に主賓として招待されているはずだ。お主なら、会うことができるだろう」

「誰?」

フランの質問に返答したブルネンの口から出たのは、意外な名前であった。

「親書を渡す相手の名前はデミトリス。ランクS冒険者として名を馳せる人物だ」