軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

666 精霊魔術

結局、俺たちはウィーナからの依頼を受けることにした。デメリットよりもメリットの方が多い話だったからな。

出発は明後日。といっても、いきなりゴルディシア大陸に向かうわけではない。

まずは依頼票を持ってこの国の王都に行かなくてはいけないらしい。そこで、他の参加者などと一緒にゴルディシア大陸に渡ることになるのだ。

『もう、ここの宿ともお別れか』

「オフ」

「ん」

宿の中央を貫く巨木を眺めながら、フランが神妙な顔で食事を摂っている。美味しいはずなんだが、いったいどうした?

『フラン、具合でも悪いのか?』

(……精霊、結局会えなかった)

『ああ。そう言えばそうだな』

古木に宿るという精霊とは、結局出会うことはできなかったな。精霊察知スキルを得た俺でも、その気配は感じ取れない。

だが、フランが不意に視線を上へと向けた。

『どうした?』

「オン?」

「精霊、いる」

『え?』

フランの呟きの意味が分からない。

だって、俺には何も感じられんぞ? 首を傾げているウルシにも、何も見えてはいないのだろう。

しかし、フランの目は虚空の一点をしっかりと捉えていた。

「……」

そのまま数秒間、フランが巨木の幹を無言で見つめ続ける。

その直後であった。

『!』

「見えた」

『お、俺もだ!』

「オ、オン!」

ウルシにも見えたらしい。食事をすることも忘れて、口をポカーンと開けている。

「――」

そこには、緑色のリスがフワフワと浮いていた。外見は小動物だが、その内からはもっと深くて強い存在感を感じる。

間違いなく、古木の精霊だろう。少なく見積もっても、上位精霊だ。

不思議なものだが、姿が見えた途端に、相手の大きさが理解できた。見えない時には何も感じ取れなかったというのに。

それに、目の前に居ながら察知系スキルを完璧に誤魔化したという点を見ても、この精霊が相当な力を持っていると分かるのだ。

「ほほお。精霊様が自分から姿を現すとはのぉ。随分と気に入られたようだで」

「私が?」

「んだ」

エルフのお婆さんが、ニコニコとフランと精霊を見つめている。やはり、古木の精霊だったか。

「お嬢に感謝しとるようだのぉ」

「なんで?」

「さて? なんでじゃろうのぉ? 見えるんじゃから、自分で聞いてみたらどうだで?」

「ん。わかった」

「うんうん」

お婆さんの言葉に、フランが力強く頷いた。そして、ゆっくりと古木の精霊に近づいていく。

「……」

「……」

フランと精霊がしばらくの間無言で目を合わせ続け、なぜか互いにうなずき合う。

『どうした?』

(? 聞こえなかった?)

『え?』

どういうことだ? 何か会話してたか?

『精霊とってことだよな?』

(ん。レーンを助けてくれてありがとうって言ってる)

『ウルシ?』

(オフ)

ウルシにも聞こえていない。

どうやら、フランにだけ精霊の声が聞こえたらしい。

なるほど、これが相性って奴なのかもしれない。精霊魔術は、スキルレベルや技能の腕よりも、精霊との相性が重要だという。

極論、精霊魔術覚えたての駆け出しでも、大精霊に気に入られれば大精霊と契約ができるのだ。

どうやら古木の精霊とフランは相性が良く、俺やウルシとは相性が悪いらしい。

というか、今思ったが、俺に相性とかあるのか? だって剣だし。精霊ですら、俺に気付いていない可能性もあるよな?

「ん。なるほど」

「……」

「ふーん」

完全に精霊と会話が成り立っている。

『その精霊、レーンと知り合いなのか?』

(ん。レーンの友達だって。大魔獣から解放されて、喜んでる)

精霊同士、交流があったのだろう。

「あ……」

『お』

そんなことを考えていたら、精霊の姿がスーッと消えてしまった。ただ、フランには気配が感じ取れているらしく、精霊がいると思われる空間を目で追っている。

精霊はただ単に感謝の念を伝えにきただけであったらしい。

だが、俺たちにとって、得たものは言葉以上に大きかった。

《霊格の高い精霊を長時間視認したことで、フランが精霊魔術のスキルを習得しました》

『は? なんだって?』

「?」

《才能が一気に開花したようです》

まじかよ! 慌ててフランのステータスを確認する。確かに、精霊魔術を覚えていた。実は、先日の激戦の結果、フランもウルシもレベルが5つも上がっていた。

だが、その時には確実に精霊魔術など得ていなかったはずだ。

もしかして、古木の精霊はこのためにあえて姿を現してくれたのだろうか? ともかく、フランが新スキルを得たことは喜ばしい。

『フラン、精霊魔術を覚えてるぞ』

「ほんと?」

『ああ、どうだ? 使えるか?』

「ん……」

フランがワクワクした様子で、意識を集中させた。すでに魔術だってうまく使いこなせるフランだ。初見のスキルだとしても、問題ないだろう。

そう思っていたんだが、すぐに集中するのを止めてしまった。耳と尻尾がヘニョッと垂れ下がり、明らかに元気がない。

『フラン?』

「だめ」

『ダメか。スキルの使い方が分からないってことか?』

「スキルは使える。でも、木の精霊しか分かんない」

『今まで見えてた、古木の精霊のことだよな? 他の精霊の気配を感じ取れないってことか?』

「ん。でも、私じゃ木の精霊の力を借りれない」

精霊魔術は確かに発動していても、精霊に拒否されたってことらしい。相性が良さそうに見えたんだが……。

精霊魔術を使うのは、想像以上に難しいようだった。