作品タイトル不明
653 ウィーナかレーンか
大魔獣は滅んだと、言い切るウィーナレーン。彼女がそこまで断言するということは、余程の確信があるのだろう。
本当に心配せずとも良さそうだ。
となれば、もう一つ気になっていることを聞いてみるか。
「レーンは、どこにいる?」
「オン?」
そう、レーンの安否だ。
かなり無理をして消耗していたようだった。しかも俺たちを助けるために、最後無理をさせてしまったのだ。
あれから全く気配を感じられない。精霊察知にも反応がなかった。
俺の精霊察知では捉えられない程に気配が希薄なだけなのか、それとも力を使い果たして消滅してしまったのか。
いや、もし俺たちを助けたせいでレーンが消えてしまっていたら、ウィーナレーンがもっと怒り狂っているだろう。だとしたら、前者なのだと思うんだが……。
「今、喚ぶわ」
よかった、やはり消滅してはいなかったらしい。
ウィーナレーンが無事な左目を閉じて、軽く集中する。その直後、彼女の数メートル手前の地面に魔法陣が描かれ、その中から白い影がフワーッと浮き上がるように現れた。
金髪とオッドアイ、エルフ耳。間違いなくレーンだ。
だが、その姿はまるで幽霊のようだった。
向こうが透けて見えることからも分かるように、半透明なのだ。精霊だからおかしくはないのかもしれないが、明らかに存在感そのものが薄まってしまっている。
「ありがとう。貴方たちのおかげで、犠牲者が誰も出なかった……」
非常に小さくて聞き取りにくいが、レーンの声が確かに聞こえた。
「だいじょぶ?」
「ええ……」
とても大丈夫そうには思えないが、レーンは満面の笑顔で頷いた。レーンは大きな代償を支払っているはずだが、結果には満足しているようだ。
だが、そんなレーンに対して苦虫を噛み潰したような顔をしているのはウィーナレーンであった。
「レーン。どうしてそんなに消耗をしているのっ! フランたちが攻撃を仕掛ける時に、何かをしていたのは分かったけど……」
「……色々あったのよ」
「私には言えないの?」
「まだ、終わっていないから……」
ウィーナレーンが言っているのは、レーンたちによってこっちとあっちが繋げられ、グレたフランと馬鹿な俺に声を届けることができた、あの不思議な時間のことだろう。
ウィーナレーンにも詳しいことを告げていなかったらしい。レーンの消耗は、俺たちでもはっきりわかる程だったからな。ウィーナレーンが気付かない訳ないだろう。
それにしても、まだ終わっていないって、どういうことだ?
繋がりは切れたよな?
まだ向こうのフランが救われていないとか、そういう話か?
「ウィーナレーン、このままでは私は私に戻れない。それは分かる……?」
「問題ないわ。私の中にあるレーンの力を、あなたに返せばそれでいい」
「ダメ。それではあなたが耐えられない。分離するにはかなりの力を使ってしまう」
「分かっているわ。でも、あなたがレーンに戻ることができるのであれば、私の命などいらない」
「だから、ダメなのよ」
悲しげな顔のレーンが、やはり悲しげな顔のウィーナレーンに向かって首を振る。
随分物騒な話だな。無事、誰も命を落とすことなく、大魔獣を倒せました。めでたしめでたしとはならないってことか?
「どういうこと?」
「……正直、今の私はかなり力を消耗しているわ。このままだと、自然消滅するかもしれないくらい」
「でも、私が力を返せば問題ない」
「それをやったら、あなたが死んでしまう。あなたは今もギリギリなのよ? さらに分離で消耗すれば、命はない」
今の状態だとレーンが消滅するかもしれない。それを防ぐには、ウィーナレーンに融合しているレーンの力を分離して、返すしかない。
だが、分離するにはかなりの力を消耗するらしい。今のウィーナレーンでは耐えきれないようだ。
つまり、レーンかウィーナレーン、どちらかしか救えないということだった。
「それ、たいへん」
「オン!」
フランが俺たちにしか分からない驚愕の表情を浮かべている。
「私たちが、もっと大魔獣を削ってれば……」
「……すまなかった」
いつの間にか、シエラが近寄ってきていた。魔剣ゼロスリードを杖代わりに、なんとか歩いているような状況だ。
話を聞いて、フランと同じ結論に達したのだろう。悔し気に俯いている。
ただ、シエラの顔には、今までのような鬼気迫るものがない。
多分、ゼライセの死を見たのだろう。彼らの最大の目的は、ゼライセへの復讐と、ロミオ、ゼロスリードの救出だったからな。
魔剣ゼライセの所在は不明だが、人間のゼライセは滅び、ロミオとゼロスリードは生き残った。
目的の大部分が達成されたことで、シエラの抱えていた悲壮感のような物が全てではなくともかなり解消されたのだろう。
「いいえ、謝るのは早いわ……。フラン、あなたたちの助けがいる」
「私たち? 私とシエラ?」
「いえ……。フランと、その剣の力よ。あなたたちは精霊を切ることができる力を得たかしら?」
「?」
斬る力かどうかは分からないが、心当たりはあった。
『精霊の手のことか?』
「そうよ」
「それが、どうかした?」
「その力があれば、私とウィーナの縁を断つことができるわ。縁が断たれれば、自然に力が分離する。ウィーナの消耗は最低限で済む」
「それで、2人とも助かるの?」
「ええ。あなたたちに負担がかかってしまうことは承知の上で、お願いするわ。どうか、私たちを救ってください」