軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

650 神話級の戦い

俺たちが離脱した直後、大魔獣の頭上に巨大な水球が出現していた。

直径は100メートルを超えるだろう。

「す、ごい」

『ああ。まじかよ。あれ、凄い神気だ』

「クゥン……」

込められた魔力が膨大とか、そういうレベルの話ではない。

水球からは、周囲を覆い尽くすほどの強烈な神気が放たれていた。剣神化を使っている時の俺に近い雰囲気が、水球全体から感じられる。

もしかして、あの水全部に神属性が付与されているのか?

無理をした後遺症で、察知系スキルが鈍くなっているのが幸いだったかもしれん。

もし通常通りの感知能力が残っていれば、あまりにも強烈な存在感と膨大な情報を読み取ってしまい、パニックに陥っていたかもしれなかった。

実際、ウルシが怯えてしまっている。全身の毛が逆立ち、耳がペタリと寝ていた。

「オフ……」

尻尾を股の間に挟んだウルシが、焦った表情で駆け続ける。本気の走りだ。フランが上下に揺さぶられて呻いているが、それでもウルシが速度を落とすことはない。

あの神気を目の当たりにして、どれだけ距離を取っても安心できないのだろう。それがフランのためにもなる。

あれが発動したのが、僅かでも距離を取れた後でよかった。

いや、もしかして俺たちが離脱するのを待ってくれていたのか? まあ、ウィーナレーンも少しぶっ飛んでいるだけで悪人というわけじゃないし、少し待つくらいはしてくれたのかもしれないな。

俺たちが見守る中、神水の球が大きくその姿を変えていく。

横に大きく広がり始めたのだ。

そして、いつしか無数の小さな水球へと変化していた。まあ、小さいといっても、1つ1つがフランを飲み込めるくらいのサイズはあると思うが。

俺が、そんなことを考えた直後だった。

ドギュッ!

重く鋭い破裂音とともに、大魔獣の肉体に深い溝が穿たれていた。上から下に、一直線に線が走っているように見える。

超高速で放たれた水球が、大魔獣の体をあっさりと削り取ったのだ。俺たちでさえ微かに影を捉えることしかできないほどの、凄まじい速度である。

そこからは、とても現実に起きているとは思えぬ光景が続いた。

ドギュギュギュギュギュギュ――!

破裂音が連続で響き渡り、大魔獣の体が見る見るうちに削られている。

水球が神速で撃ち出され、大魔獣の肉体を穿ち続けているのだ。

魔獣の肉体を突き抜けた水球は、当然ながら湖に衝突する。その度に五〇メートル近い水柱が立ち上る光景には、笑い声さえ出てこない。

大魔獣が1000発以上のウォーターアローを撃ち出して攻撃してきたが、あんなものが可愛く思えるほどの威力だ。

それでいて、発生した巨大な津波は不自然なほど短い距離で、あっさりと鎮まっていく。それさえもウィーナレーンが制御しているというのだろうか。

どんな術やスキルを使えばあんなことができるのか想像もつかないが、あれこそがウィーナレーンの奥の手で間違いないだろう。

すでに大魔獣の肉体が半分以上消滅し、さらに水球が撃ち出され続けている。

一向に神水がなくならないと思ったら、湖の水が管のようになって舞い上がり、空中で千切れて水球が生み出されているのが見えた。しかも、それらの水球からも神気が感じられる。あれ、全部に神属性を付与しているってことか?

新たな水球は、雨の映像の逆再生を見ているかのように、一直線に天へと昇っていく。そして、一定の高さに達した水球は今度は重力に引かれるように落下し始め、大魔獣へと降り注いでいく。

そのサイクルが繰り返される限り、大魔獣への攻撃は止まらないだろう。まあ、ウィーナレーンの魔力が続く限りは、だが。

しかし、本当にこのまま倒しきれるのだろうか?

大魔獣の体の縮小がある段階で止まっていた。どれだけ攻撃され、肉体が削られようとも、再生してしまうのだ。

巨大な肉体を維持するよりも、小さな体に力を集中して守る方が、消耗が少ないのかもしれない。

一発一発の破壊力が俺たちの天断に匹敵するような水球を、機関銃のように間断なく射出し続けるウィーナレーン。そして、強力な障壁と、瞬間再生を同時に行使し続ける大魔獣。

この数十秒間だけで、どれだけの魔力が消費されたのか、想像もできん。

それでも、ウィーナレーンと大魔獣の削り合いは続く。

あんなもの、わずかな手出しさえできない。俺たちなど、余波に巻き込まれただけで消滅するだろう。

俺たちにできることは、ただこの神話級の戦いを見守ることだけだ。俺は呆然と。ウルシは怯えている。そして、フランはどこか悔しげだった。

『フラン、どうしたんだ?』

(ウィーナレーンも、大魔獣も、すごい)

『あれは本当にこの世でも頂上にいるやつらの戦いだからな……』

(それでも、悔しい)

『……そうか』

(ん。それに、私もいつかは大魔獣みたいなやつを倒さなきゃいけない。仕方ないなんて、言ってられない……!)

まさかあの戦いを見て、即座に悔しいという感想が出てくるとは……。

恐怖を感じていないのか? いや、そんなわけがない。あれをみて恐怖を抱かない人間なんて、狂ってしまっている。

そうではなく、悔しいという気持ちで自らを奮い立たせ、恐怖を克服したのだろう。

さすがフランだ。俺も、ぼうっとなんかしてられん! そうだ、俺たちはいつか、黒猫族の呪いを解くんだ。

それはつまり、あの大魔獣のような凶悪極まりない敵を、独力で倒さねばならないということだった。

「オン!」

いつの間にか、ウルシから怯えが消えていた。俺と同じ気持ちなんだろう。その目であの戦いを見届けようと、気合に満ちた顔で後ろを振り返っている。

『そうだな。仕方ないなんて、言ってられないな』

「オンオン!」

「ん……!」