軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

648 ウルシの奥の手

魔力弾の嵐を強引に突破したウルシを見て、驚きの声を上げるゼライセ。

とは言え、その動きが止まるようなことはない。

咄嗟に魔剣を振り上げたゼライセは、第二波を放とうとする。さらに、懐から大きな魔石を取り出して、ニヤリと笑った。

内包された膨大な魔力と、ガンガンと警鐘を鳴らす危機察知スキルから考えるに、余程凶悪な魔石兵器なのだろう。

奴らの目論見としては、魔力弾でウルシの動きを止め、魔石兵器で止める。そんなところだろうか。

だが、ウルシを舐め過ぎだ。ウルシは俺たちの添え物じゃない。新たな進化にまで辿り着いてみせた、俺たちの頼りになる相棒なのだ。

「ガアアアア!」

「!」

ウルシが一気に加速した。

そう、全速力で逃げていると見せかけて、実は僅かに加減していたのである。これは手を抜いていたわけではなく、背のフランを慮ってのことである。

しかし、そのおかげでゼライセの裏をかくことができていた。想像以上の速度で急激に接近してきたウルシに、焦った顔を見せている。

フランは急加速に苦しい顔をしているが、声一つあげない。ウルシも、背の主が苦しんでいるのを分かりつつも、速度を落とすことはしなかった。

それもこれも、この一噛みのためである。

「それでもおぉぉ!」

魔剣ゼライセが横に振るわれ、魔力弾がばら撒かれる。溜めが不十分なせいで先程よりも威力が弱いが、その分密集して放たれていた。

ゼライセの表情が僅かに余裕を取り戻したのが分かる。

確かに、この攻撃の威力は凄まじい。直撃すれば、脅威度Cの魔獣でも消滅するだろう。

だが、ウルシをこの程度で倒しきれると思っているのか? 修行を経て、より強くなっているのだ。

「グルォッ!」

ウルシが、自身の奥の手を発動した。

レベル7暗黒魔術ダーク・エンブレイス。本来は暗黒を全身に纏うことで、防御力と身体性能を上げる術である。

だが、ウルシは修業の結果、この術を自分なりにアレンジすることに成功していた。

生み出された漆黒の闇が、ウルシの頭部のみを覆い尽くす。こうすることで、噛みつく力のみを強化しているのである。同時に、次元牙が発動するのが分かった。

巨狼であるウルシが本気で噛めば、オリハルコンでさえ飴玉のように砕くことができる。そこに闇属性、時空属性が複合した、超強力な一撃だった。

フランとの合体技ではなく、自分で敵を仕留めるために編み出した技。これこそが、ウルシの必殺の牙であった。

この技を『断界ノ牙』と名付けたアマンダ曰く、直撃すれば自分でも致命傷は避けられないだろうとのことだ。

「グルアアアアアア!」

「ぐがあああああ!」

ゼライセの放った時空の弾丸を牙で弾きながら、ウルシは本来のサイズに戻り、ゼライセの体に噛みついた。

一本一本が丸太の杭のような大きさがあるウルシの牙が、ゼライセの下半身を押し潰すのが分かる。

「ごぷっ……聞いて、ないぃ……」

胸から上だけとなって宙を舞うゼライセが、そう呟くのが聞こえた。

そうか、ゼライセは魔剣となった自分から、ウルシの情報を入手していたのかもしれない。もしくは、ウルシがダークネスウルフだと分かっていれば、進化先を予想することもできるだろう。

統率力や魔力に優れていても、直接戦闘力はそれほどでもない。小型化しているウルシは、一見すればダークナイトウルフや、ゲヘナウルフに見えたはずである。

それ故、ゼライセたちはウルシの戦闘力を見誤ったのだ。

かなり酷い姿になってしまったが、ゼライセの生命力はまだ尽きてはいない。むしろ、再生が始まろうとしている兆候が見て取れた。

「あれれ? 再生が、鈍いな……。まったく、その、狼……なんなんだい……?」

ゼライセの目には危機感が全くなく、あるのは好奇心。こんな状況でも、ブレない変態だった。

いや、ここからでも逃走する自信があるのだろう。魔剣ゼライセがある限り、様々な能力が発動可能だからな。魔石兵器を仕舞い、魔剣ゼライセを構える。

だが、ゼライセが大きなダメージを負い、身動きが取れない状況であることは確かだ。倒すチャンスだった。

「グルルル……」

ウルシはまだ動けない。大技の反動のせいだ。俺とフランは、ゼライセに止めを刺すほどの攻撃を放つほどの力は残っていない。

「あは、とりあえず、今日のところはこれで失礼するよ――」

くそ! 逃げられる!

「――あぁ?」

どうした? ゼライセが転移を発動しようとしたはずだが、何も起きないぞ? 失敗? そう思ったら、ゼライセの周囲に僅かに精霊の気配があった。

レーンか! 時と水の精霊であるレーンなら、相手の転移を阻害できる!

そこで、初めてゼライセの顔に焦りの色が見えた。

「くそっ……面倒な……ぐぁ! これは!」

「ふん」

フランだった。限界ギリギリまで酷使した体にさらに鞭打ち、魔力弾を放ったのだ。威力は最弱。それこそ、ゴブリンすら殺せないかもしれない。

しかし、ゼライセの体勢を崩す程度はできたらしい。フランの目が俺を見る。

分かってるよ。俺も、頑張ってみるとするさ!

『らぁぁぁ!』

「ちぃぃ!」

俺が発動したのは、念動である。それこそ、ほんの一瞬だ。だが、下半身を失い、バランス感覚を失っている今のゼライセは、突如あらぬ方向から加えられた力に逆らうことができなかった。

ゼライセが、奴自身から見て右下に思い切り引っ張られる。それだけだ。

それだけなんだが――。

「え?」

ゼライセの体に、無数の触手が絡みついていた。