軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

647 ウルシの突破

ピンチだ。

今、俺たちは大魔獣の触手に絡めとられ、飲み込まれようとしている。

まだウルシの障壁が守ってくれているが、十秒もたたずに限界を迎えるだろう。障壁の魔力が急激に薄れていくのが分かった。

だが、脱出できないわけではない。転移を使えばいい。

問題はそれで俺の魔力が本当の本当に尽きてしまうことだろう。後はもう完全にウルシ頼りになる。

『ウルシ、頼むぞ?』

(オン!)

俺の言葉に、ウルシが力強く頷いた。何をすればいいか、分かっているのだろう。

『よし、いくぞ――いや、待て!』

今気付いたが、周囲の魔力がおかしい。不思議な魔力が周囲を覆っていた。ゼライセでもネームレスでも、ましてや大魔獣でもない。

攻撃的な気配はなく、むしろ守ってくれているかのような安心感がある。

そして、俺たちを幾重にも覆っていた触手の壁が、吹き飛ぶような勢いではがれ始めた。

何かが高速でぶつかるような鈍い炸裂音とともに、俺たちの視界が開けていく。

『いったい、何が……』

「さっさと逃げなさい」

『レーン?』

どこからともなく、レーンの声が聞こえた。念話のように頭の中に直接声が響いているわけではない。レーンがおれたちの耳元で囁くような感じだ。

しかし、周囲を見回してもレーンの姿はどこにもない。

『気配が……ある?』

漠然とではあるが、レーンの気配は感じられた。精霊察知のおかげだろう。

「あと数分もしたら、ウィーナレーンのアレがくる」

『奥の手かっ』

「もう、これ以上は手助けできるか微妙……。頑張って、逃げて……」

レーンが苦し気に呟き、声が聞こえなくなった。周辺から感じられていた微妙な気配もどこかにいってしまったようだ。

だが、今はレーンの心配をしている場合ではない。

『ウルシ! いくぞ!』

「オン!」

レーンの声に滲む焦りの色から考えて、もうかなりギリギリなのだろう。

「くかかかか! 何をしたのか知らんが、逃がさぬぞ!」

俺たちと一緒に触手に絡みつかれていたはずのネームレスは、すでに拘束から脱出し、ウルシのことを待ち構えていた。

そりゃあ、仲間の術でさすがに自爆しないよな!

「るはぁぁぁ!」

「グルゥ……!」

ネームレスが左右の拳を連続で突き出すと、その度に衝撃波が発生し、ウルシに襲いかかってくる。しかもその衝撃波は、ウルシの逃げ場を潰すように広範囲に放たれていた。

ほとんど逃げ場がない。

それに、一見逃げ場に思える部分も明らかに罠であった。その先にゼライセが待ち構えている。

獣追いの罠のように、ウルシを追い込んで仕留めるつもりなのだろう。

だが、ウルシはネームレスたちの狙いを即座に見破った。

「グルルオォォォォ!」

「なにぃ! そこを抜けるか!」

ウルシはあえて最も弾幕の厚い部分に突進し、闇魔術と障壁を使って衝撃波を相殺しながら、無理やりに突き抜けたのである。

拳聖技によって放たれた衝撃波を正面から突破したのだ。無事では済まない。

ウルシの全身が傷つき血が噴き出していた。

背中に担いだ俺やフランを守るための障壁を厚くしたため、自らの身を守るための障壁が強度不足だったのだろう。

だが、ウルシは自らのダメージなど気にした様子もなく、そのまま突き進んだ。

「だから逃がさないってば!」

俺たちの前方に転移して回り込んたゼライセが、攻撃を解き放つ。相変わらずの気楽な口調だが、放った技は凶悪の一言だった。

時空属性を帯びた無数の魔力弾が、一斉に撃ち出されたのだ。まるで巨大な一枚の壁かと思うほどの、量と密度であった。

もともとは罠にかけた俺たちを仕留めるために準備していた技だ。込められた魔力の大きさは、俺が身震いしてしまうほどであった。

一発一発の威力は、先程ネームレスが放った拳聖技を超えているだろう。

これはまずい。

なにせ時空属性なのだ。ディメンジョン・シフトでも逃げられない。それでいて広範囲に及ぶため、回避も難しかった。

障壁を全開にして、耐えるしかないだろう。だが、そう考える俺たちの前で、ゼライセが第二波を放つために魔力を集中し始めるのが見えた。

まさか、連打可能だと? いや、ゼライセと魔剣ゼライセが交互に放てば可能か! ここにきてインテリジェンス・ウェポンのウザさが発揮されているな!

しかし、ウルシの足は止まらなかった。

『ウルシ! なにを……!』

「ガアアアアァァァァァァァァ!」

魔力弾の壁を鋭い視線で見据えたまま、正面からぶつかっていく。

ギャリギャリギャリィ!

まるで金属同士が擦れるような甲高い音とともに、俺たちの周囲を覆う障壁に衝撃が走る。その度に障壁が薄くなるのが分かった。

だが問題はそこではない。

「ウルシ!」

『自分にも障壁を張れ!』

「ガウゥゥ!」

ウルシは自らの体には最小限の障壁しか張っていなかった。頭部を守るように、前方に集中して障壁を展開してはいるようだが……。

直撃はしていない。しかし、体の横を掠める弾丸がウルシの肉体を削り取り、大量の血が噴き出す。

それでもウルシの前進は止まらなかった。

その体から大量の赤い血を舞い散らせながら、弾幕を抜ける。

「うっそぉ!」

これにはゼライセも本気で驚いたらしい。目を見開いて声を上げていた。