軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

629 倒してしまって良いのだろ?

「じゃあ、私は行く」

「気を付けてね」

頑張ってと言わないところに、レーンの人の良さが出ているな。いや、精霊だけど。

ここでフランが無理にでも大魔獣の力を削がなければ、レーンの望みは叶わないのだ。だが、レーンが最も心配しているのは、フランの無事である。

ただ、フランに対してはその方が効果があるけどね。

「ん。頑張る」

「相手は不完全と言っても、伝説の魔獣よ。無理はしないで」

「ん」

レーンの言葉にうなずき返すフランの表情は、とてもではないが無茶をしないでいるとは思えないほど、やる気に満ち満ちていた。

『フラン、自分の身の安全が第一だぞ?』

(わかってる)

『わかってる人間の顔じゃないんだけど』

それにしても、少々やる気があり過ぎる気もする。何か、やる気がアップすることがあったか?

(邪神の欠片と戦うの、初めて)

『ああ、確かにそうだな』

(黒猫族の呪いを解くためには、いずれ戦わなくちゃいけないかもしれない相手。どれくらい強いのか、知っておくのはいいこと)

フランの目標は、神罰によって黒猫族全体に掛けられた呪いを解くこと。

そのためには、黒猫族の力だけで、脅威度Sの邪人、もしくは邪神の眷属を倒すこと。それはつまり、邪神の欠片の討伐という意味なのだろう。

はっきり言って、今のフランよりもさらに強い黒猫族を、複数人揃えなくては達成不可能な目標だと思う。それこそ、何十年もかけなくては不可能だ。いや、下手すればそれ以上、数世代は必要かもしれない。

だが、それでもフランが歩みを止める理由にはならないようだった。

『完全に同じものじゃないぞ?』

(わかってる)

『本来の邪神の欠片より、強いのか弱いのかもよくわからないが……』

(邪神の欠片の力を実感するチャンス)

ただひたすら、希望に満ちた表情で笑っている。

『そうだな。今回は色々と混じっているけど、力の一端に触れることはできそうだしな』

(ん!)

「そうだ、これを……」

レーンが生み出した水が、シャワーのようになってフランに降り注ぐ。その直後、フランの体力が回復するのが分かった。全回復とまではいかないが、かなり楽になっただろう。

「癒しの水よ。私にはこれくらいしかできないから」

「ありがと」

「シエラたちが参戦するまでは無理しないでね?」

「ん。でも、相手が弱かったら、倒しちゃってもいいんでしょ?」

おいおい! 俺が言いたい台詞ランキング上位、『倒してしまっても構わんのだろう?』じゃないか!

でもこれ、死亡フラグなんですけど!

(師匠? どうしたの?)

『い、いや。なんでもない。フランのやる気に感心していただけだ』

(ふーん?)

いざとなったら、無理やりにでも逃がさなくては!

そして、フランはウルシに乗って、大魔獣目がけて飛び出した。

「オンオン!」

全速力のウルシにかかれば、1キロほどの距離もあっという間に詰まってくる。

『あまり近寄り過ぎるな! この辺はもう奴の射程でもおかしくないぞ!』

「オン!」

「おっきくなってる?」

『ああ。明らかにな』

俺たちが最初に確認した時と比べても、大魔獣の肉体は数倍に膨れ上がっている。これでまだ復活の途中なのだから、本来はどれほどの大きさなのだろうか。

灰色と紫、赤黒の3色の触手がグチュグチュと絡み合い、巨大な肉塊は未だに肥大化し続けているのが分かった。

『フラン、体の調子はどうだ?』

「へいき」

フランはそう言うが、今日は激戦が続いている。しかも、剣神化まで使い、消耗は凄まじいだろう。

本当なら休憩を挟みたいところだが、そんな時間はない。

『最初は、俺の魔術を主体に戦う。フランも、無茶はしないで相手を観察することを主眼に置くんだ』

「……わかった」

自分の体の調子を理解しているフランも、不承不承ながらも頷いた。

『回避はウルシメインだ』

「オン!」

「! くる!」

『やっぱ、ここでも届くか!』

蠢く巨大な肉塊の頂上部から、漆黒の魔力弾が放たれた。上空まで打ち上げられた魔力弾はそのままフランに向かって降ってくる。しかも、無数に。まさに弾幕だ。

『ウルシ!』

「オンオン!」

魔力弾一発一発に込められた力は凄まじい。魔力弾が着弾した湖面から、十数メートル近い水柱が上がっているのが見えている。

だが、狙い自体は雑だった。

これなら、ウルシは余裕で回避できるだろう。

『次はこっちの番だな! まずはこいつでも食らっておけ! カンナカムイィ!』

放ったのは一発。だが、ただのカンナカムイではない。収束させて威力を上げたうえに、破邪顕正の力を乗せた、対邪人用に編み出した必殺の一撃だ。

魔狼の平原で戦った脅威度C魔獣であるミノタウロス・ジェネラルを、一撃で消滅させる威力があった。ジェネラルは防御特化型で、普通のカンナカムイは耐えていたのだ。

『おらぁ!』

聖なる力を纏った白い雷が、伸ばされた無数の触手を貫き、本体に炸裂した。着弾した直後、轟音とともに無数の雷が放出され、直視できないほどの閃光が周囲を覆った。

貫通とまではいかなかったが、肉塊の巨体に大きなクレーターを穿っている。

『ちっ。破邪顕正を乗せたんだが、普通に再生しやがるか』

「全部が邪神じゃないから?」

『多分そうだろう』

「……ダメージない?」

『いや、ほんのわずかだが、奴の放つ魔力が減っている』

本当に極わずかだが。

「私も参加する?」

『いや、まずは奴の弱点を探りたい。フランは無理せず、簡単な攻撃だけにしておけ』

「ん。わかった」

『ウルシ、もう少し近付けるか? 今度は念動カタパルトで直接攻撃したい』

「ガル!」

『よし、いくぞ!』