作品タイトル不明
617 前と今の差
「……シエラはどうした?」
「ああ、彼かい? 気になるなら、力ずくで聞き出してみたら?」
「そうする」
「そんなボロボロなのに、強気だね!」
ゼライセが言う通り、俺たちはかなり消耗している。神属性を2度も使用した俺は言わずもがな、フランもそうと分かるほどに疲労していた。
肩で息をするほどではないが、倦怠感は隠しようもないのだ。やはり、黒雷神爪を使用するのは相当無理があったらしい。
『ウルシ!』
「ガル!」
「おっとぉ!」
眷属召喚で喚び出したウルシが、ゼライセを攻撃する。
「上手くやりすごしたと思ったのに!」
「しっ!」
「ガル!」
情けなくさえ聞こえる悲鳴を上げるゼライセだったが、ウルシの奇襲を完璧に回避している。やはり、時空属性の攻撃を放てるウルシを警戒しているな。しかし、そんなウルシに注意を払いつつ、フランとしっかり斬り結ぶ。
さっきの戦いでも感じたが、戦士としてもきっちり強い。
「さて、これならどうなるかなぁ?」
「む」
『魔石の剣か?』
ゼライセが取り出した魔石剣を受け止めると、それだけで剣が俺に吸収されてしまう。しかし、ゼライセは悔しがるようなそぶりも見せなかった。むしろその笑みを深くする。
「ははは! じゃあこれは?」
『また!』
ゼライセが再び取り出した魔石剣で、立て続けに攻撃してくる。明らかにフランではなく、俺を狙った攻撃だ。
しかし、無理に回避すればフランの体勢が崩れるし、俺にとってはボーナスである。あえて回避する選択はなく、再びその魔石剣を正面から受け止めた。
結果、ゼライセの手の中の魔石剣は俺に吸収され、消滅する。だが、それを見たゼライセが、狂的な笑い声をあげていた。
「凄いよ! やっぱりその剣の能力か! 魔石を吸収する魔剣! 素晴らしい! ぜひ研究したいぃ!」
気色悪い!
しかし、不意にゼライセが真面目な顔になり、首を傾げた。そして、何やら意味ありげな顔でフランを見つめてくる。
「え? そうなの? ふーん」
「……なに?」
「なんか前の僕がさ、拍子抜けだって」
「拍子抜け?」
「前のフランさんは、もっと強くて怖くて危なかったんだって」
「!」
ゼライセの言葉にフランがむっとした。今のフランだってかなり強い。前のフランは今のフランと比べて、そこまで差があったということか?
前と今の差と言えば、シエラやゼライセといったタイムスリップ組だが……。そうか、そういえば、前と今で大きく違う点があったな。
バルボラでの戦いだ。ゼライセが言っていた通りなら、前の俺は魔石兵を全滅させ、相当強化されただろう。それこそ、4、5段階くらいは一気にランクアップしたかもしれない。
その結果どうなる? さらに強い魔獣を仕留められるようになって、今の俺たちよりも強化速度が上がっている可能性は高いだろう。
その結果として、俺の剣化が早まっていた可能性もある。つまり、俺が今よりも強い反面、人としての心を完全に失っているということだ。
レーンが教えてくれた通り、そうなればフランは暴走するかもしれない。
つまり、今よりも強くて(俺が強化されている)、怖くて(フランに余裕がなく暴走状態)、危ない(俺がフランを諫めないので、暴走するままに力を振るっている)ということだ。
そう考えると、俺たちって前のゼライセに救われた? いや、結果的にそうなっただけだが。どちらかと言えば、俺たちに良い影響を与えてくれたのは、前のフランかも知れない。
前のフランが大暴れしてくれたおかげで、巡り巡って今の俺たちは救われ、希望を持つことができているのだ。
『……』
(師匠、どうしたの?)
『いや、前のフランは、どうなったのかと思ってな』
(……きっとへいき)
『なんでだ?』
(だって、師匠は絶対に私のこと見捨てない。おかしくなっても、すぐに元に戻って、私を助けてくれるはず。だからだいじょぶ)
『いや、でも、レーンは俺が完全に剣になっちまったって言ってたぞ?』
(へいき。だって、師匠だから。きっと、なんとかなってる)
フランの真っすぐな想いが、伝わってくる。
『そうか……。そうだな』
(ん!)
フランが信じてくれていると感じるだけで、俺も本気でそう思えるから不思議だ。だが、そうである。
こんな可愛いフランを残して、俺が完全に剣になるわけがない。それは前の俺だって絶対に同じ気持ちのはずだ。
だったら、フランが言う通り、いつかまた心を取り戻すことがあるかもしれない。それこそ、何かきっかけがあれば、即座に。
フランだってそうだ。多少暴走するようなことがあっても、すぐに自らの過ちに気付くだろう。俺がいない? だからどうしたって話だ。きっと、俺の手助けなんかなくても自分を取り戻し、前の俺を一発ぶん殴って正気に戻してくれるはずだ。
それに、今の俺たちには前のことを知る術はない。
前の時間軸が枝分かれして並行世界のようになったのか、今の時間に上書きされて消滅したのかも分からないのだ。
だったら、ポジティブに考えていた方がいいだろう。気に病んでいても、何もできないのだから。