軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

604 シエラの邪剣

ゼライセの視線は、水上を駆けるシエラに向いている。これはチャンスだ。

シエラを勝手に囮にすることになるが、ゼライセを倒せるチャンスなどそうそうはないだろう。

『シエラの攻撃に合わせて、俺たちも動く!』

(ん!)

(オン!)

相変わらず、俺たちが牽制で繰り出した攻撃はゼライセをすり抜けているが、その攻撃を隠れ蓑に力を練り上げ続けている。この力を、シエラに気を取られているゼライセに全てぶつけるのだ。

『準備はいいか?』

(ん)

直後、シエラが一気に跳び上がる。その頭上には、漆黒の剣が掲げられていた。

シエラがどんな攻撃を仕掛けるつもりかは分からんが、時空属性も感じられず、ゼライセにダメージを与えられるとは思えない。

しかし、ゼライセの目をこのまま引き付けてくれるだけでも十分だった。

『いくぞ!』

俺が魔力を限界以上に込めた、ディメンジョン・ソードを放とうとした、その直前だった。

「邪気解放!」

シエラが鋭い言葉を発する。そして、膨大な量の邪気が、周囲の空間を塗りつぶすように溢れ出した。

「え?」

『うぉ?』

ゼライセと俺が、同時に間の抜けた声を上げてしまう。

シエラの剣から放たれた邪気は、それほどに大量だったのだ。シエラの剣に邪気が封じられているのは知っていたが……。

これほど強大だったとは!

それこそ、超強力な邪人を剣の形に封じ込めたとか、そんな曰くでもなければあり得ないほどの凄まじい邪気が、剣とシエラから立ち上っている。

(師匠、あれ、なに?)

『わからん! だが、絶対に注意を怠るなよ? あれはもう、ただの冒険者の範疇を超えている!』

「ん」

『それにしても、この邪気……』

邪気に固有の波長のようなものがあるとは思えないが、どこか覚えがある気がした。この威圧感、初めての気がしない。

『どこだったか……フランは分かるか?』

(ん)

『え? 分かるのか?』

(ゼロスリードの邪気に似てる)

なるほど。言われてみるとそうかもしれない。俺たちが無意識のうちに、一定以上に強力な邪気同士を似ていると感じてしまっているのかもしれなかった。

しかし、今の状態はまずい。邪気というのは、無条件にこちらに嫌悪感を抱かせる。

あれだけ強力な邪気を不意打ちのような形で浴びた俺たちの精神は、どうしてもわずかに揺らいでしまっていた。心が揺らげば、スキルの精度も下がってしまう。

『フラン、集中し直せ』

(ん)

だが、この程度の衝撃、可愛いものだったのだ。次の瞬間、俺たちはさらなる精神的衝撃に晒されることとなっていた。

「理よ、乱れろ!」

ゼライセに向かって飛び掛かるシエラの叫びに呼応するように、漆黒の邪剣が禍々しい光を放つ。どう見ても、浴びたらまずい類の光だろう。

咄嗟に障壁を張ったんだが――。

ドボン!

俺たちは大きな水しぶきを上げ、湖に落下した。

『え?』

「う?」

「オン?」

フランとウルシの空中跳躍が、何の前触れもなく発動しなくなったのだ。

それだけではない。準備していた魔術も発動直前に消滅してしまっていた。魔力で消し飛ばされたり、魔術を封じられたのでもない。

なんというか、スキルその物が乱され、発動に失敗したとでも言おうか。発動させていた強化魔術も察知スキルも、ことごとくが打ち消されていた。

どう考えても、シエラの剣が放った黒い光のせいだよな?

濡れ鼠になったフランとウルシを咄嗟に念動ですくい上げようとしたんだが、問題なく発動している。

どうやら、さっきの光を浴びた瞬間に発動、もしくは準備していたスキルが打ち消されてしまったらしい。

それは俺たちだけではなかった。

「うわっ!」

ゼライセも湖に落下しているのだ。しかも、その気配がしっかりと感じられた。奴の使っていた謎スキルも、シエラによって無効化されたらしい。

凄まじい邪気に、周辺のスキルを無効化した謎の能力。正直、侮っていた。シエラは俺たちの想像の上をいく力を持っていたらしい。

「死ねぇ! ゼライセェ!」

「くっ! 痛いじゃないか!」

「ちっ!」

湖に投げ出されたゼライセに、空を駆けるシエラが剣を叩きつけた。その剣は、確実にゼライセの体を斬り裂いている。盛大に噴き上がる血飛沫が、その証拠だ。

右の肩口から肺あたりまでを斬り裂かれたゼライセが、口から大量の血を吐き出すのが見えた。だが、ゼライセはダメージを感じさせない動きで水中から空へと逃れる。

痛いなどと言いつつも、その顔に苦痛の色はない。だが、ゼライセから感じられる生命力が確実に弱っているのが分かる。

すでにポーションを使って傷は塞がれたものの、明らかにシエラがゼライセを追い詰めていた。

シエラは、俺たちにとって味方と考えていいんだよな? だが、以前にフランに向けて殺気を放ってきたことを考えれば、シエラがフランに対して何らかの隔意を抱いていることは間違いない。

今はゼライセに集中しているようだが……。

『フラン、動けるか?』

(ん!)

すでにスキルは正常に作動するようだ。フランもウルシも、空中跳躍で飛び上がっている。

その間にも、場所を湖面から空に移し、シエラとゼライセの激しい戦いが始まっている。

シエラの動きは速いが、剣術の腕前はそこそこだ。剣の能力でステータスは強化されても、スキルはそのままなのだろう。

シエラの邪剣と、ゼライセがどこからか取り出した水晶で作られた美しい剣が、激しく打ち合わされる。

「このぉぉ! ゼライセェ!」

「速いね! でも、それじゃ僕には届かないよ!」

対して、ゼライセの動きがあり得なかった。突如、達人並の動きを発揮したのだ。確実に剣聖術スキルを所持している。それも、相当な高レベルで。

いや、魔石兵器の効果か。奴は、魔石に込められたスキルを短時間使うことができる技術を編み出していた。それによって、剣術スキルを得たのだろう。

「はぁぁぁ! 死ねぇ!」

「あははは! それは無理な相談だね!」