軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

601 視線の主

数は多いものの、モドキ相手に俺たちが苦戦することはなかった。

あまり派手な攻撃はできないせいで手数は必要だが、こちらがダメージを負うことはほとんどない。あっても、かすり傷程度だ。

まあ、船などを狙っているモドキに奇襲を仕掛けられるし、元々俺たちが格上だ。苦戦する要素がなかった。

だが、気は抜かない。

(師匠、見られてる)

『ああ。俺も視線を感じてる。だが、どこからかは――』

(私も分からない)

明らかに何者かが、俺たちを見ていた。

ただ単に船団の人間たちが、モドキたちを蹂躙する謎の少女を、驚きを持って見つめているということではないだろう。

それはもっと粘っこい、不気味な視線である。まるで、興味深い実験対象を観察しているかのような。もしくは、道端で目を付けた幼女の誘拐計画を練っているかのような。不快さと変質性が感じられた。

すぐにでも居場所を見つけて叩きのめしたくなる。

それに、こいつは俺たちだけを見ているのではない。どうやら、この戦場全体を観察しているらしい。

何者なのだろうか? 捕まえれば分かるだろうが、相手の場所が分からない。

余程距離があるのか、高度な隠密能力を持っているかのどちらかだろう。

だが、それは俺とフランの話である。

(オンオン!)

ラグナロクウルフに進化したウルシの鋭敏な感覚は、確かに視線の主を捉えているようだ。さすがだな。

『ウルシはそのままそいつの居場所を捕捉し続けろ』

(オン!)

まずはモドキを片付けることが先決だ。他の冒険者たちも参戦し始めたが、まだ戦力が足りていないからな。俺たちが抜ければ、船団に大きな被害が出るだろう。

『強いのはロブレンと――シエラか』

(ん。あの剣、凄い)

『確かに』

フランが驚く通り、シエラの振るう漆黒の剣は、想像以上に強力な魔剣であった。邪気を纏うせいで鑑定ができなかったが、相当な高位魔剣であることは間違いないだろう。

単純な攻撃力だけではない。明らかにシエラの能力を底上げしているのだ。しかも、かなりの強化率だった。

元々はランクD相当のシエラの動きが、ロブレンと比べても遜色がないほどである。

黒い邪気を纏った剣を握り、高速で水上を駆けながらモドキを次々と斬り裂く姿は、とてもランクD冒険者とは思えない。

だが、シエラからはなぜか、焦りに似たものを感じ取ることができた。それは、モドキに対する警戒とも、怒りの感情とも違っているように思える。

強大な相手を前にした覚悟がそう思わせるのかと思ったが、シエラの実力ならば、モドキの群れであっても問題なく戦えるだろう。あれほどの緊張感を纏うのはおかしく思える。

ならば、何に対しての緊張だ?

モドキを倒しながらもシエラを観察していると、何かを探しているようにも見える。

どうも、俺たちと同じように、戦場を見つめる視線の主を捜しているようだった。

『まあ、俺たちが先に見つけたけどな!』

「オン!」

勝ち誇ってはみたものの、完全にウルシのお陰だけどね。

『よし、モドキも粗方仕留めたし、頼むぞウルシ』

船団の周りにモドキがいなくなったことを確認した俺たちは、間髪容れずに行動を開始した。相手を逃がさないためだ。

『視線の主が逃げる前に、決める!』

(オン!)

作戦自体はそう難しくない。

隠れている相手にウルシが影転移を使って奇襲を仕掛け、ウルシの気配を辿って俺たちも転移する。それだけだ。

問題は相手が転移でも届かないほど遠くにいた場合だが――。

「オォォンン!」

問題なかったらしい。ウルシがその場で影に潜っていった。

そして次の瞬間には、船団の数十メートル後方にウルシの気配が出現する。

『っていうか、近いな!』

「ん」

これは、相当な隠密能力を持った相手というのは確定だ。200メートル程度しか離れていないのに、俺とフランの探知を誤魔化すレベルというのはかなりのものだろう。

『油断するなよ』

「ん!」

俺は、戦闘準備万端のフランとともに、ウルシを追って転移した。勿論、気配は消している。転移した直後に発見されては、奇襲の意味がないからな。

ウルシのやや上空に跳んだ俺たちの眼下では、ウルシと一人の男が向かい合っている。

ウルシと同じように水面を踏みしめて立つ男の周囲には、黒い触手のような物が蠢いていた。ウルシが放った拘束魔術だろう。だが、男の張った障壁に防がれているようだ。

『ゼライセッ!』

金髪碧眼のその男には、見覚えがある。それはクソサイコイケメン、ゼライセであった。予感はあったが、やはり視線の主はこいつだったか。

「師匠!」

『わかった!』

フランが即座に俺を構えた。その言葉に呼応して、俺は自らを刀形態へと変形させる。久しぶりの感覚かもしれない。ここまでツーカーで通じ合ったのは。

やはり、剣とその使い手だ。俺はフランの保護者だけど、フランの剣でもある。俺たちが最も通じ合うのが戦いの場というのは、必然なのだろうな。

「ん」

『ああ』

分かる。フランの言いたいことが。

空気抜刀術で、ゼライセを叩き斬る。あえて転移を使わず、落下の力を斬撃に加える。使用するのは、こちらの気配を隠蔽しやすい風の属性剣だ。勿論、他にも様々なスキルを同時に発動した。

自分の求める通りのスキルを発動させた俺に、フランが満足げに目を細め、微かに笑った。

『さあ、行こう。フラン!』

「ん!」