軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

599 工房炎上

ゼライセの居場所は聞き出した。緋水薬を作っている工房にいるらしい。

(ロブレンがいってるとこ?)

『ああ、そうだろうな』

もしかして、このままだと逃げられるか? ロブレンを馬鹿にするわけではないが、ゼライセをどうにかできるとは思えない。

こちらが工房を怪しんでいるとバレてしまえば、ゼライセは即座に逃走に移るだろう。

ただ、この船を放置もできないんだよな。全員を捕縛できているわけじゃないし、商会長などの幹部も全員は捕まえられていない。

悩んでいると、ウルシの遠吠えが聞こえた。同時に、この船に向かってくる複数の気配がある。

『どうも、冒険者たちが来たみたいだな』

ウルシの声に緊迫感がなかった。敵ではないのだろう。

はたして、甲板に出てみると冒険者たちが小舟に乗ってこちらに向かってくるところであった。中には見知った顔もいる。以前、模擬戦をしたことがあるランクC冒険者のダゴールたちだ。

「黒雷姫殿! 久しぶりでござるな! お元気そうで何より!」

「ん。ダゴールも」

「はっはっは。それが数少ない取柄ですゆえ。さて、ロブレン殿から頼まれてこの船の制圧に参ったのですが、どのような状況となっておるのでしょうか?」

冒険者たちのまとめ役であるダゴールに、縛って隣に転がしてあるグレゴリーが全て喋ったということと、この商会がレイドス王国の隠れ蓑であるということを説明する。

「ロブレン殿の説明で聞いてはいましたが、やはり本当でしたか……」

「後は任せていい?」

「任されましょう。して、黒雷姫殿はいかがなされるので?」

「工房に向かう」

「なるほど」

「私たちが突入してから、逃げた奴はいない。転移とか使ってなければ」

そうなのだ。商会長などが脱出するために、転移の羽根くらいは用意していてもおかしくはない。ただ、あれはあまり長距離は移動できないはずだ。

それこそ、船の中から外に脱出するにはギリギリの距離だろう。そんな近くに転移した者がいれば、俺やウルシが気付かないはずがなかった。

しかし、俺たちの知らない転移の魔道具がある可能性はあるし、商会長が実は時空魔術の使い手でしたという可能性もある。その場合は、正直どうしようもなかった。

「とりあえず、この船にいる人間は全員捕縛して」

「分かり申した」

これで、俺たちは工房に向かえるな。ただ、正確な場所が分からないから、案内がほしいところだ。ここから見えるなら、簡単なんだけどな。

そんなことを考えていたら――。

ドゴオオオォォォォォンンン!

「う!」

「オフ!」

『うわっ』

突如響いた轟音に、フランとウルシがビクッと首をすくめた。俺も驚いて、思わず声を上げてしまったのだ。

音が聞こえた方角を見ると、すぐに原因が分かった。

商業船団の一角にあった小型の船から、天に昇る巨大な火柱が噴き上がっていたのだ。何かが爆発したのだろう。

何が起きた?

事故? 事件? 魔獣にでも襲われた?

未だに炎が舞い上がり続ける船の姿は、ニュース映像で見たタンカー火災にも似ている。まあ、規模はこっちの方が小さいが。

それでも、あの火勢では周囲の船に飛び火する恐れもあるし、救助もままならないだろう。

『あの船って何の船なんだ?』

商業船団の船は、役割も持ち主も千差万別だ。居住用の船や漁業用、オフィスに工房、ギルドの本部など、俺たちみたいなよそ者では一見しただけでは判別できない。

「ダゴール。あの船、どこの船?」

「あ、あれが黒雷姫殿が向かうと言っていた工房船でござる!」

え? あれが?

『ロブレンたちは無事なのか?』

(師匠、ゼライセの仕業?)

『わからん!』

だが、限りなくその可能性は高いだろう。

『とりあえずあの船に向かうぞ!』

「ん! ウルシ!」

「オン!」

フランはウルシの背に飛び乗って、爆発炎上する工房船に向かった。工房というだけあって可燃性の薬品などを積んでいるのか、時おり大小の爆発が起きている。

しかも、船底に穴が開いたようで、かなりの速度で沈み始めていた。これは、かなりの大惨事だろう。

魔術で水をかける程度で、どうにかなるようには思えない。

『おいおい、ロブレンたちは……』

「師匠! あそこ!」

フランが指差す先には、板に掴まって湖に浮かぶロブレンの姿が見ていた。

「ロブレン!」

「ああ、フランさん……」

すでにウルシの姿を何度も見たことがあるからか、ロブレンが巨大な狼に怯える様子はない。その余裕もないのかもしれないが。

俺が念動を使って、ウルシの背の上にロブレンを引き上げる。

「だいじょぶ?」

「私はなんとか……。だが、一緒に工房に踏み込んだ他の冒険者たちが……」

「何があった?」

悲痛な顔をするロブレンに、フランが爆発の原因を尋ねた。

「工房にいた錬金術師が、いきなり強力な火炎魔術を放ったんだ。そうしたら、薬品に引火してね」

「その錬金術師は?」

「分からない。爆発に巻き込まれたはずなんだが……。その程度で死ぬとは思えないんだよ」

ロブレン曰く、金髪碧眼の、子供のような喋り方をする青年だったそうだ。

「でも、あれはただの錬金術師じゃない。もっと、恐ろしい相手だよ……。見ただけで、鳥肌が立った」

間違いない。ゼライセだ。ロブレンはその鋭い勘で、相手がただ者ではないと察知したのだろう。

『フラン、とりあえず救助を優先するぞ』

「ん!」