軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

597 グレゴリー、はく

遠くに感じるウルシの気配を頼りに、船の中を進む。

道中で商会の人間に出会った場合は、できるだけ優しく眠ってもらうことにした。全員がレイドス王国の人間なのか、現地の雇われ従業員なのか分からないからだ。

敵と判明していれば、足をへし折って転がしておけばいいんだがな。

『フラン、そこの角だ』

「ん」

フランがたどり着いたのは、船の上層階の一角である。上層がオフィス、下層が倉庫になっているのだろう。

『ウルシ』

(オン)

俺が呼びかけると、観葉植物の物陰からウルシが現れる。

『この部屋にグレゴリーがいるんだな?』

(オンオン!)

『フラン、部屋の中にいるやつは全員捕縛する』

(ん!)

『ウルシは、船から逃げ出す奴がいないか監視してくれ。誰であっても逃がすな。多少手荒になってもいい』

(ガル!)

そして、ウルシを見送った俺たちは、目の前の室内に踏み込んだ。

中にいた人間たちは、フランによって斬り裂かれた扉が倒れる音で、ようやく侵入者に気付いたらしい。

デスクを漁っていたグレゴリーがこちらを振り返った。

次いで、驚愕の表情を浮かべる。

「な、なぜ……」

「なんでアンデッドに殺されずに、ここにいるか?」

「!」

その言葉で、自分たちの企みが露見したことが分かったのだろう。

「ジャグ! ベード! 殺せ!」

部屋の中にはグレゴリー以外にも、冒険者風の男たちがいた。

部屋の外のフランに全く反応できていなかったことからも分かるが、あまり強くはない。いや、戦士としての能力は普通なんだが、感知などの戦闘以外の技能が低い感じだ。

「……はぁ!」

「ぬおお!」

ただ、訓練はしっかりとされているらしい。余計な言葉を口にすることなく、フランに対して攻撃を仕掛けてきた。

相手の氏素性も年齢も関係なく、命令に従うことを叩き込まれているのだろう。連携の練度も悪くはなかった。

相手がランクE冒険者程度であれば、通用していたかもしれない。だが、フランには一切通用しなかった。

フリッカージャブのように振るわれたフランの拳が2人の顎を連続で打ち抜き、意識を一瞬で刈り取る。

ジャブとはいえ、フランの力で殴られたのだ。顎の骨は最低でも粉々だろう。

「な……じ、従騎士2人を瞬殺?」

「アンデッドを倒した私が、いまさらこんな奴らに苦戦するはずがない」

何故か驚愕するグレゴリーに、フランが首を傾げながら告げる。

すると、見開かれていたグレゴリーの目が、さらに見開かれた。人間の目って、あんなに大きくなるんだな。

「倒した……? 倒しただと?」

「ん」

「嘘だっ!」

「嘘じゃない」

「あれは、小国であれば滅ぼすことさえ可能な化け物なんだぞ……! 素体は非戦闘員だったが、並の冒険者には傷付けることさえできないはずだ! それを……!」

「倒した」

「馬鹿な!」

どうやら、アンデッドに気付いて、戦わずにスルーしてきたと思ったらしい。まあ、ワイト・キングの強さを知っていれば、そう思われても仕方ないだろう。

目の前で男2人が瞬殺された光景を見ても、フランがワイト・キングより強いとは思えないようだった。

だが、どちらにせよ自分が勝てない相手であることは理解しているらしい。グレゴリーの目に、怒りと焦りの色が浮かんでいた。

「小娘……。今なら穏便に――」

フランを脅してこの場を切り抜けようと考えたのだろう。しかし、グレゴリーの言葉を遮るように、フランが口を開く。

「お前らがレイドス王国と繋がっているのは分かっている」

「は、はは……。何を言い出すかと思えば。どこでそんな誤情報を……」

この期に及んで言い逃れをしようとするが、もういいや。ここで問答をしていても仕方がない。

「しっ」

「がっ!」

フランが身を低くしながら軽く踏み込み、グレゴリーの腹にボディブローを突き立てた。フランの拳が、小太りのグレゴリーの贅肉に完全に埋没する程度には深く入っている。

「うげおぉぉぉおぉぉ!」

色々な物を吐き出しながら、グレゴリーがその場にうずくまった。

自らの嘔吐物に顔から突っ込んでいるが、そんなことに気づかないほどに腹部の痛みが耐えがたいのだろう。

吐き出す物が無くなっても、まだ腹を押さえながらえずいている。

それでも、十数秒もすれば多少マシになってきたのか、悲壮感のある表情でこちらを見上げるグレゴリー。自分の立場が完全に理解できたらしい。

「色々喋ってもらう」

「……くっ」

その後、多少は耐えていたんだが、やはり戦闘員ではないグレゴリーは痛みに対する耐性が高くはなかった。

暴力を用いた尋問を受ける覚悟はしていたのだろうが、実際に痛めつけられてその覚悟が折れてしまったらしい。

ヒールをかけられて、あんなに絶望的な顔をする人間、なかなかいないだろう。

「うああぁ……喋る……喋りますぅ……し、しゃべらせて、くださぃぃ」

十分後には泣きながらそう懇願していた。