軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

558 終わらない模擬戦

『さて、少し痛い目を見てもらうとしようか』

「ん!」

フランに対処するべく、固まって動かない生徒たち。その顔には強い恐れと、ほんの僅かなやる気があった。

この授業は生徒たちに圧倒的な強者と向き合うことに慣れさせて、いざという時に逃げられるようにするためと聞いている。

本来であれば、降参する以外に選択肢がない相手と無理やり戦わされているわけで、ちょっとかわいそうでもあるな。ただ、この授業で絶望を味わうことで、のちの冒険で同じ状況でも思考停止しないようになれば、それがいつか彼らの命を救うことになるかもしれない。今ここできっちりと叩きのめすことが、彼らのためになるのだろう。

それは生徒たちにも理解できているようだ。そもそも勝ち目がないことなど、フランの力を見せつけられた彼らにも分かっている。しかも意地が悪いことに、この模擬戦には勝利条件が提示されていない。

フランに一撃入れられれば。10分間耐えきれば。特定の場所まで逃げ切れば。そういった条件が何もないのだ。つまり、彼らに残されているのは、フランに叩きのめされる未来だけである。

それでも倒される前にせめて一矢報いようと考えているのだから、感心すら覚えた。まあ、手は抜かんけど。

『どうする? ここはやっぱり広範囲にスタンボルトでもばら撒くか? バーストフレイムでもいいが』

魔術で一網打尽にすることを提案してみたが、フランには違う作戦があるようだった。

俺を下げたまま、ゆっくりと生徒たちに近づいていく。

(師匠は防御だけしていて)

『どうするつもりだ?』

(ん? 正面突破)

そして、互いの距離が30メートルほどに近づいた瞬間、生徒たちが動き出した。

前衛の生徒の作る壁の向こう側から、無数の矢と、様々な種類の魔術が一斉に放たれる。

属性などもバラバラなのは、それぞれの得意な術を使ったからだろう。

こんなに近いのに、狙いは雑だ。フランに直撃する軌道を取っているのは全体の半分ほどであろう。

いや、あえてなのかもしれない。多少回避した程度では逃れられないように、広くばら撒いたのだ。なかなか考えている。

普通であればその場から飛び退くか、障壁などで防ぐだろう。しかし、フランはどちらの行動もとらなかった。

ゆっくりとした足取りを止めることなく、降り注ぐ弾幕を見つめている。

このままでは当たる。生徒たちはそう思ったのだろう。喜ぶどころか、むしろ動揺しているのが分かった。

彼らにとってこの攻撃は牽制でしかなかったはずだ。高位冒険者を多少なりとも足止めできれば御の字。それくらいの考えだったはずである。

予想外に成功しそうに見えたせいで、驚いていた。

まあ、勘違いだけど。

「ふっ!」

フランが無造作に俺を振るった。そして、矢を叩き落とす。その後も魔術を斬り、弾いて、弾幕の中を悠然と歩を進める。

「矢を切った?」

「馬鹿! あれくらいはイネス教官だってやる! それよりもその後だ!」

「ま、魔術を斬ったぞ!」

「魔剣の力か?」

「それよりも技量だ! 正確に魔術を捉える技量が伴ってなきゃ自爆するだけだ!」

生徒たちが騒いでいるが、近づいてくるフランを見てそれどころではないと気付いたのだろう。再び詠唱を開始し、弓を持った生徒が矢を射かけ始める。

フランと生徒たちの距離が15メートルほどに縮まったあたりで、魔術の第二射が放たれた。今度は風魔術や水魔術が多い。視認されにくい術を選んだのだろう。

しかも、その斉射に合わせて前衛が動き出す。

遠距離攻撃を防いでいる間に接近して攻撃しようというのだ。

先程よりも正確に、それでいて僅かに着弾時間をずらして次々と撃ち込まれる遠距離攻撃。防御をし続けさせることで、フランが前衛に反撃する隙を与えないつもりかね?

魔術を斬り払った直後のフランに、前衛の生徒たちが一斉に襲いかかった。

剣士4人が四方から斬りかかり、その隙間から槍持ちたちが穂先を突き入れる。さらにその包囲の後方には、第2陣が攻撃の隙を狙っていた。

ちゃんと全員が同時に攻撃ができているし、攻撃の狙いも正確だ。パーティなどの大人数で、1体のモンスターなどと戦う訓練の賜物なのだろう。

しかし、今の相手は魔獣ではなく、凄腕の剣士なのだ。

「なっ! 何が!」

「馬鹿な!」

「は、反射?」

フランは歩みを止めない。それでいて、全ての剣が同時に弾かれていた。まあ、生徒たちにはそう見えたというだけで、フランが超高速で俺を振るい、剣士たちの攻撃を弾いただけだが。

気がついたら自らが繰り出した攻撃が弾かれたため、反射魔術で防がれたと勘違いした生徒までいたらしい。

槍による突きも同様だ。穂先を跳ね上げられてしまう。攻撃を真上に跳ね上げられたせいで、剣士も槍士も全員がバンザイ状態で、フランの前に大きな隙を晒すことになった。

「ん。とりあえず4人」

「ごぼあ!」

「ぐげ!」

腹にワンパンをもらってその場に崩れ落ちた前方の2人はまだマシかな? 背後の2人は後ろ蹴りを鳩尾に叩き込まれて数メートル吹き飛んでいる。

しかも、意識を失わない程度の攻撃だったので、気絶することもできずに胃液を吐き出しながら身悶えしていた。

気絶させなかったのは、回復させるかどうか他の生徒に悩ませて、一瞬でも判断を遅らせるためだ。あとは、身悶えする仲間の姿を見せつけることで、恐怖を植え付ける狙いもあった。まあ、他にも目的はあるけど、それは今はまだ関係ない。

思惑通り、第2陣として後ろに控えていた生徒たちの出足が鈍る。その間に、フランは槍士たちの始末を終えていた。

フランが使用したのは、魔力放出スキルである。今のフランなら魔力を弾のように飛ばして、複数の敵を同時に攻撃できた。

手加減されているとはいえ、魔力弾で腹を攻撃された槍士たちは、剣士たちと同じように涙目で身悶え状態だ。

生徒たちにとっては数秒の間に、前衛の半分以上が倒されたことになる。その驚愕が生徒の思考を止め、さらなる隙を晒すこととなった。

前衛全員がフランの魔力放出スキルで攻撃され、無力化される。結局、攻撃を仕掛けられてから10秒ももたなかったな。

「う、撃て撃て!」

「こ、このまま攻撃を続けたって……」

「それでもやるしかないだろうが!」

「まて! 無駄撃ちするな!」

後衛の生徒たちも大いに混乱している。闇雲に魔術を撃とうとする者。逃げようかどうか悩む者。作戦を練り直そうとする者。色々だ。

結局、散発的な攻撃でフランが止まるはずもなく、彼我の距離が10メートルを切った時点で、半分ほどが距離を取るために後退を始めた。

しかし、逃がしはしない。

フランが突如ギアを上げ、一気に生徒たちとの距離を詰めたのだ。

後はもう一方的であった。後衛とは言え近接戦闘の心得もあるのだろうが、前衛の生徒たちと比べるとやはり劣る。結局、何もできずに全員が腹パンを食らって倒れ伏すことになるのだった。

だが、前衛後衛合わせても、気絶している生徒は誰一人いない。俺たちの狙い通りだ。

「……ねぇ。このまま寝てるんなら、一方的に攻撃するけど?」

「?」

「え?」

フランの言葉を聞いた生徒たちの顔に疑問符が浮かぶ。苦悶の表情を浮かべながら、その言葉の意味を必死に考えているのだろう。

そして、悟る。

「お、起きろ! みんな起きろ! まだ模擬戦は終わってない!」

「10秒後にまた攻撃を開始する」

「立て立て!」

「くそぉぉぉ!」

フランは全員に一発ずつ攻撃を当てただけだ。生命力も大して減っていないし、意識を失ってもいない。

つまり、模擬戦はまだ終了してはいなかった。

うん。ちょっとかわいそうだけど、イネスの注文通り、絶望を与えることはできそうだ。

その後、何とか起き上がって武器を構えた生徒たちを、フランが存分に蹂躙したのであった。意識を失った生徒たちの安心したような表情が、彼らの心情を物語っているのだろう。

でもね、イネスが鬼教官と言われる意味が分かった。

「お前らが随分と早く模擬戦を終えてくれたおかげで、時間がまだまだ余っている! 喜べ! 2回戦目も行えるぞ!」

デッデンに介抱されて意識を取り戻したばかりの生徒たちに、そう言い放ったのだ。

いや、俺もフランも手加減はしなかったけどね。