軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

557 模擬戦の準備

「フ、フラン殿! 見事な魔術と剣技! ありがとうございました! あれほどのものをお見せいただけるとは!」

イネスがやや上ずった声で、フランを称賛する。フランの力を目の前で見せつけられて、かなり興奮しているらしい。

事前にフランの実力をある程度理解していたはずのイネスでさえこれなのだ。生徒たちは未だに呆然としたままだった。

ただ、今日の授業はこれで終わりじゃないんだよね。

事前にイネスに聞かされていた流れとしては、最初にフランの演武でインパクトを与え、そのまま生徒たちと実際に模擬戦。可能であれば、こちらでも少々痛い目を見させる。そう頼まれていた。

守護精霊の監視は、現在のフランには問題ない。正式に特別模擬戦教官と認められたことで、授業中の戦闘行為はほぼ不問とされるそうだ。悪意を以って生徒を殺害しない限り、咎められることもない。

勿論、授業外や、生徒として扱われている場合には適用外であるが。

生徒たちはこのまま模擬戦に移れるんだろうか? 休ませてやった方がいいんじゃなかろうか? 驚き疲れて、精も根も尽き果てている感じだ。

しかし、イネスはさすが鬼教官と呼ばれるだけはある。

「予定通りに模擬戦を行いたいと思いますが、よろしいですか?」

このまま進めるらしい。ただ、やや心配げな表情でフランに尋ねてくる。

「休憩はどの程度必要ですか?」

「休憩?」

「はい。30分ほどで回復しますか? スタミナポーション、マナポーションもありますが」

大魔術を放ったフランをしばらく休憩させなくてはならないと思っているらしい。あれだけ盛大に上級の魔術を放ったわけだし、そう思われても仕方はないだろう。普通の魔術師何人分もの魔力を消費したからな。

だが、フランは涼しい顔で首を横に振った。

「全然へいき」

「ぜ、全然平気ですか……。確かに、もう汗も止まってますね。さすがです……」

イネスは休憩が必要ないと言われ、心底驚いている。

「で、では、このまま模擬戦に移行します」

「わかった」

イネスは生徒たちに向き直ると、未だに呆けた様子の彼らに鋭い声で号令をかけた。

「これよりフラン殿と貴様らで模擬戦を行う!」

途端に悲鳴があがった。生徒たちの顔には強い怯えの色がある。先程、少々やり過ぎたらしい。

しかし、怯えを克服するのが、特別模擬戦教官との戦闘の主な目的だ。イネスは冷徹な目で生徒たちを睨み、告げた。

「全員、戦闘準備!」

「ぜ、全員でですか?」

「私は全員と言ったはずだが? 聞こえなかったか?」

「いえ! 聞こえました! 申し訳ありません!」

思わず聞き返してしまった男子学生がイネスにドヤしつけられる。それを見た生徒たちは、その後は一切の無駄口を叩かずにグラウンドの中央部分に駆け出すと、その場で陣形を組み上げた。

フランへの恐怖を、イネスへの恐怖が弱めたらしい。まだ青い顔をしたままだが、なんとか動き出す。

どうも、5、6人一組のパーティを組み、さらにそのパーティ同士で連携をとるつもりであるようだ。この間になにやら生徒同士で話し合っているので、作戦を確認しているのだろう。

「よろしい。ではフラン殿、お願いします。回復に関しては、養護教諭のデッデンを呼んでおりますので、お気になさらず」

「ご紹介に与りました! デッデンであります! 治癒魔術を習得しておりますので、腕の2本や3本はお任せください。すぐに再生してみせましょう!」

3本て……。いや、複数人という意味か? その話を聞いて、生徒たちが顔を引きつらせている。

自分たちの腕が斬り飛ばされる未来が見えているのだろう。危険性は低くないのだ。

「では、模擬戦を始める!」

イネスの掛け声で、静かに模擬戦が始まる。

前衛の生徒たちは武器と盾を構え、その場から動こうとはしない。迎え撃つつもりなのかと思ったら、後衛の補助魔術を待っていたらしい。魔術耐性を上げる呪文と、防御力を上げる呪文を使っている。

フランの魔術に対抗するつもりらしい。

防御力を上げるのも、一撃で倒されることを防ぐためか? ただ、開幕であれだけ固まっていると、広範囲殲滅系の魔術で全滅じゃないか? それに、防御を上昇させたとして、フランの動きに反応できるつもりか?

速度で圧倒的に勝る相手と戦う時に、防御力を上げるのは悪くない選択肢だ。だが、それも相手の動きがかろうじて見える場合に限るだろう。

そもそも、見ることも感知することもできない相手であった場合、多少防御を上げたところで意味はない。

ゴドダルファ並みの鉄壁であるならば、カウンター狙いもできるだろう。しかし、彼らのレベルの魔術では、ほとんど意味はないと思われた。

いや、これが模擬戦であるということを前提にしていれば、なくはないか?

先程見せた強力な魔術や剣技は、そもそも模擬戦では使えない。なにせ当たれば即死させてしまう。そうなのだ。回避や補助はいくらでも本気を出せるが、攻撃に関してはかなり手加減する必要があった。

生徒たちはそれを織り込み済みということなのだろう。だったら、防御を固めれば何とかなると考えてもおかしくはない。

ただ、それでいいの? 模擬戦って、実戦を想定して行うものじゃないの? 模擬戦で、相手が手加減することを前提で作戦立てるって、ありなのか?

まあ、事前に情報を集めて分析し、状況を見極めたとも言えるんだが……。

「……」

イネスはお怒りの顔だ。

「フラン殿……。奴らに絶望を与えてやってください。それこそ、心を折ってくださって構いません」

「わかった」

少し抑え目で行こうかとも思っていたが、イネスのリクエストはその逆だ。

フランがすでに通常サイズに戻っている俺を抜き放ち、グラウンドに足を踏み入れる。

しかし、生徒たちはまだ動かない。やはり広域殲滅魔術は無視して、固まって対処するつもりであるようだ。

ベタだが、前衛が動きを止めつつ、後衛が攻撃を加える計画だろう。

ゆっくりと歩くフランを観察している。すでに魔術の詠唱は済んでいるし、矢も番えられている。フランがどんな行動を取っても、対処できるつもりなのだろう。

『さて、少し痛い目を見てもらうとしようか』

「ん!」