軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

543 邪魔するモノ

「ゼロスッ……リードッ!」

黒雷を身に纏いながら駆けるフランが、殺意の籠った呟きを漏らす。だが、その殺気は一切外に漏れていなかった。

当然、覚醒と閃華迅雷を使用したことで大量の魔力が漏れ出している。だが、そこに殺意が伴うかどうかで、狙っている対象――ゼロスリードに気付かれるまでのほんの一瞬を稼ぐことができるのだ。

激情に支配されていても、戦闘に臨むフランは冷静だった。冷静に、ゼロスリードを殺すために行動している。

「剣神化」

『ぐぅ……!』

やばい。フランは想像以上にキレている。俺に使用してもいいかどうかの確認もせずに、剣神化を使っちまうとは! いつものフランだったら絶対にありえない!

これはもう止まらないだろう。その目はただただ、真正面にいる傷だらけの大男に向いていた。

何故か邪気が薄らいでおり、この距離に近づいてようやく感じ取れたが、確かに男の内側から邪気を感じることができる。あの姿に、この邪気。間違いなくゼロスリードだ。

狂おしい程の殺意を秘めたフランの視線に気付いたのか、ゼロスリードの顔がようやくこちらを向いた。

いや、俺たちが剣神化などで超高速の領域に入り込んだ為に遅く見えるだけで、まだフランが覚醒してから瞬き数回程度の時間しか経っていないだろう。だが、すでに彼我の距離は半分以下だ。

フランからさらに魔力が迸り、その全身の黒雷がその密度を増す。そして、全速力で駆けるフランがそのまま黒雷と化した。

「黒雷転動っ」

黒雷転動で超高速移動したフランが再び出現した先は、ゼロスリードの背後だ。すでに俺は背の鞘から抜かれ、腰だめに構えられている。

「はぁぁ!」

押さえられていたフランの殺気が溢れ出した。これ程の殺気を放つフランは、俺でさえ初めてである。

その殺気のはけ口を求めるかのように、俺が振り抜かれた。荒々しい感情とは裏腹に、その攻撃は静かで美しい。

剣神化により最適化されている剣閃は、確実にゼロスリードの首筋を捉えていた。

これは絶対に躱せない。絶対に決まった。剣神化状態のフランがそう確信したのが、俺にまで伝わっていた。

ゼロスリードはフランの殺気を感じ、反応している。こちらを振り向こうとして、頭が僅かに動いているのが分かった。だが、今さらそんな動きをしているという事は、完全にフランの奇襲に対して反応が間に合っていないということだ。

今から何をしたって、ゼロスリードがこの攻撃を防げる確率はゼロであった。スキルなどを発動しようとしたって、もう遅い。

俺の刀身がゼロスリードの首に吸い込まれ、その肉を斬り裂いた。その感触が伝わってきた直後であった。

ドオオゴオォ!

「がっ!」

『ぐあぁ!』

俺とフランは横合いから襲ってきた衝撃に弾き飛ばされていた。

それほど威力があったわけではない。だが、攻撃を繰り出した瞬間を狙われたせいで完全にバランスを崩してしまった。

このタイミングを狙ったのだとしたら、その見極めは完璧だろう。

フランは横に吹き飛ばされながら空中で体を捻り、危なげなく地面に着地した。謎の攻撃は誰のものなのか?

異常なことに、攻撃されるまで俺たちにはその大元が察知できていなかった。今は分かる。ゼロスリードのやや後ろ。そこにナニかがいる。

しかし、俺にはその正体が掴めなかった。魔力と気配の偏りから、そこに何らかの存在がいることは分かるんだが……。

だが、フランは理解しているようだ。その目ははっきりとゼロスリードの後ろにいる存在に向いていた。もしかして見えているのか?

しかし、フランの目はすぐにゼロスリードに戻った。

『フラン?』

「いく」

『え?』

僅かの躊躇もなく、フランが次に選択した行動は再びの攻撃であった。俺たちを攻撃してきた謎の相手を無視してでも、ゼロスリードを倒すつもりであるようだ。

いや、障壁を纏う事で攻撃を防ごうということらしい。相手の正体が分かったのか?

「ちぃ! このガキは!」

「ああああ!」

最早その身に纏った凶悪な殺気を隠すこともせず、剣神化状態のフランがゼロスリードに斬り掛かる。

初撃で、左腕を斬り飛ばしたが、その感触がおかしい。明らかに肉とは違った、硬い物質だったのだ。

そこで思い出す。そう言えばキアラの最期の攻撃がゼロスリードの左腕を切断していたが、未だに再生していなかったらしい。

邪人にとって、神属性は弱点というだけではない、致命的なダメージを与えるようだった。今の俺は剣神化の効果で神属性を纏っている。

これは、気休めでも何でもなくチャンスだ。今俺をゼロスリードにぶち当てれば、致命傷を与えられるかもしれない。

だが、この攻撃も上手くはいかなかった。

先程の不可視の衝撃ではなく、今度は俺にも感じられた。突如フランとゼロスリードの間に畳二枚ほどの大きさの水の膜が張られたのだ。

魔力の障壁が張られたのかと思う程、濃密な魔力を練り込まれている。

しかし、フランは構わずに斬りかかった。その瞬間に水の膜が大爆発を起こす。

「ごばぅ……!」

『フラン!』

水の膜は、凄まじい量の水を圧縮したものであった。その圧縮された水が一気に解き放たれた結果、圧倒的な量の水が瞬間的に溢れ出し、まるで大爆発を起こしたかのように見えたのだろう。

空中でありながら水の暴威に揉まれ、溺れかけているフランを転移で救出する。しかし、俺には分かっていた。たとえ溺れかけていても、フランの顔はゼロスリードがいる方を向いていたということを。

まだ諦めていないのだ。だが、正直俺がもう限界だった。これ以上の戦闘はまずい。

『フラン、すまん。俺がもう……!』

「っ!」

俺の言葉を聞いて、ようやく自分が剣神化を使用していることを思い出したのだろう。慌ててスキルを解除する。

「ごめ……師匠……」

『今はいい!』

凄まじいプレッシャーが周囲を覆っていた。ゼロスリードではない。なぜかゼロスリードの放つ圧力は大したことがなかった。まるで戦う気がないようである。

プレッシャーの大元は、ゼロスリードの後に建物から出て来た人物だ。金髪のエルフだった。

その凶悪な威圧感を叩きつけられ、フランの全身に鳥肌が立つのが分かる。

「誰かしら? 私の愛する学園で粗相をする悪い子はぁ?」