作品タイトル不明
522 三国の関係
「うちのアホが済まなかったな」
フランの前で苦笑しながら頭を下げているのは、キアーラゼン冒険者ギルドのマスターだった。
見た目は爽やかなおじさま風なのに、喋り方が粗っぽくてギャップがある。ただ、その身から発せられる気配は、間違いなく高ランク冒険者のものだった。
「高ランクの冒険者なんかめったに来ないからよ。他国のランクBなんて目の前にして、パニクリやがったらしい。いつまでも新人気分がぬけねーんだよなぁ。あれでも去年よりはましになったんだが」
「高ランクが少ない? 強い魔獣が出たらどうするの?」
「滅多に出ることはないが、その場合は俺が出るか、商業船団に応援を依頼するな」
船団自体は決まったルートを回遊しているが、小舟などを使えば数日で各町に向かうことも可能らしい。
各町の冒険者で何とかしのぎつつ、商業船団の助けを待つ。それが、手に負えない事態が発生したときの基本方針であるらしい。
それ故、この地域の高位冒険者の多くは商業船団にあるギルドに所属し、その都度各町に散って仕事をするそうだ。彼らへの対応はマスターがしてしまうので、受付嬢は高ランク冒険者と接することがあまりないらしい。
「それで、フランはこの後どうするんだ? あのアホに商業船団の話を聞いていたようだが、興味あるのか?」
「ん……。少しあるけど、でも行かなきゃいけないところがあるから。また今度」
「そうか。あの黒雷姫がこの辺で活動してくれるとなれば、大歓迎なんだがな」
「知ってるの?」
「この大陸のギルドマスターで、嬢ちゃんの名前を知らないやつはいねーよ。あのディアスに目をかけられているんだろ。だいたい、嬢ちゃんをランクBに上げるときに色々と話が出ているからな」
そういえば、高位の冒険者になるにはギルドマスターの推薦が必要だった。その関係でギルド上層部にはフランの話が広がっているらしかった。
「実際に向かい合うととんでもねーな……。本当に黒猫族か? 俺の強者察知スキルがあんだけの警告を鳴らすのも久しぶりのことだ……。これでも元ランクBなんだが」
それも仕方ない。確かにこのギルマスも結構強いが、フランの場合は今でさえランク詐欺状態なのだ。
フランを軽く観察し、苦笑いしている。
「ここに来たのは、この国の情報が知りたかった」
「ああ、クランゼルからベリオスに入ったばかりだったか」
「ん。この国と、他の国の関係どうなってる?」
「そうさな。まず、ベリオスとクランゼルの関係は、付かず離れずって感じだろうな」
互いに、レイドス王国という軍事大国と接しており、過去においても大きな諍いがない国同士。どちらかが倒れれば、次はレイドスの標的になることが分かってもいるので、緩やかに連携をしながら様々な面で融通し合う。そんな関係が長く続いているそうだ。
「理想は、相手の国とレイドスが潰し合い、漁夫の利を得ることだろう。だが、それが難しいことも理解している」
現在、レイドス以外に脅威となる勢力もなく、かの国の脅威のおかげで貴族たちが外に攻めろと言い出すこともない。
戦争にさえならなければ、安定しているといってもよかった。
俺は前世の三国志を少し思い出した。名軍師・孔明が主である劉備に献策したという、天下三分の計だ。拮抗した国が3つ、互いに牽制し合うことで安定が訪れるという有名な策である。ジルバード大陸の北部は、期せずしてその状態になっているらしかった。
「まあ、クランゼルは少々揺らいでいるようだが、あそこも大国だ。いきなり潰れちまうこともあるまい。ベリオス王国からしても、潰れてもらっちゃ困る」
互いにスパイを送り合ったりはしているものの、積極的に潰し合うことは両国ともに望んでいないのだった。
「近々、ベリオスからクランゼルに何らかの支援があるだろう。まあ、裏でひっそりと、だがな」
「なるほど。じゃあ、レイドスとは?」
「今も少し語ったが、最悪だな」
何百年も前から、度々戦争をした間柄であり、国民感情も悪い。はっきり言ってしまえば、敵国と考えている国民が多いらしかった。
「ただ、侵略を受ける危険性については、低いと考えている」
「どうして?」
「自治区があるからだ」
特別自治区。魔術学院があるという場所だ。位置的にはベリオス王国の西側にあり、レイドスが侵略をした場合には自治区は絶対に通り道になるだろう。
「いくら相手がハイエルフだったとしても、国土の1割にも匹敵するような土地をポンと貸し与えるわけがないだろう? あれは防波堤の意味もあるのさ。実際、自治区の長であるウィーナレーン様と国の間では、色々と契約が交わされているそうだぜ?」
「契約?」
「俺も詳しく知っているわけじゃねーんだが、有事の際に参戦することや、魔術学院で生み出された技術を国内に優先して公開することなんかが取り決められているそうだ」
そして、国側も様々な特権をウィーナレーンに与えている。
「特別区域の自治。これが一番だろうな。国への納税義務の免除や、犯罪者の引き渡しの拒否権とか、いろいろと認められているらしい。あと、ヴィヴィアン湖の統治にも口出しする権限あるらしいぜ?」
「あの湖もハイエルフのものなの?」
「いや、全権があるってわけじゃないそうだが、開発やら何やらに、口を出すくらいの権限はあるそうだ。なんでもこの湖には精霊が住んでいて、その精霊を怒らせると国が亡ぶ危険があるんだと。その精霊を怒らせないように、監視する役目があるって話だ」
「国を亡ぼす精霊?」
どっかで聞いた話だ。クリムトの風の大精霊である。もしかして水の大精霊がここに居るのだろうか? だとしたら、怒らせるのは危険だろう。
「商業船団の奴らもぼやいてたぜ。船を増やしたり、新しい航路を決める度に、国や自治区への報告義務があって面倒だってな」
実際、そんな精霊がこの湖に住んでいるのかどうかなんて、誰も分からないのだ。ただ、ハイエルフであるウィーナレーンが言っているから、そういうものなのだろうと認識されているだけである。
「ハイエルフを怒らせるわけにもいかないから、逆らいはしないだろうがな」