軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

492 彼であった理由

『おいおい、それってヤバいんじゃないか?』

「ああ。実際、俺も危険な状態だった」

神々はケルビムの中にフェンリルを封印しておいて、何千年、何万年かけて徐々に邪神の力を引きはがして浄化するつもりであったらしい。

しかし邪神の侵食が思いの外深く、浄化されるどころか時間が経てば経つほどフェンリルの魂を侵していった。

「神剣とは邪神の欠片に対抗するための存在。それ故、その内に封じられている間は守られているはずだったんだが……。それ以上に邪神の力が強かった。まあ、4つの欠片が合わさった存在だったことが災いしたんだろう」

そうなっては座して待ってはいられない。神々が注目したのがフェンリルの持つ、喰った相手の力を取り込む能力である。ただ、魂状態のフェンリルが自力で獲物を取れるはずもない。

そこで、剣とフェンリルの魂を融合させることが計画された。斬った相手の力を吸収し、フェンリルの魂を回復させるためだ。

『俺が言うのもなんだが、普通に神様の力でフェンリルを回復させるんじゃダメだったのか?』

「俺も神の眷属であるとはいえ、神々のことを全て理解できているわけじゃないが……。神にもルールがあり、地上へどんな干渉をしても許されるというわけではないらしい」

神も、神々自身が定めたルールの中で力を振るっているってことか。じゃないと神の気まぐれで世界がメチャクチャになりかねんからな。

「そして、幾柱かの神が力を合わせ、今の師匠の基礎が作られた。斬った魔石を吸収し、俺が回復するシステムを組み込んだ剣だ」

「使い手は?」

「さあ? 神々に当てがあったのかどうか……。ただ、その前に解決しなくてはならない問題もあった」

「問題?」

「邪神だよ。俺が回復するシステムが完成したとして、それで邪神の力が急に弱まるわけでもない」

「確かに」

『じゃあ、その問題はどうやって解決したんだ?』

「ふふ」

俺の言葉を聞いて、フェンリルが笑う。俺を馬鹿にしている笑いではなく、悪戯っぽい笑みだった。

「その解決策こそが、お前だよ。師匠」

『はあ? 俺?』

「どういうこと?」

「邪神の力で最も厄介なのは何だと思う?」

「うーん?」

『厄介な力ね……』

「戦闘力か? そのしぶとさか? 生み出す邪人どもか? 違う、邪神が最も恐ろしい所は、他者を支配する能力だ」

神というのは多かれ少なかれ、眷属に対する支配力を持っている。混沌の女神であればダンジョンに関する眷属たち。獣蟲の神であれば獣人や獣や虫。眷属たちは神の命令に逆らうことが難しいという。無論、絶対ではないが、その強制力はかなり強い。

『絶対じゃないっていうのがむしろ驚きだな。抵抗できるのか?』

「獣人で言えば、一般人は抗えないだろう。獣蟲の神にこうしろと命令されれば、それに従わずにはいられないはずだ。だが、獣王やその側近レベルの強さがあれば、その支配をはねのけることができると思う。まあ、神に直接命令を下されて逆らう者がいるかは分からんが」

『普通の人間ならむしろ喜んで従うか』

「多分な」

人と神の関係については分かった。では邪神の眷属は? 邪人たちだけか?

「そうじゃない。邪神は、この世界で生まれし全ての者を支配できる」

眷属というのは、元をただせばその神が生み出した存在だ。獣蟲の神に生み出された神獣の末裔である獣人は、獣蟲の神の支配下にある。

「そして邪神は堕ちる前、戦神であった頃に神々の補佐をしていた」

この世界を生み出す際、戦神は全ての神の手伝いをした。つまり、この世界の創造全てに、わずかに関わっているのだ。それ故、邪神の支配はこの世界の全てに及ぶ。

戦神が手伝った部分はわずかであり、支配力は他の神々に及ぶものではないらしいが。

また、眷属が主神の支配に抗うことができてしまうのも、邪神が支配領域の一部を奪ったからであるそうだ。

「しかも邪神に堕ちた際に、その支配力を特化させるように力が変質したらしい」

『なんだそれ、そんな相手に勝てるわけないじゃんか』

「普通の存在では邪神の欠片に勝つのは難しいだろう。神剣を所持する者か、邪神の支配に打ち勝つだけの強さを持っている者だけが、戦うことができる」

『……で、そこになんで俺が関わる? 地球じゃありふれた、どこにでもいる日本人男性だったはずだぞ?』

今は廃棄神剣だが、地球にいた頃の俺はただのリーマンだ。ゲームとアニメと漫画が趣味のオタリーマンである。

「その地球生まれっていう部分が重要なのさ」

『地球生まれ……? なるほど! そういうことか!』

「わかったか?」

『この世界で生まれた奴らは邪神の眷属扱いになって支配されてしまう。だが、俺はこの世界の生まれじゃない。だから支配されない!』

「正解だ」

フェンリルや魔石吸収システムなどを地球人に繋ぎ、その人間の魂を主人格とすることで、邪神の支配を無効化する計画だったらしい。

フィルターというか、バリケードというか、とにかく俺が居ることでフェンリルたちは守られるそうだ。

『ようやく腑に落ちたよ』

俺自身は普通の人間なのになぜ召喚されたのか分からなかったが、地球生まれということが重要だったのだ。

『まあ、その中でなぜ俺だったのかという理由は分からんが』

「師匠は、無作為に選ばれたと思っているかもしれんが、それなりに選別されたようだぞ?」

『そうなのか?』

「ああ。まずは魂の形。俺にもよく分からんが、剣の主人格として適合するには、魂の形がそれなりに重要であるそうだ。神の受け売りだがな。特に、混沌の女神がダンジョンシステムを応用して作り上げた剣の基幹システム。これとの相性が重要であると聞いている」

『え? ダンジョン?』

「そう聞いているだけで、どこがどうダンジョンのシステムを利用しているのかというのは俺にも分からん。ただ、ポイントを溜めて新たな力を得るような形は、確かにダンジョンマスターに近いものがあるかもしれんな」

だから混沌の女神の眷属扱いになっているのか。それに混沌の女神は、俺は彼女の眷属でもあると言ってた。つまり、俺は他の神の眷属でもあると推測できる。多分、銀月の女神なのだろう。

「それと性格も重要だ。強力な剣の独立人格となるんだ、それなりにまともな人格を持っていなきゃならない」

『人格?』

自慢じゃないが、俺は聖人君子ではないぞ? むしろ欲塗れの俗人だ。

「むしろ俗人であることが重要らしい。神はこう言っていた。善人はすぐに独善に支配されて正義とか言い出すし、悪人はそもそも論外。ある程度の良心を持った中庸な人間こそが好ましい」

ははぁ、何事も程々な人間がいいってことかね?

「あとは宗教観。無神論者はダメだが、狂信者はもっとダメ。こっちの世界に来てまで我が神こそ唯一とか言い出したら最悪だ。それと、精神的な柔軟さ。こっちの世界にある程度馴染めるだけの素養も必要となる」

今の条件を総合的に満たす人種に心当たりがある。日本のオタクだ。善人ぶった奴らを見下しつつも大きな悪事をする度胸はなく、何かあれば一応の神頼み仏頼みをし、ゲームやラノベで異世界に対する理解もある。

うーむ、異世界転生の主人公が日本人のオタクばかりなのは実は理由があったんだなぁ。もしかして地球で氾濫していた異世界転生モノの作者。実は何割かは帰還者なのではなかろうか?

「さらにこちらの世界から地球に働きかけた際に、ちょうど死にかけている、もしくは死んだ人間じゃないとダメだそうだ。魂を呼びやすいってことだろう。そうなってくると、召喚できる人間は本当に少ない」

確かに、人格的素養がある剣の適合者が死にかけている必要があるっていうのは、なかなか厳しいだろう。完全に運だしな。

「実際、適合者を探し始めて師匠でようやく5人目だったかな? 殺し合いが当たり前の世界に、剣に宿って転生というのはやはりハードルが高いらしい。前の4人には断られてしまったが、幸いにも師匠が剣の主人格になることを承諾してくれたことでやっと剣が完成したわけだ」

ああ、条件を満たしてたのは俺だけじゃなかったんだな。今となっては転生を断ってくれた前の4人とやらに感謝である。剣に転生していなければ、フランにも出会えなかったわけだし。

「そして、冥府の女神の力でこちらの世界に召喚された師匠は、いくつかの記憶を封じられ、剣の主人格に封じられることとなる」

『そこだ。そこを聞きたいんだ。なぜ記憶を消された? そして、どんな記憶を消されたんだ?』

「師匠のためだ。何せ元人間の師匠が、剣に転生するんだぞ? 人としての感覚を残したままでは、確実に狂う」

そういえばファナティクスもそんなことを言っていたはずだ。剣の体に人の精神は耐えられないと。

「そこで、人間としての個性や欲望、感情を強く揺さぶるような記憶を封じたらしい」

『じゃあ、俺が気付いてないだけで、転生前後の記憶以外にも、色々と忘れている記憶があるのかね?』

「その通りだ。勿論、師匠が剣に馴染んで、記憶を取り戻しても問題なくなった時点で記憶の封印は解ける予定だった。師匠は覚えていないだろうが、これは転生前の師匠もキッチリ説明を受けて納得していることだ」

それはそうだろう。だって、狂うか記憶を一部封じるかを選べって言われたら、絶対に後者を選ぶ。まあ、何故転生を承諾したのかという謎は残るが……。いや、死にかけているところに転生話を持ち掛けられたら、それが剣でも承諾するかもな。むしろ断った人たちがいるということの方が驚きだよ。

『予定だったってことは、今は予定とは違うのか?』

「そうだ。だからこそ、この場所に来てもらったんだからな。神も万能ではないとは言え、ここまで彼の方々の予定が狂うとは……。神の想像を超えたと褒めればいいのか、嘆くべきなのか、俺にも分からんよ」