軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

491 フェンリルと邪神

男の自己紹介を聞いて、フランは目を見開いている。いや、俺だって同じ気持ちだよ?

可能性があるかもしれないとは思っていても、本人から聞かされるとやはり驚きなのだ。声を上げなかったのが不思議なくらい驚いている。

「フェンリル? 脅威度S魔獣の?」

「そうだ。そのフェンリルだ」

『やっぱりそうだったか……!』

「師匠はもう確信してたみたいだがな。本来だったらもう少し早く明かす予定だったんだが、少々遅れちまった」

「なんで?」

「そのことについても、ここで語るさ。まあ、まずは俺のことを少し語ろうか」

彼の名前はフェンリル。人の姿は俺たちとコミュニケーションをとるために生み出した仮の姿であり、本来は体長100メートルを超える巨大な狼であるらしい。

正確な大きさを教えてもらったのではなく、インビジブル・デスくらいは一咬みで殺せると豪語したことから、その程度の大きさなのかと想像しただけだ。

「大昔は神獣なんて呼ばれていたこともある」

『神獣ってことは、神様と何か繋がりがあるってことか? それともそう名乗っていただけか?』

「自称神獣は痛すぎるだろう?」

俺の言葉にフェンリルが苦笑する。

『じゃあ』

「ああ、そうだ。我が主は10大神が1柱、銀月の女神様だ」

なるほど。フォールンドの見た謎の映像には、銀月の女神の紋章が存在していた。そこに繋がるってことか。

「俺が神より与えられた使命は、邪神の欠片を食らい、その力を浄化すること。そのために俺には、食った相手の力を取り込み自らの物とする能力が与えられ、生み出された」

魔石を吸収して力を得る能力の大元がそれなのだろう。しかも今の話の感じ、神様本人に生み出されたっぽいよな? 神様の直接の眷属ってことか。

「地上に降りた俺は、最初の1日で邪神の欠片を倒し、食らうことに成功した」

『そんなすぐに邪神の欠片と出会えるものなのか?』

それとも、大昔はそこら中に邪神の欠片が徘徊していたのか? だが、そうではないらしい。

「力を求めた馬鹿者が、封印を解いたんだ。元々はその邪神を倒すために、俺が生み出されたんだよ」

その後フェンリルは比較的力が弱い邪神の欠片の封印を見つけ出し、倒しては食らっていったという。最初に倒した欠片も併せると、その数は4つ。

まさに邪神を喰らう神獣の異名に相応しい活躍である。人々はフェンリルを神の代弁者、神獣、神の御使いとして崇めた。それこそ、神にも引けを取らない扱いだったそうだ。

しかし、人間たちの信仰もそう長くは続かなかった。何せ、フェンリル自身が暴れ出し、人間たちを襲い始めたのだ。

「邪神の妄執が、主神たちの想像以上だったのだろう。俺は取り込んだ邪気を浄化しきれず、逆に侵食されてしまったんだ」

最初の邪神の欠片を取り込んだときには、全く影響がないように思えていたという。

「だが、今思えば最初からわずかに影響があったんだろうな。自分自身でも気付かぬうちに、破壊欲や食欲が増していた。そして俺はその欲望に後押しされ、自身の浄化速度を上回るハイペースで邪神の欠片を狩っていってしまった」

最終的には自分に同化した邪神の魂がもたらす「全てを破壊せよ」という誘惑に抗いきることはできず、フェンリルは暴走を始めてしまったらしい。

封印を解かれた邪神の欠片以上の被害がもたらされ、ジルバード大陸は壊滅の危機に陥った。実際、国が幾つも滅び、数千万人の生活に影響が出たという。

いや、フェンリルが本当に暴走していれば、もっと大きな被害がでていたはずだ。しかし、フェンリルは完全に理性を失いきってはいなかった。

「暴走とあがきを繰り返す感じだった。そうだな……。以前戦った、浮遊島のリッチを覚えているか? 彼に似ているかもしれない」

主人格とリッチの人格が体の主導権を奪い合い、片方が起きている間は片方が寝ている状態、だったかな? なるほど、フェンリル本来の人格と、邪神に侵食された暴走人格が交互に表に出ていた感じなわけか。

「次第に体の支配権が奪われていく中、俺は最後の力を振り絞ってこの平原にやってきた。まあ、当時は枯渇の森などなかったがな」

「そうなの?」

「ああ、後に神々が作り出したものだ。俺から分離封印された邪神の欠片が、平原から外に出ないようにな」

『え? つまり、この平原には……』

「邪神の欠片が封印されている。それも4つの欠片が融合した、特別強い邪神の欠片がな……」

俺だけではない、フランもウルシも、思わず地面を見つめた。それくらい衝撃だったのである。しかし、男はその行為を笑わない。

「気持ちは分かるが、大丈夫だ。今のところ、封印が緩むような事態にはなっていない」

『本当か?』

「ああ」

よかった。なんか俺の中の封印がどうこう言われているので、こっちは大丈夫なのかと不安に思ってしまったのだ。邪神の封印が解けそうだ! 何とかして! といった状況ではないらしかった。

『それにしても邪神を分離して封印と言ったな? それは、どうやったんだ?』

「良い質問だ。邪神の欠片の封印など、神々にしかできんだろうよ」

「? じゃあ、神様が何かした?」

「そうだ」

この地にたどり着いたフェンリルだったが、それは特に目的があってのことではなかったそうだ。単純に人や動物が少ない場所を探して、この地を見つけただけであった。

「神獣は自死できん。神の分け身であり、世界の運行システムの一部に組み込まれているからな」

だからこそ、せめて世界に迷惑のかからない場所をさがしていたのだろう。

「いや、神々にしても、俺の中から邪神の欠片を引きはがして封印することは難しかったそうだ。しかし、そこに1人の人間が現れる」

『人間?』

「ああ。神級鍛冶師のエルメラ。ケルビムを作り、廃棄する場所を求めて流離っていた人物だった」

ケルビムの制作者。つまり俺の剣としての部分を作り上げた人物。俺は自分を剣だと認識している。不思議なことだが、元人ではなく剣であるという思いの方が強かった。

この世界に来た頃は、元人間だっていう意識が強かったと思うんだけどな。剣として生活しているうちに、剣であることに慣れてきたのかもしれない。

だからこそ、エルメラは俺にとって創造者というイメージが強かった。親というほどではないが、それに近い存在に感じている。

「エルメラ」

「そうだ」

しかし、フェンリルは再び驚きの言葉を口にした。

「まあ、最初は殺し合ったんだけどな」

『はあ? 殺し合った?』

「戦ったの?」

「そうだ。エルメラは俺がいるという噂を聞きつけ、平原にやってきたんだ」

最初からフェンリルを目当てにやってきたってことか。

「どうせケルビムを廃棄するなら神剣の全ての力を暴走させ、フェンリルを倒そうと考えていたらしい」

『それが、どうして協力することになったんだ?』

「俺自身は勝手に迎撃行動を取ろうとする肉体を何とか押さえつけようとしながら、エルメラに倒されることを覚悟していたんだが……。銀月の女神様が他の神々に頼み、俺を救おうとしてくださったのだ」

銀月の女神を中心とした神々がエルメラに呼びかけ、フェンリルを助けることを要請したらしい。そして、エルメラもそれを受け入れた。

「神々の頼みだからというのもあっただろうが、わずかでもケルビムが残ることはエルメラにとっても嬉しかったようだ」

そこはアリステアと同じ神級鍛冶師だな。神剣をできるだけ破壊したくはないのだろう。

フェンリルを救うためには、フェンリルの魂と邪神の魂を分ける必要があった。そこで、神々はすでに邪神の欠片と融合してしまったフェンリルの肉体に邪神の魂を残す形で、フェンリルの正常な魂だけを分離することにしたそうだ。

「問題だったのが、俺の魂を保管する場所だ。魂の一部を切り離すとその力を凄まじく消耗するからな」

何の器もなしにフェンリルの魂を放置すれば、あっと言う間に消滅してしまうだろう。その器に選ばれたのが、神剣ケルビムであった。

「俺の体は邪神とともにこの平原の奥深くに封じられ、俺は廃棄神剣の中で眠りについた」

それによって邪獣フェンリルは消滅し、ジルバード大陸は救われた。

『だが、それでめでたしめでたしとはならなかったんだろ?』

「分かるか?」

『そりゃあな。何せ、今の話には俺が出てこない。続きがあるはずだ』

「その通り。ただ、俺の元の体はこれでめでたしめでたしだぜ? 神によって封印が施され、さらに結界まで作られた」

「結界?」

『もしかして枯渇の森か?』

「空もだな。あれらは邪神が万が一復活したときの防波堤でもある。また、周辺の魔力を吸収し、この遺跡の下に眠る邪神に浄化の術をかけ続けることで少しずつ弱体化させているのさ」

魔狼の平原で魔獣の分布が偏っているのも、実はその結界の働きによるものだという。枯渇の森によって魔狼の平原は魔力が溜まりやすく、魔獣が生まれやすい土地だ。そこで、神々は魔獣の魔石からも力を吸い上げ、それも浄化の術に利用しているのだという。

魔獣は繁殖でも増えるが、それ以外では魔力が凝り固まって誕生する存在だ。その魔力溜まりから魔獣が誕生する際、最初に魔石が生み出され、その魔石が魔力を纏って魔獣となる。

故に、魔力溜まりから生み出されたばかりの魔石からも魔力を吸い上げる神の結界により、誕生する魔獣そのものが弱体化してしまうのだ。しかも結界の力が遺跡に近づけば近づくほど強くなっていることで、中心になるほど魔獣が弱くなっている。

生まれた魔獣たちも自分の力を吸い上げる遺跡を嫌悪しているので、中心には近づかないのだとか。ゴブリンのような、結界の効果がほとんど及ばない雑魚魔獣だけが近寄ってくるという。

「ウルシは平気なの?」

「そこは大丈夫だ。枯渇の森は無差別に魔力を吸いあげるが、平原の結界は相手を選ぶ」

俺の魔力は登録されており、その従魔であるウルシも結界の影響は受けないそうだ。便利だね。

「神の結界によって集められた魔力によって、俺の肉体に寄生した邪神の欠片は日々浄化されているし、そっちは問題ない。問題があったのは、俺の魂の方だ」

「なにがあった?」

「まあ、簡単に言っちまうと、俺の魂から邪神を完璧に引きはがすことができていなかったってことだな」