軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

485 見えない狙撃手

厄介な魔獣から逃れて枯渇の森へと退避した俺たちは、移動しながら対策を話し合っていた。

『ガストが枯渇の森まで追ってこれないのは分かった』

「ん」

どうやら魔力を使って煙の体を動かしている構造上、枯渇の森では活動ができないらしい。水晶の鱗で狙撃してきた相手も、枯渇の森の中までは攻撃をしてはこなかった。いや、魔力での索敵ができないせいで、こちらを狙えないだけかもしれないな。

「どうする?」

『ガストの活動エリアを避けて迂回するか、一気に通り抜けるかだな』

魔狼の平原は中心に行けば行くほど敵が弱くなる。これに関しては冒険者ギルドの資料でも理由が解明されていなかった。

フェンリルの魔力が影響しているという説も記載されていたが、それも何ら根拠のない推測でしかないようだ。

重要なのは、この現象が確かに存在しているということだろう。なにせ、俺が身をもって体験している。

『つまり、一気に通り抜けちまえば、上位の魔獣も追ってこない――かもしれない』

実際、俺はピンチになったら中心部に逃げ戻るという方法で、少しずつ魔狼の平原を攻略していったのだ。

だが、それは俺が剣だからできた作戦でもあった。隠密性も高く、魔獣の食欲も刺激しない無機物。はっきり言ってしまえば、魔獣が血眼になって追い回す価値がないとも言えるだろう。

だがフランとウルシはどうだ? 柔らかい肉に、高い魔力。魔獣にしたら格好の獲物に見えるのではないか? もしかしたら、俺の予想している棲み分けエリアを越えて、追ってくる可能性だってあった。

とはいえ、強力な魔獣をあえて倒すのも、危険がある。あのわずかな時間ガストと戦っただけで、消耗も凄まじいしな。

安全策を取るならば、平原の外周部に陣取る魔獣の情報を集め、もっとも与しやすそうな魔獣を倒すか、躱して平原の中心部に入り込むのがよいだろう。

『どうする?』

「……今は、魔狼の平原の中心に行くのが先決。修業はそのあと」

『つまり?』

「安全策でいく。急がば回れ」

『お? そうか?』

「ん」

ちょっと感心してしまった。だって、あのフランだぞ? 戦闘大好き少女フランが、だぞ? 敵を目の前にして、戦いを避けてでも目的を達成するという。

俺って愛されてるね。まあ、それだけじゃなくて、フランもちゃんと成長しているということだろう。考えてみたら、資料室でも居眠りしなかったし。まあ、飽きてボーっとはしてたけど。居眠りと、居眠り寸前では大きな差があるのだ。

「まずはこれの正体を確かめに行く」

『分かった』

フランが言うこれとは、水晶の鱗のことだ。いや、透明な姿がそっくりなので水晶という表現をしたが、その硬度は水晶を遥かに上回る。フランがかなり本気で力を込めて、ようやく割ることができたほどだ。

『俺も賛成だ。遠距離攻撃が得意な魔獣なら、接近戦は苦手かもしれん』

1キロ以上の距離から高精度の狙撃を連続して放つような魔獣だ。脅威度は高いだろうが、近接での強さはどれほどだろうか?

俺たちは枯渇の森の中から魔狼の平原を観察しつつ、北西方面へと移動していた。そして、ある場所でウルシが反応する。

「グルル!」

「なにかいた?」

「オン!」

ウルシは鼻をヒクヒクと動かしながら、鋭い視線を魔狼の平原に向けていた。魔力での強化ができずとも、狼として鋭い嗅覚を備えている。その鼻が、目的の相手を捉えたようだった。

『ふむ……どこだ?』

「む? わからない」

正直、俺やフランにはその魔獣がどこにいるのか分からなかった。しかし、ウルシは自信満々だ。

「ウルシ、案内する」

「オン!」

『フラン、注意しろよ』

「ん!」

ウルシを先頭に、魔狼の平原に足を踏み入れた直後だった。

ヒュゴッ!

「キャイン!」

「ウルシッ!」

ウルシが悲鳴を上げて足を止めた。間違いなく例の狙撃だ。しかし今のウルシの様子、完全に攻撃が見えていたよな? なのに、まともに食らって……。いや、あのままウルシが躱すと、その巨体がブラインドになってフランの反応が遅れる可能性があった。そのため、あえてその体を盾にしたのだ。

『ウルシ! よくやった! あー、骨までやられてるじゃないか……』

「オフ……」

胴体からおびただしい量の血を流すウルシに回復魔術をかけてやりながら、指示を飛ばす。

『フラン、ウルシの真後ろはまずい!』

「ん!」

そこで、フランがあえて距離をとりつつ、ウルシの斜め後ろに移動した。これでウルシは問題なく攻撃を回避できるし、フランも反応可能だ。

その後、攻撃はより激しさを増したが、フランたちが被弾することは無かった。フランは俺の助けがなくとも問題なかったし、ウルシもその回避力はかなりのものなのだ。

結果、進行速度は鈍ったものの、ダメージは皆無で平原を突き進んでいた。だが、どれだけ進もうとも敵の姿が捕捉できない。ウルシは確証があるようなんだが……。

『どこだ……』

「ん……」

そして、ウルシが足を止める。その視線の先に魔獣がいるようなんだが、俺とフランには全くわかっていなかった。向こうも自分の居場所がばれないように、攻撃を止めてしまっている。

だが、ウルシの放った暗黒魔術が、相手の姿を浮かび上がらせた。ウルシの使用した暗黒魔術のベールが一帯を覆うと、20メートル程離れた場所に異常が起きたのだ。

なんと言えばいいのだろうか。陽炎? いや、屈折率のおかしな鏡? とにかく、空間が歪んでいるかのように、背後の風景が歪んで見えていた。

『なるほど、光学迷彩か』

光を屈折させて、自らの姿を周囲に同化させていたらしい。しかし闇魔術によって光が急激に遮られ、調整が間に合わなくなってしまったのだろう。

「変な蜥蜴?」

『水晶を身に纏った恐竜?』

そこにいたのは全長10メートルほどの、四足歩行の魔獣であった。生前に恐竜図鑑などで目にした、アンキロサウルスという恐竜に似ている。ただ、その鱗は全て半透明の水晶であった。

隠密性能が凄まじい。なにせ、この距離でさえ魔力や気配をハッキリととらえきれないのだ。そのうえあの光学迷彩だ。

だが、姿が見えたおかげで鑑定できたぞ!

『インビジブル・デス! 脅威度Bの魔獣だ!』

やっぱり魔獣の強さが全体的に上昇しているな!