軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

484 煙の魔獣

『ふはははは! 平原よ! 私は帰ってきた!』

「?」

『すまん。なんでもない。それより、周囲の気配はどうだ?』

「……何か変?」

『気配は微妙にするんだが、どこにいるか分からんな』

枯渇の森を抜け、十数メートルほど魔狼の平原の踏み込んだ場所。位置的には魔狼の平原の北東エリアだろう。

確実に何かがいる。それは分かるんだが、相手の正確な場所が探れなかった。周囲にピリピリした気配があるし、魔力の流れもどこか不自然だ。

『ウルシはどうだ?』

「オフ……」

『分からないか』

ウルシの鼻まで誤魔化すレベルの隠密性があるのか、それとも匂いなどがまったくないタイプの魔獣なのか?

「油断せず、いく」

『ああ』

「オン!」

探査スキルを全開にしながら進むこと数分。まあ、距離はあまり稼げていないが。これは警戒しながら進むよりも、全力で通過してしまった方が手っ取り早かったか?

だが、そう簡単にはいかないらしい。

「師匠!」

「ガルゥ!」

フランとウルシが一気に飛び上がった。一瞬遅れて俺にも分かる。

『下か!』

やはり地面に接していない分、俺は地面の下への探知力が弱いんだよな。毎回、フランやウルシに負けている。

「煙?」

『毒ガスかもしれん、もっと離れろ』

「ん!」

大地から湧き上がったのは、大量の白い煙であった。かなりの魔力を秘めているのが分かる。

そして、その煙がまるで意思でも持っているかのように、こちらに向かってくるではないか。

『この煙は――やっぱり! ガスト系の上位魔獣か!』

鑑定してみると、この煙その物が魔獣の一部であった。脅威度B魔獣、グレーター・ヴェノム・ガスト。物理攻撃無効に加え、高い隠密性と再生を持っている。しかも魔力吸収、生命吸収、隠密を高レベルで備えていた。

この煙を一片残らず消滅させるか、魔石を破壊しない限り、延々と再生するらしい。しかも煙には猛毒が含まれている。

こちらを一撃で殺す能力はないんだが、纏わりつかれている間はひたすらに消耗を続けてしまう厄介な相手であった。

いや、これは俺たちが毒耐性を持っているからその程度で済んでいるのだろう。弱い人間であれば生命、魔力を吸収されながら猛毒に晒されれば、致命的なはずだ。

しかも見たところ煙がかなり広範囲に及んでいる。既に大地からかなり離れているフランにも問題なく追いついてくることから見ても、100メートルどころの話ではないだろう。下手したら小さな町くらいは覆ってしまうんじゃなかろうか? こいつが国を滅ぼしかねないという脅威度Bにランクされているのも、あながち間違いではなかった。

『フラン! ウルシ! 魔石を探すんだ!』

「ん!」

「オン!」

俺は煙に対して魔術を叩き込んでみる。雷鳴魔術、火炎魔術、風魔術を試してみたが、面で攻撃できる火炎魔術が最も有効だろう。

あとは、魔力強奪、生命強奪も有効だ。力を失った煙が、空中に霧散していくのが分かった。ただ、地面から湧き続ける煙によって、すぐに補充されてしまうけどな。

『どうだ? 魔石の在処は分かったか?』

「わかんない」

「オフ……」

煙に込められた魔力にかく乱されてしまって、周辺の魔力を細かく調べることができなくされていた。

『地面の下に魔石があることは確実だと思うんだが……』

「じゃあ、魔術で地面ごと潰す?」

『そうだな、それしかないか』

「ん!」

『じゃあ、行くぞ! はぁぁぁぁぁ!』

「むぅ!」

俺たちが多重起動したのは、グラビティ・プレッシャーという大地魔術である。超重力で一定範囲を押し潰す術だが、これを、グレーター・ヴェノム・ガストの本体がいる可能性のあるエリアを覆うように、隙間なく並べるような形で発動させたのだった。

広範囲が押しつぶされ、圧縮していくのが見える。アースラースのグラビティ・ブロウに似た光景を、魔術を連発することで無理やり再現しているのだ。まあ、こっちの方が威力も範囲も劣っているが。

「やった?」

『だめだ。煙が未だに元気に動いてやがる』

「ならもっと!」

『おう!』

俺たちはさらに広範囲で、より深く大地を圧縮する。それだけではなく、最後には火炎魔術と雷鳴魔術での爆撃もおまけだ。

しかし、それでも煙が消え去ることは無かった。

『ちっ。これだけやっても――』

ヒュゴッ!

「くぅ!」

『うおぉっ!』

直後、凄まじい衝撃が宙に留まっていたフランの体を弾き飛ばしていた。風切り音を耳にした瞬間、フランが俺でガードしたので傷は負っていないが、直撃していれば大ダメージだったろう。

俺の刀身に弾かれて落ちていく、謎の物体を咄嗟に念動で掴む。

『水晶だな。いや、鱗か?』

水晶のような透明な材質でできた鱗だ。この水晶鱗には魔力を反射するような効果があるらしく、気配察知などで存在を捉えることがかなり困難だった。風切り音がなければ、気付かなかっただろう。

俺が確認している間にも、連続して風切り音が聞こえてきた。何者かが攻撃を畳みかけてきたらしい。

「むっ!」

だが、奇襲でなければこの鱗の隠密性も半減である。もうフランは対処できていた。幾つかを叩き落とし、いくつかを次元収納で無効化する。

ただ、敵が遠距離過ぎる。北西方向から攻撃されているのは分かるんだが、相手の気配や魔力を一切感じ取ることができなかった。俺たちの索敵範囲外からの狙撃であるらしい。

「師匠、ウルシ、いく!」

『わかった!』

「オン!」

謎の狙撃者に近付こうとしたフランだったのだが、相手も生半可な相手ではない。狙撃方向に進むほどに水晶鱗の数も威力も格段に増すうえ、時おり散弾のようにはじける攻撃が混じり始めたのだ。

威力だけで言えば、一発一発がランクD冒険者を即殺するレベルの攻撃だろう。しかも、予想外に移動速度の速いガストの煙が、しつこく俺たちを追ってくる。

『フラン、このままだとガストと謎の攻撃相手、両方とも相手にすることになるぞ!』

「……むぅ。どうしたらいい?」

『転移でガストを振り切るか、枯渇の森に退避するかだ。だが、単に振り切るだけだと、ガストが延々追ってくる可能性もあるぞ』

「……分かった。一度枯渇の森に戻る」

フランは悔しそうではあったが、すぐに俺の提案を受け入れてその場から退避を始めた。自分でも、厄介な状況だと理解しているのだろう。

『やっぱ、簡単にはいかないな』

「……ん」