軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

475 触角と甲殻の5人

『そろそろ、アレッサに向かうか?』

「ん」

事件から数日。すでにフランの仕事はなく、ガルスなどの進退も決まった。王都での用事はほぼ済ませたと言っていいだろう。

俺としてはもう少しいてもいいかなーと思っていたんだが……。

「いよいよ修業」

フランさんがやる気なのだ。それに北の様子も気になる。

結局、俺たちはアレッサに向かうことにした。魔狼の平原に入る前に、ギルドに許可を申請しなくてはならないそうだしね。

別に、勝手に入ったからって罰則があるわけではないが、許可を取っておけば最悪の場合にギルドの支援が受けられるし、調査などの依頼をこなすこともできる。

特に魔狼の平原はA級魔境なので、ランクB以上の冒険者でないと中々ソロでの探索許可は下りないそうだ。

そういえば、バルボラの近くにあった水晶樹の檻でも似た話を聞いたことがあったな。ランクが上がったことでより上位の依頼を受けられるようになっただけではなく、魔境などの探索の制限も解除されたということらしい。

『もう報酬も受け取ったし、確かに王都にいる理由もないか』

「ん」

『とりあえずギルドに挨拶に行こう』

「わかった」

因みに、ギルドや国から報奨金や特別報酬などが入ったが、ガルスの保護依頼や、オークションで散財した分。あとは、孤児院や救護所の再建にと、フランがバンバン寄付しまくった分を考えると完全に赤字である。それでも所持金は500万ゴルドくらいはあるけどね。

それに、そのおかげでフランの評判がさらに高まった。癒しの力で人々を救っただけではなく、弱者救済のために大金を投じたと評判のフランは、今や黒猫聖女という異名で呼ばれ始めていた。

フランとしては黒雷姫の方が強そうで好きであるらしいが。王都では聖女の方が圧倒的に通りがよくなってしまった。どこに行っても聖女と呼ばれている。

今もギルドに向かう最中に、多くの人から声をかけられていた。その時に皆が「聖女様」とか「聖女さん」と呼ぶのだ。

そりゃあ、エリアンテも王都にいてくれって懇願してくるよな。フランがいる限り、冒険者ギルドの評判は高いままだろうし。

その状態はギルドでも変わらなかった。今は王都だけだけど、そのうち周辺の町に黒猫聖女の名前が広がるかもしれない。フランとしては不本意だろうが。

「ステリア」

「おや、今日はどんな用事だい?」

「エリアンテに話がある」

「じゃあ勝手に上がっておくれ。あんたなら問題ないから」

「ん」

もう完全に顔パスだった。ランクが上がったというよりも、王都での信頼度が上がったからだろう。ステリアが取り次ぐのが面倒になっただけという可能性も高いが。

『エリアンテの部屋から人の気配がある。お客さんが来ているのかもしれん』

「ん」

これは出直さないといけないかな? とりあえず挨拶だけして、後で来るということだけは伝えておこう。

フランが部屋の扉をノックをする。

『おお、ノックをできるようになったか』

(ふふん)

俺が思わず感嘆の言葉を口にしたら、フランがドヤ顔で小っちゃい胸を張る。いや、そんな凄いことじゃないんだけどさ。俺からしたら、凄い成長を感じさせる出来事だったのだ。だって、あのフランだよ? フランがノックしてるんだよ? すごくない?

「誰? 入っていいわよ」

この感じ、重要な客人というわけじゃなさそうだ。フランが執務室に入ると、そこには見覚えのある戦士たちがエリアンテと談笑していた。事件のときに目立っていた、半蟲人の傭兵たちである。

「あら、丁度いいところにきたわね。今、あなたのことを話してたところよ」

「私のこと?」

「ええ。こいつらは私の古い知人で、傭兵団、触角と甲殻のメンバーよ」

「やあ、こんにちは。俺はロビン。触角と甲殻のサブリーダーをやっている」

握手を求めてきた爽やかな男は、堅海老の半蟲人だ。今は戦闘時と違って甲殻は姿を消し、目や触角以外は普通の人間と変わらなく見える。能力も、戦闘時よりも大分低下しているな。

「僕はホッブス」

「エフィ……」

「あーしはアン!」

「シンゲンといいます」

飛蝗、蜉蝣、牙蟻、蜃の順に自己紹介をしてくれる。

少年の姿のホッブスは、クールなキザ男君といった雰囲気だ。ロビンと同じで、人に近い姿である。

蜉蝣のエフィはかなり物静か――というかネクラなタイプの女性に見える。牙蟻のアンは、元気が有り余っていそうな少女だな。蜃のシンゲンは以前感じた通り、優しくて力持ちタイプだろう。

「普段は南の小国家群で活動しているんだが、今回はたまたま北で仕事があってね。運よくこの都市にいたんだ」

「運よく?」

運が悪くの間違いじゃないか? 死にかけたんだぞ?

「運よくさ。そのおかげで、友の窮地に間に合ったんだからな」

「まあ、稼ぎもよかったしね」

ロビンはイメージ通りの熱血漢であるらしい。ホッブスは斜にかまえたというか、偽悪的なタイプみたいだ。

「……良い戦いだった」

「久々に本気で暴れたねー」

女性2人は、戦闘を楽しむタイプでもあるようだ。疑似狂信剣持ちとの戦いを嬉し気に語っている。

「みんな生き残ってよかった」

シンゲンくん。苦労してそうだけど、頑張れ!

「エリアンテに聞いたよ。彼女と一緒に強敵と戦い、彼女の命を救ってくれたと。ありがとう。礼を言わせてくれ」

「ちょ、ロビン! なに保護者みたいなこと言ってんのよ!」

「友の命を救われたんだ。当然の礼儀だろう?」

「あいかわらず暑苦しいんだから!」

そう言いつつ、エリアンテの顔はまんざらでもなさそうだ。彼らの間にだけ通じる絆のようなものがあるんだろう。

「そ、それで? 何か用事なんでしょ?」

「ん。アレッサに行く」

「え? 王都を出ていくってこと?」

「ん」

「ちょ、ちょっと待って! まだ頼みたい仕事がいっぱいあるのよ!」

エリアンテがそう言って嘆くが、フランの決意は変わらなかった。他の冒険者でもできる仕事であるし、貴族からのちょっかいも完全に無くなったわけじゃないからな。

それを理解したのだろう。エリアンテは情けない顔で、しぶしぶ頷くのであった。

「分かったわ……。それで、いつ発つの?」

「明日」

「あ、明日? せ、せめて来週とか――」

多分、フランが出発する前にいかに依頼をこなしてもらうか、頭の中で計算していたのだろう。しかし、縋りついて引き止めるんじゃないかというくらいショックを受けているエリアンテを諭してくれたのは、話を聞いていたロビンであった。

「エリアンテ。戦士の旅立ちを邪魔するものじゃない」

「ううー。あんたらは私の仕事量を知らないからそう言えんのよ!」

「俺たちもしばらくはこの町に留まって、仕事を受けるつもりだ」

「ほ、本当? 本当なの?」

「ああ」

「はい聞いた! 言質とった~。もう逃がさないんだから!」

エリアンテの言動を聞いて、仲間たちが同じような苦笑いを浮かべている。

「はぁ。君は相変わらずだな」

「……ほんと」

「かわんないねー」

「そうですね」

エリアンテ……。やはり残念な奴。見た目だけならできる女なのにな……。