軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

468 罪と罰の行方

あの激戦から2日経った。

未だに落ち着いたとは言えない王都であったが、もう侯爵の手の者は残っていないらしい。少なくとも、組織立って抵抗する者はいなかった。

だが、争い事がないわけではない。住む場所、日々の食事、医薬品。全てが不足しているのだ。これで揉め事が起きないわけがなかった。

特に深刻なのが、居住スペースである。家を失った人々のためにテントが仮設で立てられたのだが、その数が足りなくなってしまったのだ。大きな原因の1つは、貴族が少人数で1つのテントを占有することだった。俺としては同じテントに押し込んでおけと思ったんだが、そうもいかないらしい。

まあ、平民と貴族を同じ場所に押し込んだら、むしろ平民にとって拷問だという話は理解できる。毛布だけもらって道端で寝た方がマシだろう。

だが、貴族同士でも爵位によって差を付けなければ、面子の問題に関わるそうだ。そして貴族というのは冒険者以上にメンツにこだわる生き物らしい。伯爵と男爵を同じ待遇というのは許されない。緊急時であるからこそ、そこを蔑ろにはできないそうだ。

結局、平民たちの多くは早々に知人の家などを頼ってテントから出ていってくれたのでなんとかなったが……。馬鹿な貴族の中にはせっかく譲ってもらったテントにケチを付けて、こんな場所に泊れるかと言い出す奴も出る始末だ。

中には権力を笠に着て、平民から家を徴発しようとする貴族もいて、小競り合いも起きていた。平民と貴族の溝は深まる一方である。

また、それ以外には強烈な砂塵が民を悩ませていた。元貴族街の荒れ地から風で舞い上げられ、飛んでくるらしい。それを防ぐための風の結界を避難所などに張ると、大変喜ばれた。

まあ、物資不足については各地からの支援が送られてくるはずなので、多少は緩和されるだろう。すでに近隣の町などからの食料支援や警備兵の増員が届いているようだ。これからは国中から物資や人手が送られてくることだろう。

王都内では冒険者や兵士が瓦礫の撤去などに駆り出され、騎士たちも治安維持に努めている。

王族も無事だったらしく、住宅街にある貴族の別邸で執務を行っているそうだ。よく漫画などで「王には臣下を守る責任がある!」とか言って落城寸前の王城に残ったりする王様がいるけど、あれは獣王並みの強者でない限りは愚策だよな。どう考えても、逃げ延びて、その後の復興指揮を迅速にとってくれた方が国や民のためだ。

「待たせたな」

「平気」

「ああ」

俺たちは現在、ベイルリーズ伯爵の下を訪れていた。とは言え、伯爵邸は消滅している。彼は騎士団の詰め所の一角に居を構えていた。

罷免されたりすると思っていたんだが、緊急時故に未だ沙汰が下されてはいないらしい。そこにフランとフォールンドが呼ばれていたのだ。

「それで、何の用?」

「ああ、とりあえず今回の顛末を教えておこうと思ってな。お主らには本当に世話になった」

ベルメリアが実は生きていて、アースラースが連れていったという話はすでに伯爵に伝えている。彼の嘆きは大きかったが、死んでいるよりはましだと理解しているらしい。追ったりはしないということだった。

ただ、半邪竜人であるフレデリックだけは、その話を聞いた直後には姿を消してしまっていた。彼の忠誠は伯爵よりも、ベルメリアに向けられていたのだろう。

「まずはどこから話したものか……。ガルス殿だが、今回の一件でのお咎めは無しとなったぞ? しばらくは護衛兼監視が付くがな」

「本当?」

「ああ。操られていた彼に、罪はないという形で落ち着いた。まあ、これだけの混乱が起きている最中に、彼を罰するような無駄な真似はできんからな」

「どういうこと?」

「国王陛下は、良くも悪くも国家の利益を優先する方だ。国力と国威、双方に傷を負った今、これ以上のダメージは絶対に看過できんだろう」

まあ、北にはレイドス王国があるわけだし、今回のことで国内の貴族が絶対的に裏切らない保証も無くなった。この状態で、さらに国力が低下することは避けたいだろうな。だが、それがガルスに関係するか?

「最も神級鍛冶師に近いと言われ、今回は実際に神剣に触れた鍛冶師だぞ? 罪を不問とし、国のために働かせた方がメリットがある。それに、冒険者ギルドとの兼ね合いもある」

「?」

フランは首を傾げているが、フォールンドはその言葉でピンと来たらしい。

「恩か」

「その通りだ。国内の冒険者の中にはガルス殿に恩を感じている者が非常に多い。罪に問えば、面白く思わない冒険者も多いだろう」

俺たちがガルスに出会ったアレッサでもそうだったが、ガルスはクランゼル王国内を巡りながら、冒険者たちに自分の作品を格安で販売していた。見どころがあると思えば下級ランクの冒険者相手でも良い装備を揃えてやっていたそうだ。

クランゼル王国内では、駆け出しのときにガルスの世話になったという冒険者も多く、恩を感じている冒険者も相当数いるらしい。

「この国は冒険者が非常に多い。元々はレイドスの失策で流出した冒険者を取り込むことに成功したからだが、その後は冒険者を優遇する政策で定住化に成功している」

「へー」

「お前、分かってないな? 冒険者がこれだけ多い国は稀なのだぞ? そもそも、現役ランクAが5人に、元ランクAが10人以上も居る国など、他にはそうない。まあ、減ってはしまったが……」

俺たちはクランゼル王国や、国王自身が冒険者である獣人国しか知らないが、ここまで冒険者が優遇される国は中々少ないらしい。特に税金が安く、冒険者が暮らしやすいそうだ。

「そんなクランゼル王国だからこそ、騎士や兵士のレベルが低いという問題点もあるがな。まあ、それはいい」

なるほどね。冒険者が多く、騎士たちが魔獣を狩る機会が少ないのだろう。そのせいで、騎士たちのレベルが上がり辛いのか。

元々騎士たちは人間相手の仕事がメインなのだろうが、この国ではより明確にすみ分けができてしまっているらしい。

「ともかく、元々冒険者の力が強いこの国で、今後はさらにその力を借りる必要がある。必然、冒険者が重要性を増すだろう」

そんな中、冒険者の機嫌を損ねることは絶対にできないということだった。今までのガルスの行いが、彼を救ったということだろう。

また、ベイルリーズ伯爵自身も、あまり大きな処罰はされないらしい。騎士団長職は解かれるものの、伯爵家には多少の金銭の支払いと労働力の供出が科せられる程度であるそうだ。

「私自身は領地召し上げ、並びに蟄居くらいは覚悟していたのだがな……」

反乱を未然に防ぐことができず、王都内での大量破壊を許したのだ。しかも娘が実行犯である。騎士団長として何らかの責任は取るべきだと考えているのだろう。本来はそうなってもおかしくはなかったはずだ。

しかし、王の決断は違っていた。細かい罪や職務怠慢に問うことでより大きな混乱を招くよりは、全ての罪をアシュトナー侯爵やファナティクスに被せることで早々に事態を沈静化させ、その後の復興に尽力させる方が建設的であると考えたらしい。

人手が足りない現状で、無駄なことに労力を割く愚を避けたのだろう。この辺が王政だよね。ある程度は王の匙加減でどうにでもなる。

だったら、ベルメリアも許されるのでは? そう思ったが、そう簡単な話ではなかった。

「娘が直接与えた被害が多すぎる。しかも王城を破壊したのだぞ? いくら操られていたとはいえ、さすがに不問とはならん。かなりの人数に目撃されているしな」

確かに、自爆した剣士たちとベルメリアでは、被害の桁が違いすぎるか。金額的にも人的にも、ベルメリアは暴れ過ぎた。

「最終的にはアシュトナー元侯爵や、それに与する者たちの領地は一時的に直轄地とされ、再分配されることになる」

そうやって、今回損害を被った貴族たちの補填とするのだろう。

「それでだ、実は2人に王からの召喚状が届いている。本日、執務を執り行っている屋敷に来るようにと仰せだ」

は? 王? 王様ってことか?

「なんで?」

「はぁ。お前は自分の影響力を分かっていないのか?」

元々フォールンドは英雄として名高かったが、人々を癒して回ったことでフランの名声も高まっているらしい。しかも、フランがウルムットの武闘大会で入賞した黒雷姫であるという話は、すぐに広まってしまった。

そのせいで、今や王都内でもフォールンドに並ぶ知名度を誇っているそうだ。

俺たちはここ2日間は民衆のいない場所で瓦礫の撤去などを行っていたせいで、全く知らなかった。町に出ても、転移や空中跳躍で高速移動していたしな。声援を掛けられる機会がほぼなかったのだ。

「しかもフォールンドにはお前の師匠が助力していたそうではないか?」

なんと、フランの師匠――つまり俺が命を捨てて王都を救ったという話も広まっているらしい。確実にエリアンテとコルベルトの仕業だろう。忙しすぎて誤解を解く暇がなかったんだが、まさかこんな事態になるとは。

「陛下が、王都を救った英雄たちを労いたいとおっしゃってな。まあ、ここで英雄との良好な関係を民にアピールしたいのだろう」

やっぱり政治が絡んでいるのか。

「ああ、大丈夫だ。陛下も冒険者相手に完璧な礼節など求めていない。むしろ、英雄たるお前たち2人を怒らせるような事態になれば冒険者ギルドも黙っていないだろう。それも分かっているはずだし、少し会話をする程度だ」

どちらにせよ、王からの招きを断ることなどできはしないだろう。事前に情報を聞いていれば逃げることもできたかもしれんが、呼んでいると面と向かって言われて、逃げたらまずい。少々面倒ではあるが、ここは承諾するしかなかった。