軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

467 北からの手紙

コルベルトと別れ、ギルドへと入ろうとしたそのときだった。

「ぬ」

フランが体を引いて、扉の前から一歩横にずれる。その直後、凄まじい勢いで何かが扉から飛び出していった。

そのまま地面をゴロゴロと転がり、道の真ん中で止まる。

「うぅ……」

何かというか、人でした。冒険者だな。しかも結構強い。ランクCくらいの実力はあるのではなかろうか? 鑑定してみるが、意識を失っているだけだ。死にはしないだろう。

「ギャ、ギャレス! 大丈夫か!」

吹き飛んできた冒険者、ギャレスの後を追って、今度は小太りの男が走り出てくる。今の冒険者の仲間かな。いったい冒険者ギルドの中で何が起きている?

「む、殺気?」

『もしかして侯爵の残党の襲撃か?』

「ん。いく!」

『気を付けろ!』

フランが慎重にギルドの扉を開けると――。

「この緊急事態に何かと思えば下らない話で時間無駄にさせてくれたわねぇ! 劇場も破壊されて、ただでさえ絶望してるのに! 殺されないだけ有り難いと思いなさい!」

殺気の主はエリアンテだったらしい。紫色の髪を振り乱し、鬼の形相でギルドの入り口を睨んでいた。

「どうしたの?」

「あら、フラン? ごめんなさいね。ちょっと馬鹿どもと間違えちゃったわ」

「今、外に出てった奴ら?」

「そうよ。ほんとうに無駄な時間を過ごしたわ!」

かなり怒っているな。目が据わっている。

「何があった?」

「あいつらはね――」

まだ怒りが収まらないのか、エリアンテは今の男たちの所業を早口でまくしたてる。

何とか聞き取った情報を纏めると、小太りの男の方の名前はデスラ。王都のすぐ近くにある宿場町のギルドマスターであるらしい。

冒険者や支援物資を携えて、自ら乗り込んできたそうだ。そこまでなら仕事熱心なギルドマスターなのだが……。

あのギルドマスターは常々王都のギルドマスターの座を狙っているらしい。また、女であるエリアンテがその重要な場所を任されていることも気に入らないそうだ。

結果、会えば嫌味を言ってくるのだが、今日に限ってはそれで終わらなかった。デスラは今回の騒ぎの責任はエリアンテにもあると糾弾し、その座を自ら降りるように圧力をかけてきたのだ。

しかも「やはり女ではだめだ」とか「女がマスターでは他の冒険者が可哀想だ」とか、散々言いまくったそうだ。挙句の果てにランクC冒険者を使って脅しまでかけてきたらしい。

「エリアンテに脅し?」

しかもランクCで? いや、フランみたいなランクCもいるけどさ……。あの男はどう見てもランク相応だった。あれでエリアンテに脅し?

「傭兵上がりの女なんて、大したことないって思ってたらしいわよ? まあ、思い知らせてやったけどねっ!」

それが今の男たちか。

「ギルマス、どうしますか?」

配下の男がエリアンテに処遇を尋ねる。だが、ようやくすっきりしたのか、エリアンテは手を軽くヒラヒラ振って男たちを解散させた。

「この緊急事態にアホなこと言って事態を混乱させようとしたボケなんか放っておけばいいわよ。大物ぶってるけど他の支部のギルマスにも嫌われてるし、報告すりゃどうせ罷免だし」

「ふーん」

その辺の事情は興味がないフランは、エリアンテの言葉を受け流す。今のフランの興味は、エリアンテの髪の毛に向いていた。

「その髪の毛、なんで色が変わるの?」

そう、エリアンテの髪の毛は普段は青いんだが、戦闘中には紫色に変化するらしい。今も紫色だ。

「ああ、これ? 戦闘色ってやつらしいわ。蟲人にはたまにいるらしいけど、私も少しだけ受け継いでるの。好戦的な気分になると変色するのよ」

蟲人や半蟲人全員がそうなるわけではなく、一部の種族だけであるらしい。しかも半蟲人は個体差が大きく、同じ種類の蟲の力を受け継いでも、能力や姿が大きく違うそうだ。

「戦闘形態に変身する場合もあれば、全く姿を変えない奴もいる」

「広場にいた傭兵みたいに?」

「あいつらに会ったのね? そうよ」

堅海老と飛蝗は、通常は人間に近い姿で、能力を発揮する場合には変身するタイプであるらしい。蜉蝣と蜃は普段から蟲としての特徴が強いが、それ以上は変身しない。そして牙蟻は人間に近い姿で、変身もしないそうだ。

「エリアンテの友達?」

「……まあ、旧友ってとこかしら」

実は俺、少しだけ話を聞いちゃったんだよね。全滅した傭兵団の生き残りであるらしい。これは、あまりそのことに付いて触れない方がいいだろう。

『フラン、とりあえず俺の死亡説を否定しておいてくれ』

「エリアンテ、師匠は――」

「ギルマス! 鷹が届いた!」

フランの言葉を遮るように、ギルドの2階から降りてきた男が叫んだ。その手には1枚の手紙を握っている。興奮しているのか、ちょっとクシャッてなってるよ。他の場所から伝書鷹によって運ばれてきたようだ。

「どこから?」

「北の国境線です。送り主は――アレッサのギルドマスター!」

「! もしかしてレイドス?」

「はい! レイドス王国の威力偵察と思われる部隊が国境を越えようとし、アレッサの騎士団が迎撃に出たと」

まじか! タイミングが良すぎないか? もしかしてファナティクスはレイドス王国ともつながっていたのだろうか?

「それで! どうなったの!」

「は、はい。騎士団にはランクB冒険者のジャン・ドゥービーが同行し、レイドス王国軍を殲滅したそうです!」

その瞬間、ギルドの中は冒険者たちの発した感嘆の声で満たされた。そして、すぐに喝采が起きる。嘘だと思っている冒険者は一人もいないらしい。

いくら騎士団と連携しているとはいえ、一人でレイドス王国の部隊を殲滅するなど、とてもランクB冒険者の戦果とは思えないんだがな。

「ふぅ。さすが皆殺ね!」

そういえばジャンには物騒な二つ名があるんだった。

「ジャン凄い」

「奴は対軍隊戦では特例でランクA扱いが認められている男よ? その後に控えていたはずの本隊ですら単騎で葬ることができるのに、威力偵察部隊程度は敵じゃないでしょうね」

どうやらあの含み笑いの怪しい死霊術師に、クランゼル王国が救われたらしい。

「私はこの報告を王に届けるわ! あなたたちも各所に伝えなさい! 今は明るい話が一つでも必要よ!」

エリアンテが部下たちに指示を出すと、自分もギルドを飛び出していってしまった。

『うーん。また、勘違いを訂正できなかったな……』