軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

450 相打ち

『いけぇぇぇ! フラァァン!』

「はあああああああ!」

黒雷転動から放たれるのは、剣王技・天断。

潜在能力解放の恩恵は、黒雷転動やステータス面の強化、俺との連携力の向上だけではなかったらしい。なんと、今までは無理だった、体勢の整っていない状態からの剣王技が可能になっていたのだ。

黒雷転動を使用した直後の無理な体勢から放たれる切り上げ。その切り上げが剣王技として放たれていた。

だが、その代償は大きい。フランの内から、ブチブチ、ブツンブツンという耳障りな音が聞こえていた。その幼い体にかかる凄まじすぎる負荷によって、全身の筋肉が断裂しているのだ。しかも、筋肉が千切れる音の中に、ペキンパキンという硬いものが割れる音が混じっていた。筋肉だけではなく、骨まで折れている。

しかし、フランは全ての痛みに耐えていた。歯を食いしばって、俺を振り抜く。

ただでさえ神速とも呼べる攻撃だが、放つフランの能力が潜在能力解放によって大幅に上昇している。それは、まさに本日最速の攻撃だ。躱すことは不可能。

だが相手もまた、常識の外にいる化け物であった。なんと、躱せないと悟るや否や、回避を諦めたのだ。

そして、相打ち覚悟に切り替えたのである。

侯爵は、剣王技が自らに当たる直前、脇腹に全身の障壁を集中させた。当然、剣王技を防ぐことなどできはしない。直撃するのをほんの僅か――コンマ数秒にも満たない時間遅らせただけだろう。

だが、今のフランと侯爵の攻防において、その時間が勝敗を左右する大きな要因となりえた。

侯爵は俺に切り裂かれながら、得た一瞬を使って剣を突き出す。残った全てを込めた、渾身の突きだ。侯爵はこの突きを放つかわりに、フランと相打ちになっても構わないと考えているのだろう。魔力どころか、生命力さえ剣に注ぎ込んでいるのが分かった。

そして、剣王技を繰り出している最中のフランにはこの突きをかわしきる余裕はない。

『くっ……』

生命力が残りわずかな今のフランがこの突きを食らったら危険だ!

転移、念動、潜在能力解放。この攻撃を防ぐ方法はある。間に合えば、であるが。あまりにも速いその攻撃を前に、どのスキルも発動が間に合わないだろう。時空魔術によって引き延ばされた思考の中、そんなことを考えている内にも剣が迫ってきている。

すでに転移を発動させようとしているが、やはり間に合わない。速過ぎる。

『ああぁぁ!』

「あ――」

相打ちを確信したアシュトナー侯爵の目に、昏い愉悦の色が浮かぶ。

早く!

転移よ早く発動しろ!

早く早く早く早く――。

しかし、俺にはどうしようもできないまま、侯爵の突きがフランの胴体に吸い込まれる。

くそおぉおぉぉぉ――?

「なに?」

「ん?」

俺だけではない。アシュトナー侯爵もフランも驚いている。侯爵には確かにフランを斬った感触があったのだろう。そして、フランも斬られた衝撃が残っている。

なのに、穿たれているはずの傷が何故か存在していなかった。傷がないのだから、当然ダメージもない。

何があった? いや、違う。今はそんなことよりも、このチャンスを生かすべきだ。勿論、フランにはそれが分かっているのだろう。

すでに行動に移っていた。俺を大上段に振り上げ、叫ぶ。

「はぁぁぁ! 黒雷神爪!」

なんと黒雷転動だけではなく、もう1つの黒雷技も使用可能になっていたらしい。俺の刀身に黒雷が纏わりついてくるのが分かる。

キアラはこの技によって黒雷の剣を生み出したが、本来は装備している武器に黒雷を収束させる技なのだろう。

しかもこの魔力。剣神化を使用した時に感じる、あの神聖な気配があった。単に黒雷を集めて固めるだけではなく、神属性も付与されるらしかった。

「たあああぁぁぁぁぁぁ!」

「ギッィィ!」

剣王技で袈裟切りにされたアシュトナー侯爵はすでに瀕死だ。そこに再度、濃密な黒雷を身に纏った俺が直撃する。驚くほどあっさりと、侯爵の体を切り裂いた。同時にその体を黒雷が焼き焦がし、全身が炭化する。

だが、俺はその光景を冷静に見る余裕はなかった。

「ギャアアアアァァァ!」

『うごおおあああっ……! こ、これは……』

侯爵の断末魔の絶叫が響き渡った直後、凄まじい魔力が俺の中に流れ込んできたのだ。同時に、耐えがたい吐き気を覚えていた。

『う、うげぇ! ぐあが……!』

当然、吐き戻すことなどできず、ただただ内に渦巻く不快感を我慢するしかなかった。なまじっか人間だった時の感覚が僅かに残っているせいで、吐き戻して楽になる感覚も分かってしまっている。それ故、耐えるしかないということがこれほど辛いとは思えなかった。

『ぐ……』

だが、今は戦闘中だ。侯爵はどうなった?

慌てて周囲を見ると、アシュトナー侯爵が大地に倒れているのが見えた。再生する気配はなく、ピクリとも動かない。

勝った……のか? どうやら勝ったらしい。最後に放った攻撃が侯爵の命を絶ち、その内に巣食っていたファナティクスにも止めを刺したのだ。

(師匠?)

『だいじょうぶ、だ。それより、潜在能力解放は……』

(もう解いた)

そうか。よかった。いや、よくない!

よく見たら生命が残りわずかだ。しかも魔力がほぼゼロ。

顔色も最悪だし、そもそも目の焦点が怪しかった。

「……ごほ……」

『フラン……!』

フランが血を吐いて倒れ込んだ! 無理な動きを繰り返したせいで内臓がやられているのか? 魔力がないせいで自力での回復ができないのだろう。

俺の魔力はまだ僅かに残っている。いや、共食いで疑似狂信剣から吸収した分だけ回復したのか。

俺は自らの回復を後回しにして、フランに治癒魔術を使用した。ミドル・ヒール一発だが、瀕死の状態は脱しただろう。一気にフランの顔色が良くなり、荒かった呼吸が多少マシになる。

『フラン……本当に危なかったんだ!』

「でも……」

『でもじゃない! アシュトナーの攻撃が何故か失敗してなかったら、死んでいたかもしれないんだぞ!』

それもこれも、潜在能力解放を使って無理やり決戦を挑んだことが原因だ。

『確かに勝つためには必要だったのかもしれない! だが、他に方法があったかもしれないだろう!』

「……ごめん」

『心配させないでくれ……。頼む』

「ごめんなさい」

『フランは、俺が壊れるかもしれないって分かったら、心配してくれるだろ?』

「ん」

『俺も同じだ。フランが死ぬかもしれないって思って、気が狂いそうだった』

「ん……」

最初は不承不承なフランだったが、次第にその顔に反省の色が浮かんでくる。俺が本気で心配していたということが分かったらしい。

『……分かってくれるか?』

「ん。もう勝手に潜在能力解放を使わない」

そう約束してくれた。フランは一度口にした約束は守る娘だ。今後は本当に勝手な使用は控えるだろう。これで少しは安心かな。

『分かってくれたならいい。それで、どこかおかしい所はないか?』

潜在能力解放スキルは、使用するのに何らかの代償が必要だ。俺であれば魔石値。ならば、フランであれば一体何なのか? フランを鑑定してみてもいまいち分からない。

「ん……?」

『分からないか?』

「ん」

フラン自身にも代償は分からないようだった。目立たない部分に何かがあるのか? 目に見えた代償なら癒すことも可能かもしれなかったんだが……。

『本当に分からないか?』

「ごめんなさい」

『いや、責めてるわけじゃないんだ。でも、いいか? 何か異変を感じたらすぐに言うんだぞ?』

「わかった」