作品タイトル不明
388 勲章授与式典
獣人国で最後の日の早朝。勲章授与の式典が執り行われていた。
いや、式典というほど派手ではなく、王城の一室を使い、偉い人数人の前でフランの功績が読み上げられ、王族から勲章が手渡されるだけだ。時間にすると30分くらい? 国民への告知は、戦勝式典とパレードの中で、改めて行うということだ。
勲章などは予め準備されていたようで、関係者さえ呼び集められれば式典の開催はあっと言う間であった。
元々、獣人国では堅苦しい式典や挨拶は敬遠されがちであるらしい。なので、こういった超簡素で短時間の式典もよくあることなのだろう。黄金獣牙勲章という最高位の勲章の授与式典がこんなにこぢんまりとしていることに対しても、参加者は誰も驚いていなかった。
因みに参加者は紫風象のバラベラムを筆頭に、リグダルファやリュシアスといった慰労会に出席していた諸将が呼ばれている。昨晩は痛飲というレベルではないくらい酒をガンガン飲みまくっていたはずなんだが、足取りがあやしい者も、頭を押さえて顔をしかめている者もいない。さすが歴戦の戦士たちだ。
文官側からは、宰相レイモンドと、財務大臣のグイーサ。あとはその部下たちである。いや、リュシアスは宮廷魔術師という話だから、もしかしたら文官扱いかも知れない。
人数は少ないものの、将軍と宰相がともに出席しているわけだし、意外と偉い人間が揃っている。さらに、勲章を授与してくれるのは王族のメアであった。
「黒猫族のフランよ。よくやった」
「ん」
「その功績を称えて、黄金獣牙勲章を贈る。受け取るがいい」
そんな感じで、式典は厳かかつ速やかに進行し、あっと言う間にお開きとなったのだった。ただ、2点だけサプライズがあった。
1つは、ウルシにも勲章が与えられたことだ。特別功労従魔勲章という、テイマーの従魔などに与えられる勲章があるらしい。
「ウルシよ、よく頑張ったな」
「オン!」
「ん。似合う」
「オフ!」
首輪に勲章を付けてもらって、ご満悦だ。確かにウルシも良くやった。改めて後で労ってやろう。特別に激辛カレーでも作ってやるか。いつもはフランと一緒に食べるから辛さ控えめだが、今回くらいはフランでも食えないくらいの超絶激辛味にしてやろうかね。
もう1つのサプライズが、勲章に付随する副賞に関してだった。なんと、黒猫族に対する支援の確約が含まれていたのだ。短い間に検討をしてくれたらしい。
今後は国家の名のもとに黒猫族の人権と生活を保障するということと、戦士を目指す者に対する武具の下賜、さらには戦闘指南役の派遣が盛り込まれていた。しかも、フランに対する報奨金1000万ゴルドはそのままに。なかなか奮発してくれたみたいだった。
式典が終了すれば、出発の時間である。昨日までに細々とした買い物は済ませているし、すでに報酬の類は全て受け取った。出発の準備は万端である。この後はすぐに王都を旅立つ予定だ。
そして、夜には港町であるグレイシールに到着し、獣王が乗ってきた快速艇に乗船することになっている。
通常のルートでは10日近くかかるルートだが、俺たちには一直線に踏破する方法があった。
来るときは角車を使ったり、わざわざ魔境を通り抜けたが、今なら半日で移動できるのだ。
『キアラへのお別れも済んだし、いくか』
「ん」
最後に、フランはキアラの遺体を数分見つめていた。何かを口に出すわけでもなく、涙を見せる訳でもなく、ただただ静かにキアラの前で立ち尽くす。
だが、背を向けて歩き出したフランの顔はやる気に漲っていた。俺ではわからない何かを、キアラから受け取ったんだろう。
『もういいのか?』
「ん。もう、だいじょぶ」
『そっか』
「いこう、師匠」
『おう!』
キアラの遺体の安置されている部屋を出ると、そこではメアが待っていた。
「……行くか!」
「ん」
キアラに別れの挨拶をしていたフランを見ていたんだろう。だが、何も言わない。ただ、軽く微笑んで、フランを先導して歩き始めた。
向かう場所は、王都の外だ。王城から飛び立つわけにもいかないからね。王都に魔獣が侵入したと思われて騒ぎになるだろう。王都の外にある平原から出発することになっているのだ。
「準備は良いかフランよ」
「ん」
「よし、行くぞリンド!」
「クオオオォォォ!」
今回はウルシではなく、リンドに乗せてもらって移動することになっていた。飛行速度はリンドの方が圧倒的に速いからな。クイナも王城で留守番をしているので、リンドに乗るのはメアとフランだけである。それ故、かなりの速度が期待できた。
「クオオォォォン!」
『うおお! 速いな!』
「ん! 凄い」
飛び立ったリンドが翼を羽ばたかせると、一気に加速して最高速に入る。ウルシに乗って空を移動することに慣れたフランでさえ、目を丸くして驚いていた。俺も普段はもっと速く飛ぶことはあるんだが、フランに背負われた状態だとまた違った感覚だ。
「ふははは! リンドの力はこの程度ではないぞ! リンドよ! 本気を見せてやれ!」
「クオクオォォ!」
まだ速くなるのか! すると、リンドの全身が赤く輝き、その後確かに飛行速度が上昇した。後方に目をやると、炎を後方に噴出して加速を得ているのが見えた。戦闘時にも使っていた、火炎魔術のバーニアの真似だろう。
今は一瞬の加速ではなく、継続的に高速を維持するような使い方をしているようなので、むしろバーニアよりも汎用性は高そうだった。
ユニークスキル、操炎の理の力なのだろう。操炎スキルの勉強になるな。下位互換とは言え、同系統のスキルであることは確かなのだ。
しかも気流操作スキルで風圧もあまり感じない。全くないわけじゃないけど、扇風機の弱くらい? まあ、この速度で空を飛んでいることを考えたら、無視してもいいだろう。
「あそこを見ろ。王亀の群れだ」
「おおー」
メアが指差す方を見ると、小山ほどもある亀が群れを成して湖で水浴びをしている。背中に木の生えた亀なんて、初めて見た! なかなか迫力のある光景だ。
「下を見ろ。我が国でも名高い翡翠湖だ」
『綺麗だな~』
今度は湖面が翡翠色に輝く湖が現れた。湖底に翡翠色の石が敷き詰められており、上から見ると光の反射で輝いて見えるらしい。
その後も、次々とメアが珍しい物を発見しては、教えてくれる。ツアーコンダクターさんに説明を受けているようだ。フランも楽しんでいる。
「見よ! 霞が晴れて、境界山脈が見えるぞ!」
「おおー。すごい」
『高いなー』
メアの視線の先には、巨大な灰色の山脈の姿が見えていた。遥か遠方にあるはずなのに、その威容は神々しくさえある。まるで天空を覆う分厚い雲と、大地の間を遮る長く巨大なベールのようだった。
エベレストよりも遥かに高い山脈だ。地球ではまずお目にかかれない光景だ。
『あそこの麓にいたんだよな……』
「ん」
フランが遠い目で山脈を見つめる。色々な思い出が脳裏をよぎっているのだろう。良いことも、悪いことも、たくさんあったからな。
「なあ、フランよ」
「ん?」
「また、我が国に来るよな?」
ああ、そういうことなのか。きっと、フランが色々と辛い思いをしたこの国に、あまり良い思い出がないと考えたのだろう。だから、最後に少しでも良い思い出を作ろうとしてくれたのだ。
「もちろん」
「ほ、本当か?」
「ん。メアがいるから」
だが、フランはどこまでも前向きなのだ。辛く嫌な記憶があろうとも、わずかに良い記憶があればそちらを大事にできる娘である。
キアラを失い、自身が殺されかけた国ではあるが、親友であるメアに会うためであればそんなものはフランにとって何の障害にもならないのだ。
「また、絶対にくる」
「ああ、待ってる」