軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

386 勲章かランクか

「もし、その提案を受けいれたらどうなる?」

「フラン殿には黄金獣牙勲章という、勲章が授与されることになっております」

「勲章?」

「はい。黄金獣牙勲章は、国家に対して最も功績のあった者に贈られる、最高位の勲章です。この度の功績により、キアラ殿への贈呈が決定しておりますな。フラン殿がこの勲章をお受け取りになった場合、生きている者に贈られるのは300年ぶりのこととなります」

俺が思ってたよりも、凄い勲章だったらしい。キアラにも贈られるってことは、英雄的な人間が二階級特進的に与えられる物なのだろう。これは、かなり奮発してくれたんじゃないか?

「実利は国内での名誉だけではありません。授与された人物には副賞として金銭的な報酬も確約されています。特に上限が決められていませんから、この副賞を利用してフラン殿に金銭をお渡しすることが可能です」

昔からある勲章なので、時々で貨幣の価値が多少変わる可能性があり、それ故あえて額を決めていないらしい。

「今回は、勲章の副賞として、1000万ゴルドを予定しておりますね」

「ん。わかった」

いやいやいやいや! フランさん? あっさり流し過ぎぃ! 1000万だぞ! 地球の感覚で言えば、1億円以上だ。それなのに、なんでそんなに冷静なの?

『フラン! 1000万Gだってよ!』

(ん)

やはり冷静だ。なんか、興奮してた自分が馬鹿に思えてきた。なんというか、自分の浅ましさを改めて思い知った? フランにはいつまでも純真なままでいてもらいたいものだ。

(……屋台の料理、買い占められる?)

『いや、屋台ごと買えるぞ』

(じゅるり)

ああ、単純に金額が大きすぎて実感がわいていないだけでした。ま、まあ、たくさんということは分かっているみたいだから、いいかな?

「さすがですな。この金額を聞いて眉一つ動かさぬとは……」

いえいえ、欲が食欲と戦闘欲に偏っているだけです。

「あと、私へのお金は減ってもいいから、黒猫族の皆を助けてあげてほしい」

「ほう? なるほど……。獣王陛下のおっしゃっていた通り、欲のないお方のようだ」

グイーサがわずかに考え込む。

「わかりました、検討しましょう」

「ん」

「それとですね、勲章に関して前向きに考えていただいているようなのですが、実はあなたにはもう1つ選択肢が残っております」

「どういうこと?」

「今、我らが提示したのは、ネメア殿下と獣人国にも益のある提案でした。無論、フラン殿にもですが。しかし、我が国以外にあなたに対して報酬を提示できる組織が1つ存在しております」

「組織……?」

「冒険者ギルドです」

グイーサが告げたのは、意外な組織の名前だった。だって、俺たちは戦争関係の依頼をこなしたわけでもないし、ギルドは戦争に係わらないスタンスなんだろう? 素材を売却するとかならともかく、国を守ったことに対して報酬を出す立場ではないと思うが……。

「この度の戦争において、冒険者ギルドは目立った功績を上げておりません。冒険者が自らの意思で戦争に参加してはおりますが、それは義勇兵という扱いですし。無論、町が攻められた場合、防衛や避難に手を貸してはいるものの、それはある意味町に住む者の義務ですので」

ギルドは戦争不介入の組織だし、それは仕方ないだろう。功績が無いという話をしているとき、レイモンドとグイーサも、特に顔を顰めたりもしていない。彼らにとっても、それは当たり前の認識なのだ。

「ですが、ギルドの上層部はその事態を憂慮しています」

「憂慮?」

「この度のバシャール王国は、ダンジョンを支配下に置いて大量の魔獣を操るという方法を採用しました。そして、ダンジョンと魔獣はギルドの管轄でもあります」

「背後に国がいたとはいえ、ギルドにも一定の対応責任があったのではないかと、ギルドの中から意見が出ているそうです」

そういう話か。人間同士の戦争はともかく、俺たちが対応した北からの侵攻は、ダンジョンのスタンピードみたいなものだった。冒険者ギルドが対応したとしてもおかしくはない。

「また今後、民衆の間にそういった話が出回らないとも限らない。そうなると、ギルドとしても面白くはないでしょう。国としては、この度の戦争における冒険者ギルドの働きに何ら不満はありません。しかし、冒険者ギルドとしては、もっとしっかりとギルドの存在をアピールしつつ、今後の憂いを取り除いておきたかったでしょうね」

冒険者ギルドは前例に倣ったベターな選択をしたが、ベストではなかったということなのだろう。ましてや英雄として人気が出ているフランは冒険者だ。場合によってはフランに依頼を出すなどして、一枚噛むこともできたかもしれない。

「ですが、戦争は終結し、魔獣も撃退された。これ以上、ギルドには打つ手だてが無い」

「フラン殿がギルドに手を差し伸べなければ、ですが」

「どういうこと?」

グイーサの言葉にフランが首を傾げる。

「はい。まあ、やり口は我が国が提案したものとほぼ同じです。ネメア姫の特命によって魔獣と戦ったという部分が、ギルドからの特別依頼に変わる形ですな」

後出しで、実は冒険者ギルドが依頼を出してましたとするわけね。

「この方法をとった場合のデメリットは、まず我が国からの報酬が大幅に減る事。姫の特命だったことにはできないので、勲章の話もなくなるでしょう。また、ギルドの依頼達成報酬は500万Gほどになります。受け取る金額も大幅に減りますね」

随分具体的に金額を言うな。もしかしたら裏ではギルドときっちり話が付いているのかもしれないな。それにしても、報酬の減額はかなりのデメリットだ。それに、国からの提案を蹴ったことになるから、良い印象は持たれないだろう。

「メリットとしては冒険者ギルドの覚えが良くなること、さらにはランクアップが見込めることですね。冒険者ギルドに貸しを作る形になりますし、国を一つ救うという偉業です。ランクBは確実かと存じます」

そういうことか。確かに金銭面では大きく損をするが、ランクアップというのはそうそうできるものではないからな。さらにランクアップの審査がより厳しくなる上級ランクのCからBに一発で昇格できるともなれば、大抵の冒険者は飛びつく話だろう。

しかも冒険者ギルドに恩を売れる。これも冒険者であるフランにとっては金銭以上に価値のあることと言える。

「我が国としては、どちらを選んでいただいても構いません」

「じっくりとお考え下さい」

レイモンドとグイーサは、そう言って微笑んだ。国としては、勲章の方を選んでほしいと思うんだが、いいのか? 一見すると純然たる好意でフランに情報を与えているように見えるが、国の大臣を任されているような者たちが、そこまでお人好しだろうか? いや、そんなわけがない。

多分これは親切なふりをしつつ、フランを軽く誘導しているのだろう。

相手に対して好意的に接しつつ、メリットデメリットをきっちり提示する。さらに自分たちが不利になるような提案さえしてみせた。そうすることで、フランが獣人国に対して親近感を持ちやすくなるはずだ。また、グイーサたちのような、地位も爵位も高い者の口から直接説明されたことで、獣人国の提案を蹴りづらくなっている。少なくとも普通の人間だったら、ここまでされて提案を断るのは申し訳ないと考えるだろう。上手いね。

(師匠?)

『フランが選びたい方でいいぞ』

(ん。わかった)

まあ、騙そうとしているわけじゃないし、むしろ普通の交渉の範疇だろう。それに、どちらを選んでもある程度のメリットはある。俺としてはフランが望むならどちらでもよかった。

「重要な決断ですので、一晩じっくりお考え下さい」

「明日の朝にお聞かせ願えば――」

「ううん。いい。勲章が欲しい」

「ほう? よろしいのですか?」

フランが即答する。意外だな。実は冒険者ギルドを選ぶと思っていたのだ。勲章を欲しがる性格でもないだろうし、ランクアップの方が分かりやすい。

「キアラとおそろいの勲章がいい」

「……了解いたしました。すぐに用意させていただきます」

「ん」

そういう理由だったか。やっぱりフランにはずっとこのままでいてもらいたいものだ。

「ではギルドへはこちらから打診させてもらいましょう」

やはり冒険者ギルドとはもう話し合いがあったようだ。それ故に双方の案を提示したんだろう。話の持って行き方とか、ギルドの提案をグイーサがプレゼンしたことからも、獣人国側が主導であることは確かなのだろうが。

「フラン殿、この度はかなりの数の魔獣素材を手に入れたと伺っておりますが、それを冒険者ギルドに売るつもりはありませんか?」

「……でも、時間がない」

もう夜だし、明日の朝には旅立つ。売るにしても、次の町に行ってからだと思っていたのだ。アリステアの館で解体させてもらったやつ以外は、未解体の物ばかりだしね。

「ですが、ギルドの提案をお断りになるわけですし、ここで多少は恩を売っておいてもいいかと思いますが。売りたくない訳ではないのでしょう?」

「ん」

「では、ギルドの人間が王城へとやってくると申しております。解体人と査定係を派遣すると。城の演習場などを使えば解体も行えますし、城の解体人も手を貸す約束です。いかがでしょうか?」

やはり準備がいいな。まあ、そこまでお膳立てされて、断るのも悪いか。そこが向こうの狙いなんだろうけどね。でも、解体をやってくれる上に、すぐに換金できるなら俺たちだってありがたい。

『この話、受けておこう』

「ん。わかった。それでいい」

「ありがとうございます」