軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

342 アースラースの呪い

アースラースで間違いなかった。正に化け物。初見のスキルを大量に持ち、称号も物騒な物ばかりだ。

『なるほど、獣王に並ぶステータスだ』

見えざる力によって左右から押しつぶされ、ペシャンコとなった魔獣の死骸がゆっくりと地面に倒れ込む。その地響きによって、メアとグエンダルファは正気に返っていた。

彼女たちからしても、目の前で起こった出来事は衝撃的であったらしい。僅か数秒の事とは言え、ダンジョンという敵地の中で無防備な姿をさらしてしまったのだから。

思わず進み出ようとしたメアの肩を、キアラが強くつかむ。その顔に浮かぶ真剣な表情を見て、メアも相手がどういった存在であるか思い出したらしい。

「も、申し訳ありません」

「構わん。だが、しばらくそこにいろ」

そして、キアラだけが前に出る。フランたちはいつでも動けるように重心を軽く前に倒しつつ、敵意が無い事を示すために武器を構えるような事はしない。

敵対する事だけは絶対に避けるべき相手。巨大な魔獣を謎の力で圧殺した男を見て、フランたちはその認識をより一層強くしたらしい。

キアラが緊張を隠し、気安い様子で鬼人に話しかける。

「アースラース、久しぶりだな」

「ああ? お前は――もしかしてキアラか? すっかりババアじゃねーか!」

「ふん。お主は変わらんな」

「わはははは! 鬼人だからな」

「ふむ、とりあえずは平気か……。皆の者、こい!」

どうやらアースラースは見境が無くなっているような状況ではないらしい。キアラがフランたちを手招きする。

「なんだ? 遠足の引率でもしてるのか?」

「小童どもではあるが、それなりに将来有望な小童どもでな。まあ、付き添いみたいなものだ」

キアラと会話するアースラースの背に背負われた大剣は、異常に大きかった。真紅の柄だけでも1メートル近いかもしれん。2メートルを超えるアースラースが、斜め背負いにしていても、地面に擦りそうだった。

俺はその剣から目が離せなかった。単に大きいだけではない。凄まじい存在感と、威圧感をその内から放っていたのだ。震えそうになる刀身を、必死に抑えねばならなかった。

『……これが神剣か……』

名称:地剣・ガイア

攻撃力:2000 保有魔力:6000 耐久値:10000

魔力伝導率・SS

スキル

神地付与、大地魔術強化、大地魔術付与、大地無効、魔力極大回復、魔力統制

思わず鑑定してしまったが、凄まじかった。単純な攻撃力を比べたら、圧倒的に負けている。しかも大地を操る力に特化している分、そちらの能力も凄まじい。

ただ、超兵器と言われるほどか? その強さは認めよう。だが、優秀な魔術師が数人いれば、対抗できる気もした。しかも地剣・ガイアとなっている。大地剣ではなかったか? いや、リンドと同じように、力が解放され切っていないのかもしれない。アースラースのエクストラスキルにあった神剣開放が怪しいな。だとすると、開放されたらこれ以上に強くなるのだろう。

そんな事を考えていたら、アースラースの目がこちらを向いている。

「誰か鑑定したな?」

感づかれた。鑑定察知も持っていないのに、何で分かるんだ?

「こう、ムズムズするんだよ。見られてるって感じがするのさ。俺の直感スキルが教えてくれるんだ」

「済まない。ダンジョンの中では警戒を怠るなと教えているんでな」

アースラースの言葉にメアやグエンダルファが委縮している。だが、その直後に上がったアースラースの笑い声が場の硬い空気を和らげていた。

「わははははは! そりゃ当然だな! 別に怒ってるわけじゃないぞ。この顔は生まれつきだしな。単に確認しただけだ。それにしてもあの狂犬――じゃなくて、狂虎みたいだったキアラが、他人のために頭を下げた方が驚きだ! 随分と丸くなったな!」

「全く成長しとらんお主に言われたくないぞ」

「言っとけ。まあ、事実だがな! そう簡単に変われるもんじゃねーってことよ」

「ということは未だに?」

「ああ……」

何やらキアラとアースラースには分かり合っている雰囲気がある。事前に脅かすから、どんな化け物かと思ったが、普通の口が悪いおっさんだ。同じ鬼人だからだろうか、アレッサギルドのドナドロンドを思い出すな。まあ、アースラースの方が体も角もデカイが。

緊張感が解けたのか、メアが疑問を口にする。

「あの変わらないというのは? アースラース殿には何かあるのでしょうか?」

「まあな。俺は呪いを解くために、色々と探し物をしてんのさ」

「呪い、ですか?」

メアが首を傾げる。俺も最初にアースラースを鑑定したが、特に状態に呪いなどという表記はなかったと思うが。

「ああ、祝福にして呪いさ。俺にはある固有スキルがある。『狂鬼化』。このスキルを封じるために、俺は各地を回ってるのさ」

「それは、どういったスキルなのです?」

「発動すると、一部の能力やスキルが数倍に跳ね上がり、回復力も桁違いに上昇する。戦闘力だけで言ったら数倍と言ってもいいだろう」

「え? では――」

「だが、そんな凄まじいスキルに、何のデメリットもないと思うか?」

アースラースはそこまでいうと、床を盛り上がらせて作った台に、ドスンと腰を下ろす。そのまま自嘲気味の笑みを浮かべるアースラースに代わって言葉を続けたのは、キアラだった。アースラースを見るその眼には、どこか痛まし気な雰囲気がある。

「戦闘を繰り返すことで自動的に発動するのだ。しかも、発動タイミングは自分では選べず、発動中は凶暴化して理性も吹き飛び、敵味方の区別もつかなくなる。それでいて戦闘に関する知恵だけは問題なく回り、破壊をまき散らす。確かにこやつにとっては呪いだろうよ」

それでも長年の経験でなんとか発動する時期を感じ取れるようになり、その間は誰にも会わない辺境に引きこもり、人知れず暴れているらしかった。

それは確かに呪いだ。どれだけ凄いスキルであろうと――否、凄まじすぎるが故に。称号の仲間殺しが痛々しく見えてしまうな。だが、このスキル、俺なら消し去ることが出来るんじゃないか? スキルテイカーで奪えば良い。その後装備しなければ……? もし装備解除不可だった場合が最悪だが。

しかし、俺の考察はすぐに無駄な物だと知れる。

「たしか、スキルを消し去ることができる冒険者がいませんでしたか?」

「おう。ランクA冒険者、黒子のマレフィセントだな。スキルイレイザーっつう、相手のスキルを消し去るスキルを持っている。勿論、試したさ」

「ダメだったのですか?」

「成功はしたぜ。奴のスキルが1年ほど使えなくなったが、俺の固有スキル『狂鬼化』は消えた……2日間だけな」

「え?」

「固有スキルっていうのは、そいつの存在に深くかかわるスキルだ。消し去ろうが奪われようが、時間が経てばいつの間にか復活してやがんのさ。スキルを消すスキルや、スキルを奪う能力なんかも試したが、結果は同じだった」

つまり俺が奪ってもすぐに復活するってことか。

「このスキルを得たのは、ただの鬼人の戦士だった俺が、何の因果か禍ツ鬼に変異しちまった時のことだ」

「変異? 進化じゃない?」

フランの疑問に、アースラースが答えてくれる。やはり気の良いおっさんにしか見えんな。

「進化はレベルが最大に達した時に、新たな高みに進むことだ。変異はレベル以外の何らかの条件を満たして、異なる何かに変わっちまうことを言う。まあ、どっちも似たような物だが、一般的には変異の方が能力のふり幅が小さいと言われているな」

進化の方が厳しい分、より能力の上昇率が高いという事らしい。

「ただ、俺の禍ツ鬼はちょいと特殊でな。鬼人でも実在が疑問視されてた、幻の変異体なのさ。理性を失い、全てを滅ぼす禍々しい鬼。まさか自分がなっちまうとは思わなかったがな」

ただ、狂鬼化の能力を考えれば、伝承は正しかったってことなんだろう。しかも今は神剣の所有者でもある。軍を殲滅したという噂は、むしろ可愛い気がした。だって、国が滅んでいてもおかしくないのだ。

「まあ、そんな訳で狂鬼化はちょっとやそっとじゃ無くならない。ある意味、禍ツ鬼の存在定義そのものみたいなスキルだしな。残念ながら鬼人が変異できるのは生涯に一度だけだ。変異し直してスキルを消すという方法も使えん。だから俺はスキルを封じる方法をさがしているのさ。無論、短期間だけなら方法はある。だが、俺が求めているのは永久にスキルを封印できる方法だ」

「アースラース殿は、その方法を求めてこのダンジョンに?」

「まあ、ダンジョンというのはこの世の理から外れた場所だ。可能性はあるだろう。ここに限らず、俺は各地のダンジョンを巡っている。それに、ちょいと頼まれ事もしたからな」

「どういうことだアースラース」

キアラが聞き返す。頼まれ事? つまり、誰かの依頼を受けてこのダンジョンに来たのか? だが、誰だ?

「まあ、キアラとその仲間ならいいか。神様だよ」

「なに?」