軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

341 迷宮の先に

ダンジョン内部の構造は、正に迷宮の呼び名に相応しいものであった。迷路のように入り組み、枝分かれした狭い通路が延々と続く。隠密性の高い魔獣や、罠も豊富である。

まあ、魔獣はほとんど死骸で、罠はかなりの部分が解除済みであったが。いや、解除というか、起動済みと言った方が良いだろう。

どうやら先行する何者かが軒並み引っかかったらしい。アースラースって、ランクS冒険者だよな? 解除する腕くらいあるだろう。それとも俺たちのように先導役でも生み出して、わざと解除したのか?

「あやつ、やり口が全く成長しとらんな。多分、ゴーレムか何かを特攻させたんだろう」

先導役を使って自爆解除をするやり方らしい。まあ、楽だからな。

「とは言え、中には熱などを感知するタイプもあるはずだが……。まあ、アースラースであればどうとでもなるか」

結局、俺たちは罠の一つにも引っかかることはなかった。しかも、魔獣のペシャンコ死体を辿って行けば、迷うこともない。

「それにしても、おかしいですね。あのヨハンという男の情報の中に、これほどの大迷宮があるという情報は有りませんでした」

「催眠がかかってなかった?」

フランが首を傾げるが、クイナは首を振って否定する。

「いえ、あれは演技ではなく、完全にかかっていました。途中で感情が高ぶる場面もありましたが、憎んでいる獣人に対する質問をされたからでしょう。催眠状態というのは、別に感情を無くすわけではありませんから」

「では、あの男もこの迷宮を知らなかったということかな?」

「多分、そうではないかと。この場所について知らされていなかったのだと思います」

キアラの言葉にクイナがうなずくが、俺はもう1つの可能性を考えていた。それは、アースラースの襲来に合わせて、ダンジョンが拡張されたのではないかということだ。

侵入した強い敵の足止めをするために、罠が満載の迷宮を急遽生み出す。ダンジョンマスターを主人公にしたラノベなんかだとよくある展開である。

だがそう考えると、ヨハンが知らなかった理由も、魔獣たちの痕跡が急に途切れ、人間用の迷宮が突如出現した理由にも説明が付く。

ミューレリアの説明を思い返すと、ポイントを使ってダンジョンを拡張すると言っていた。それに、ウルムットのダンジョンでルミナが部屋を一瞬で生み出したのを見たこともある。支払うポイント次第では、迷宮を一瞬で造り上げることも可能なのではないだろうか?

まあ、想像でしかないし、それが分かったところで攻略に進展があるわけはないのだが。

1時間後。

迷宮を歩き続けた結果、ようやく終わりが見えようとしていた。前方にこれまでとは明らかに雰囲気の違う、巨大な扉が見えたのだ。普通のダンジョンであれば、ボス部屋だと考えてしまうだろう。

それにしても、道中では魔獣とは数える程しか戦闘せず、罠にも数度しか出くわさなかったのに、これだけ時間がかかるとは……。もし全てが完璧な状態だったら、この何倍も時間がかかっていただろう。

移動中、何度か強力な魔力を感知することがあった。やはりダンジョンのどこかで何者かが戦っているらしい。そして俺たちは、目の前にある巨大な扉の先から、同じ魔力の波長を感じ取っていた。

「普通のダンジョンであれば、ボスとの戦の最中は他の冒険者は中に入れないことが多いのだが……」

キアラとクイナが扉に近寄り、その構造を調べる。

「罠は有りません」

「これは、触れれば開くな」

簡単に開いてしまうらしい。

「では行きましょう! 今ならまだアースラース殿に加勢できるやもしれませぬ!」

「加勢? 馬鹿なこと言うな。奴にそんなものは必要ない。いいか。一つ言っておく、アースラースに不用意に近づくな。私が良いと言うまではな」

メアの言葉に、キアラは怖い程に真剣な表情で釘を刺す。それを聞いたグエンダルファは、改めてアースラースが怖くなったのだろう。ブルリとその巨体を震わせた。

「キアラ師匠。かの同士討ちとは……それ程に恐ろしい御仁なのですか?」

「当たり前だ。このダンジョンでもっとも警戒すべき相手を教えてやろう。それはダンジョンマスターでもミューレリアでもない。見境を失ったアースラースだ。覚えておけ」

キアラが皆を脅すように、低い声で告げる。いや、脅しではなく、真実なのだろう。キアラからは強い緊張感が感じられた。

「わかりました」

「ん。わかった」

「……」

メアとフランも神妙な面持ちで頷く。グエンダルファに至っては言葉が出ないようだ。息を飲んで、ガクガクと頷いている。ここでもいつも通りなメイドさんズは凄いな。正に鉄の精神力だ。

「ですが、ここでおめおめと待っているわけにもいきますまい?」

「分かっている。そもそも、中にいるのがアースラースと決まったわけでもないからな」

「では!」

「行くしかあるまい」

そして、キアラが扉に触れる。

ゴゴゴゴ――。

地響きを上げて開いた扉の向こうは、大きな円形の広間となっていた。最初の印象はコロッセオだな。まあ、地面は石畳で、天井はドーム状になっているが。

俺がこの場所を見てコロッセオを思い出してしまったのは、広間の中央で大剣を構える巨躯の男性と、その男性と向き合う全長20メートル近いトリケラトプスのような魔獣の、緊迫した雰囲気故かも知れない。

魔獣は5本ある角の内、すでに3本を失っていた。6本の足も4本に減り、切断された足からは青黒い血液がしたたり落ちている。明らかに鉄よりも硬いであろう、全身を覆う鎧のような甲殻にはいくつもの裂傷が刻まれ、隙間からは肉が見える。

対する、額から角の生えた大男には、一切の傷が無かった。それどころか息を乱してさえもいない。明らかに脅威度Cランク相当であろう魔獣を圧倒していた。

「ブオモオオォォオオ……!」

魔獣は怒りの咆哮を上げるが、動かない。否、動けない。これまでの戦いで消耗している上、男に対する深い恐怖心を植え付けられてもいるのだろう。鼻息も荒く、殺気の籠った視線を男に向けてはいるが、その場から前に出ようとはしなかった。

そんな魔獣の様子をしばらく観察していた男が、構えていた大剣を肩に担いだ。そして、左手を魔獣に対して向ける。

急激な魔力の高まりとともに、男が呟いた。

「潰れろ」

「ボオオモモモォォォォォォ――!」

直後、魔獣がまるで見えざる巨大な手で押し包まれているかのように、左右から潰されていくのが見えた。身動きも取れず、魔獣の情けない悲鳴だけが広間に響く。強力な圧迫のせいで眼球や舌が飛び出し、全身の傷からは血が噴き出す。その体液も結局は見えない壁に阻まれ、その場に溜まるしかないのだが。

そして、数秒後、魔獣は男の放った何らかの攻撃により、見るも無残に圧殺されてしまったのであった。正面からだと、まるで一枚の板のようにしか見えない。

咄嗟に男を――アースラースを鑑定したが、正に化け物だった。

※あとがきに師匠が鑑定したアースラースのステータスを掲載しています