軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

191 初戦の朝

『フラン、よく眠れたか?』

「ん……」

朝食をムシャムシャと食べながらも、まだ眠そうだな。半分眠っているのに、スプーンを動かす手が止まらないのは感心するが。

『今日は、いよいよ決勝トーナメントの1回戦だ』

「ん……」

いつも通りだな。いい感じだ。これでフランが寝起きから目がシャッキリしてたら、逆に昨日は眠れなかったのか心配になるだろう。

いつも通りに顔と頭を水で洗ってやり、温風で髪を乾かしながらブラシで髪を梳かしてやる。

『今日はフランのお披露目みたいなもんだからな。可愛くしていかないと』

「どうでもいい」

『よくないぞ。大勢に見られるんだからな』

そうやって髪をセットしていると、ようやくフランの目が覚めて、元気になってきたようだ。俺の真似をしてウルシの毛を梳いている。ウルシは気持ちよさそうに目を細めているな。挙句には腹を見せてブラッシングを要求し始めた。近所のお爺ちゃんが飼ってたちょっとおバカなゴールデンレトリーバーを思い出すぜ。少なくとも狼感はゼロだね。

『まだ会場入りには少し時間があるけど、どうする?』

「ん――師匠こっちきて」

『うん? どうした?』

「ん」

そして、フランが布で俺のことをゴシゴシと磨き始める。

『おいおい、試合前なんだから、あまり疲れる様なことするなよ』

「大丈夫」

『でもなー』

「私だけじゃないから」

『なに?』

「お披露目。私だけじゃなくて、師匠もだから。格好いい師匠を見てもらう」

そう言って、フランは俺を磨き続けた。ありがとうと言えば良いのか、俺はフランのおまけだから気にするなと言えば良いのか。だが、フランの刀身磨きが気持ちよくて、すぐにどうでも良くなってしまった。

結局30分近くも磨いてもらってしまったぜ。おかげで刀身はピッカピカだ。

『疲れてないか?』

「だいじょぶ」

『じゃあ、行くか』

「ん!」

出場選手は、冒険者ギルドに集合となっていた。特にAブロックは早い時間からの試合となるので、朝から集合する様に指示されている。

ギルドに到着すると、すぐに係員が控室に案内してくれる。なんと決勝出場者はギルドの2階や3階にある個室を控室として与えられるらしい。

大部屋だと喧嘩や小競り合いを始める奴がいるだろうしね。うちのフランとか。

「フラン様は6試合目となっておりますので、それまではこの部屋でお待ちください。1試合30分制限ですので、最大で2時間半程お待ちいただくことになると思います」

「ん。わかった」

「試合が終了すれば、他の試合の観戦などは問題ございませんが、それまで外出はお控えください。試合展開が早ければ、開始時間が早まることも考えられますので」

決勝は制限時間が30分となっている。ダラダラとした試合展開を避けるとともに、大会の運営が遅れることを防ぐためだ。

30分で決着が付かなかった場合、判定となる。その判定は試合開始前に着けさせられる判別の腕輪が行うんだとか。残りのHPやMP、被ダメージを計測し、勝者を決めてくれるマジックアイテムだ。

「何かご入用がございましたら、外に控えている係員にお申し付けください」

買い物や、軽食の用意など、色々と雑用をしてくれるらしい。決勝トーナメント進出者っていうだけでかなりのVIP扱いなんだな。

まあ、俺たちは大抵の物が次元収納に入っているし、特にしてもらいたい雑用はないが。

その後、1時間ほどのんびりしていると、部屋のドアをコンコンとノックされた。

「フラン様、失礼いたします」

「ん」

「現在、第4試合が始まりました。次の次ですので、試合場の控室まで移動をお願いいたします」

予定より少し早いな。移動中に話を聞いてみると、1回戦が秒殺だったらしい。さすがゴドダルファ。期待を裏切らないね。

その後の2試合は30分ギリギリまで戦ったのでこの時間らしい。やはり皆判定での決着を嫌がるので、実力が伯仲している試合でも最後の最後で決着がつく試合が多い様だ。

会場へは、ギルドの地下にある通路から入ることが出来た。地上を移動すると人気選手の場合は騒ぎになってしまうからだろう。

やはり個室の控室に通される。こっちはギルドの控室よりも数段豪華で、豪華なソファや、羽毛布団付きのベッドまで備え付けられている。

「すでに第5試合が始まっております。場合によってはすぐに出番となりますので、準備をお願いいたします」

「ん。わかった」

フランはフカフカのソファにダイブして、その感触を楽しんでいるな。

耳を澄ませると、試合の歓声が聞こえてくる。考えてみたら、今はラデュルとクルスが戦ってるんだよな。時おり聞こえる爆音は、ラデュルの魔法だろうかね。

フランは今度はベッドにダイブして、ウルシとじゃれ合い始めた。試合前だが、リラックスできているなら問題ないな。

『お、試合が決まったか?』

しばらくすると、耳を澄ましていなくても聞こえる程の、凄まじい歓声が聞こえた。勝負がついたのだろうか。さらに耳を澄ませてみる。そうすると、実況の叫び声が微かに耳に入ってきた。

「決まったー! 下馬評を覆し、ランクC冒険者、クルスが勝利をもぎ取ったー!」

まじか? え? クルス勝ったの?

「師匠、どうしたの?」

俺の驚きが伝わったらしい、フランが不思議そうな顔で聞いてくる。

『いや、クルスがラデュルに勝ったみたいだ』

「クルス?」

『ああ、もうお忘れで。まあいいや。もう出番だろうから、用意しておけよ』

「ん。わかった」

その直後、案内係が現れてフランを試合場へと誘導してくれた。途中で判定の腕輪を装着する。これは装備品扱いではないようで、ほかのアクセサリーを取り外す必要もないらしい。

本会場は通路も広くて、薄暗くもないな。試合場に向かいながら、俺はフランに声をかけた。緊張してたら解してやらねばと思ったんだが、フランに緊張の様子は全くない。むしろ機嫌よさげにスキップ気味に歩いていた。

『全然緊張してないな?』

「ん!」

『さすがだよ。じゃあ、一回戦だ』

「腕が鳴る」

『ウルシは合図するまでは出てくるなよ?』

(オン)

通路を抜けると、2次予選の時よりも2回りは大きい舞台と、その周りを取り囲む十倍以上の観客の姿があった。

最早細かく聞き取ることは不可能な、ドーッという歓声が滝の様になって押し寄せる。

「むぅ」

フランが猫耳をペタンと押さえて顔を顰めていた。

『大丈夫か?』

「……ん。もう慣れた」

良かった。耳が良すぎるのも考え物だな。もっと聴力の高い、それこそロイスの様な兎獣人なんか平気なのか? そう心配になる程の轟音であった。

「さあ、決勝トーナメントAブロック、6回戦の選手入場だ! 選手ナンバー11。予選ではその可愛らしい外見に似合わぬ強さを発揮した、今話題の最年少ランクC冒険者! 魔剣少女フラン!」

実況に誘われる様に、フランがゆっくりとした足取りで舞台に登る。そこにはすでに対戦相手が待っていた。

「む」

相手の姿を視界に捉えたフランの顔が強張る。

「それに対するは、選手ナンバー12。傭兵団『青の誇り』団長! 青猫族の若手の筆頭株らしいぞ! 青撃のゼフメート!」

そう、相手が青猫族だったのだ。しかも実況を聞いてみたら青の誇りの団長だと言うではないか。フランはゼフメートを鋭い視線で睨みつけると、静かに俺を背から引き抜くのだった。