軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑章三 孤島へ 04

バルボラを出航して17日目の早朝。

ルシール商会の大型商船は、最後の寄港地へと到着していた。

いやー、長い航海だった。1日おきに補給できるような場合もあったが、7日間無補給で大海原を進み続ける場合もあり、事前補給の重要性がよく分かったのだ。

補給優先で進めば寄れる場所はあるようだが、今回は早さ重視で最短距離を航行したらしい。

ジルバード大陸西部にあるバルボラを出航後すぐに南下し、時おり小国家群で補給をしつつ東進。

次に辿りついたのはプラッタ大陸だ。ジルバード大陸から見て南東、ゴルディシア大陸から見て南西に位置する大陸である。このプラッタ大陸の北端で補給をしたのち、そこからはほぼ無補給で最東大陸であるカプル大陸の南端へと辿り着いた。

プラッタ大陸からカプル大陸の間には寄港できるような島もなく、難所として有名であるらしい。

そして、ここから目的地であるハガネ領国まで、再び無補給で5日ほどかかるそうだ。

事前では30日くらいかかる場合もあると言われていたので、総計で22日というのは早い方だろう。大嵐や大型魔獣の襲撃、風向き問題といった航海を遅らせる要因にほぼ遭遇しなかったのが大きいらしい。

一応、小型の嵐には見舞われたのだが、運よくプラッタ大陸に寄港中であったのだ。そのため、出発を1日遅らせる程度で済んだのである。

「フランさん。明日の昼前に出航いたしますので、それまでは自由時間で構いません」

「わかた」

今は夕方ちょい前だから、半日は自由にできる計算か。

「じゃ、町見て回る」

『だな。市場行こうぜ』

「オンオン!」

今いるのはカプル大陸最南端の町、エルリーゴ。周辺大陸や、カプル大陸に存在する他国との交易の玄関口となっている、オラントス王国所属の巨大交易都市だ。

感覚ではバルボラと近いだろう。都市の規模も同じくらいだ。

ただ、建造物の様式や姿は全く違っていて、バルボラとは全く似ていない。バルボラが日本人の想像する中世ヨーロッパ風だとすると、エルリーゴはギリシャっぽい感じかな。

白い石材が多く産出される土地柄らしく、それを使って建物が建てられているのだ。また、裕福な交易都市なので装飾や外観に拘る余裕があり、柱や壁を彫刻や壁画が彩っている。

それがこの都市に、パルテノン神殿とサントリーニ島の白い町を混ぜて割ったような雰囲気を与えていた。まあ、俺の印象でしかないけどね。なんせ、ギリシャなんて行ったことないし。

「これ、なに?」

「オン?」

今までにない雰囲気の町を、ワクワクとした顔で歩くフランとウルシ。彼らが最初に足を止めたのは、当然のごとく最初に発見したお店の前だった。

まあ、大通りの左右に屋台が並んでいるのが見えた時点で、こうなるだろうとは思ってたよ?

「お? 嬢ちゃんこの町は初めてかい? こりゃエルリーゴ名物、海鮮串揚げだぜ! この辺だと、貝類やイカが豊富に採れてな。それを串に刺して、デスシーオッターの脂で揚げてんのさ!」

デスシーオッターというのは、この辺の海で出現するラッコ型の魔獣だ。その可愛い外見に反して、脅威度はDとなかなか侮れない。

肉は不味いが高品質の脂が大量に採れ、毛皮も高級品として取引されているそうだ。さらに、ラッコの巣の周囲は、濃い魔力と彼らの排泄物のおかげで魚介類の育ちも良いらしい。

「1本どうだい?」

「2つちょーだい」

「オンオン!」

「おう! ありがとよ!」

ホタテの串揚げをほおばる2人。一瞬でなくなったな。お気に召したらしい。

(師匠! もっと買う!)

(オンオン!)

100メートルくらいの屋台通りを通り抜けるのに、1時間くらいかかっちゃったな。

そうして辿りついたのが、町の中央に立つ商業ギルドの建物だった。ちょっとした宮殿くらいの広さがあるんじゃなかろうか? さすが交易で有名な都市である。

多くの人が出入りしているが、その中にはルシール商会の面々の姿もあった。レンギルの秘書的な役割の男性が、焦った様子で何やら指示を飛ばしている。

フランは緊急事態の可能性も考えて、声をかけることにしたらしい。

「どしたの? 何かあった?」

「ああ、フラン殿。いえ、仕入れで少々予定外の事態が起こりまして」

このエルリーゴは交易都市として名を馳せているが、その中でも取り扱う薬草の品質で有名であるそうだ。その質の高さは、世界に数ある薬草の名産地の中でも五指に入るという。

ルシール商会も当然薬草を仕入れるつもりだったが、希望していた薬草が全く市場に流れていないらしい。あっても普段の数倍の値段が付いているそうだ。

「全く、どうなっているのだか……。おっと、つい愚痴るような真似を。申し訳ありません」

「ううん。仕入れられるといいね」

「ありがとうございます。そう言えば、冒険者ギルドに行くと言っておられましたよね? ギルドはこの通りの先です」

「ん。ありがと」

薬草が全然手に入らないか。誰かが買い占めたりしているのかね?

教えてもらった道を進むと、ようやく目的地が見えてきた。また買い食いしつつだったから、マジで時間かかったよ。

聳え立つ大きな建物は、交易都市エルリーゴの外門付近に立っている冒険者ギルドである。

道中の屋台で聞いたところ、エルリーゴには冒険者ギルドが3ヶ所あるらしい。町の北門脇にある本部に、南東側の港支部と、西門脇にある買い取り用支部だ。

支部が複数ある都市は珍しくないが、この規模の都市で本部が入り口からすぐの場所にあるのは珍しい。

普通の村や町なら、粗暴な冒険者が町中で騒ぎを起こすことを防ぐために入り口付近にギルドを設置するのは当たり前のことだ。獲物をそのまま持ち歩いたりすることも防止できるので、衛生的にも重要である。

しかし、町が大きくなるにつれて、ギルドはドンドンと町中へと飲み込まれていく。大体において外壁を増設し、外へ外へと町が広がっていくからだ。

かつて門の真横だった立地は、いつの間にか町の中心部になっているなんてことも珍しくはなかった。

俺たちが最初に辿り着いたアレッサも、今回の出航地である商都バルボラも、同様である。結果、入り口に近い場所に冒険者ギルドの支部が作られ、買い取りなどはそこで行われるようになっていた。

まあ、俺たちは次元収納があるから、支部を使ったことないけどね。本部の方が鑑定も支払いも早いし、信頼できるのだ。

話が逸れたが、エルリーゴの冒険者ギルド本部が入り口の脇に立っているのは、他と比べてかなり珍しいことなのである。都市を拡張する時に、冒険者ギルドとしっかりと意思疎通を行っている証拠だろう。

『じゃ、いくか』

「ん。たのもう」

「オン!」