軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑章三 孤島へ 03

「わほー!」

「オンオン!」

『ちょ、フラン! ウルシ! 船から離れすぎてるって!』

「ウルシ! きゅーそくせんかい!」

「ワフー!」

出航から7日。

船の上でのまったりバカンスや釣りだけでは飽きてしまうということで、今日のフランはウェイクボードっぽい遊びをしていた。

引っ張る役目はウルシ。ボードは変形した俺だ。

ウルシの首輪から伸びた魔糸を束ねて作った紐を握り締め、海面の凹凸に合わせて激しく上下しながら滑る俺の上でバランスを取っているフラン。

時にはあえて高く飛びつつ体を捻ったりして、風と波を楽しみつくしている。

耐久値が削れてしまうので障壁を張りたいけど、それだと振動も抑えられてしまって全然楽しくないらしい。仕方ないから、自己修復を全開で使用しているのだ。

ああ、この状態でも護衛はしっかりしているぞ? ちゃんと気配察知の範囲から船が出ないように遊んでいる。まあ、少しテンション上がり過ぎて、ちょっとだけ離れすぎることもあるが。

因みに、今回はアヴェンジャーと邪神ちゃんの出番はない。ないというか、使えない。

狭い船上で、不浄と毒の権化たるジェノサイドグールなんぞ召喚できんし、邪神の欠片なんてもっとヤバい。

奴らは広い戦場や、俺たちしかいないダンジョンなどでしか呼び出せないのだ。

「む? 魔物の気配」

「オフ!」

「ウルシ、いく!」

「オンオン!」

すっかりウェイクボーダーと化したフランの指示のもと、ウルシが船を迂回するように全速力で駆ける。

相当な速度ではあるが、フランは完璧な体重移動で危なげなく方向転換をしていた。

『フラン、魔獣は海中だ!』

「ん! 師匠! すいちゅーもーど!」

『おう!』

まあ、障壁と水魔術、風魔術で周囲を覆って海中に潜れる状態を維持するだけだが。ウルシが大きく息を吸い込むと、海中へと潜航していく。

水流も操作しているので、俺たちの浮力も抑えられているからね。驚くほど抵抗なく、海中へと潜ることができた。空中跳躍って足場を作るスキルだから、実は海中でも使用可能なのだ。

底の見えない深い紺碧の海中には、巨大な影が蠢いている。魚ではないな。

(師匠、おっきい亀!)

『ジャンピングタートルだ! 海の上に出る前に仕留めるぞ!』

(わかた!)

海中から一気に浮上し、海上で跳躍することで船や海面の生物を攻撃して襲う習性があるらしい。さほど大きな個体ではないので、こいつの跳躍攻撃が当たっても船が沈むことはまずないだろう。

ただ、船が傷つくことは間違いないし、甲板に落下して船員たちに怪我人が出るのも避けたい。

海中で一気に倒してしまうのが最善だった。

普段なら念動カタパルトで狙うんだが、今の俺はボード状態。フランとしてはこの状態をキープしたいらしい。よほど気に入ったんだろう。

(ならこう! アクアジャベリン!)

フランが使ったのは水魔術だった。相手は水属性耐性の高い、水棲系の魔物だが――。

(やった)

『おう! あれはさすがに防げなかったらしいな』

フランが魔力を込めに込めた、数倍の威力の魔術だ。ジャンピングタートルの高い属性防御力を持ってしても、防ぎきれるものではなかった。

水の槍が硬い甲羅をあっさりとぶち抜き、一発でその命を奪ったのであった。

まあ、弱い魔物ならこんなものだろう。だが、戦闘はこれで終わりではなかった。

『フラン! 下だ!』

(なんかおっきいのくる!)

ジャンピングタートルの血の匂いを嗅ぎつけたのか? 俺たちがその死体を回収しに向かっていると、凄まじい速度で近づいてくる気配があった。

海中に漂うジャンピングタートルの真下。青黒い海の底から、黒い影が上がってくるのが見える。クジラかと思うほどの巨体だ。

その光景を見ていると、よく分からない恐怖心や不安感が湧き上がってくる。剣の筈なのに、全身がゾワッとするような気がするのだ。しかし、フランは全く平気なようだった。

(亀、盗られる! ウルシ! 急ぐ!)

獲物のことしか考えていないのだろう。フランは、ジャンピングタートルを奪われることが我慢ならないのか、ウルシに速度を上げるよう指示した。

(オフ!)

ウルシが四肢に闇を纏い、海中を駆ける速度を上げる。俺も魔術で補助と援護だ。

結果、フランは間一髪ジャンピングタートルの死体を先に収納することに成功する。だが、ホッとするのも束の間、謎の影は俺たちの直下にまで迫っていた。

巨獣の咆哮のようにも聞こえる、巨体が水を割る音が水中に轟く。

光の届かぬ闇の中から飛び出してきたのは、巨大な岩の塊のような異形の魔獣である。全長20メートル近い。

『ロックフィッシュだ! デカいぞ!』

その名の通り、全身が岩のような装甲に覆われた巨大魚である。普通の個体は10メートル弱のはずであるが、年月を経て巨大に育ったのだろう。

自身を一飲みにできる巨大な口が迫ってきていても、フランは一切怯まない。むしろニヤリと笑い、迎え撃つべく身構えた。

「はっ!」

「!!!!!!」

フランが放ったのは、風魔術だ。放ったというか、ロックフィッシュの噛みつきをウルシが紙一重で躱すと、すれ違いざまにフランが手刀を叩き込んだのである。

風魔術と神気を纏ったその手刀は、そこらの魔剣なんぞ目じゃないほどの切れ味を誇っていた。岩のように硬いはずの分厚い装甲が豆腐のように切り裂かれ、上下ですれ違う勢いのままに深々と切り裂かれていく。

フランが手刀を振り抜いた時、そこには肉体の半分ほどを切り裂かれたロックフィッシュの死体が生み出されていた。浮力に負けて海面へと昇っていくその巨体を、収納に仕舞い込む。

(魚、げっと)

(オンオン!)

『その前に回復だ!』

勝利の代償に、手刀を放ったフランの手は激しく傷ついている。そりゃ、素手であんな威力の攻撃を放てば、こうなる。しかし、フランは全く気にしていなかった。

(師匠。これおいしい?)

食欲優先なのね! だが、そんなフランに悲しいお知らせです。

『あー、こいつ、メッチャ不味いらしいぞ』

(え……?)

『生臭すぎて食えたもんじゃないうえ、舌が痺れるくらい苦いらしい』

(そんな……)

そ、そんな絶望した表情せんでも!

『み、水に沈まん鎧に加工できるらしいから、装甲はルシール商会が高く買ってくれると思うぞ?』

(……ん)

(オフ……)

お、落ち込むなって! なんか俺が悪い気になっちゃうから!