軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1260 聖母と地獄

「ふふ……。いい加減、眠りたいのです」

深い闇と絶望を感じさせる、笑いと呟き。奇しくも、先ほどまでは全く感じなかったアンデッドっぽさがあった。

生者を恨んでいるようにも、自身の境遇を悲しんでいるようにも感じられる。

まさに、嘆きだ。

「私は、生前は聖女などと呼ばれ、多くの人間に利用される人生を歩んでいました」

聖女? どっかで聞いた話だが……。

「神剣ディアボロスは、聖女を生贄にして作られたって聞いたわね」

「ん」

アマンダに言われて思い出した。そうだ。ディアボロスだ。

「その通り。でも、私は聖女などと呼ばれるほど、正しい人間ではありませんでした。そもそも、回復魔術を持っている女性が活躍すると、聖女と呼ばれることが多いのですよ」

そういう職業や称号を持っているわけじゃなくて、周りから聖女と言われていただけなのか?

まあ、フランも黒猫聖女とか呼ばれたことあるしな。本人の性格なんて、あまり関係ないのかもしれない。

「大勢の人間に囲まれ、利用され続けました。その挙句が、生贄です」

ディアボロスを作る際に、聖女が生贄となったと聞いたが、まさか本人から話を聞くことになるとは。

聖母は昏い声色のまま、語り続ける。

「聖女と呼ばれるほどの力を求めた神級鍛冶師と、神剣を求めた国の利害が一致したのです。危険を察知して逃げ出す前に拘束され、無理やり奴隷にされた私は地獄へと送り込まれました」

「地獄?」

地獄のような場所って意味じゃなさそうだよな?

「ええ。あの時は知りませんでしたが、今は全て知っています。この世には地獄の名を冠する最上位のダンジョンが7つ存在しているのですよ」

この世界において地獄というのは、死後に悪人が落とされる概念上の場所ではなかった。この世界では、明確に地獄と名付けられた場所が存在したのだ。

いや、多くの人は実在する場所だとは思っていないが、実はしっかりと存在していた。それが、原初の七大ダンジョン。混沌の女神によって最初に作られた最も古いダンジョンにして、最難関の迷宮である。

大罪の力を与えられた7人の悪魔王たちがそれぞれに主として君臨し、膨大な数の悪魔が守護する場所だ。

「神級鍛冶師に神剣使いまでいた強力なパーティは、半年かけて迷宮を攻略。最奥に辿り着き悪魔王と相対しました。悪魔王の名は、色欲のアスモデウス。色欲の迷宮のダンジョンマスターです。そして、私は生贄とされ、力を封じられたアスモデウスは新たな神剣の礎となりました」

そうして出来上がったのが、神剣ディアボロスである。清廉潔白な国なんてないのは当たり前だが、フィリアースの過去にも色々と深い闇がありそうだ。

7つある地獄は色欲の迷宮も併せて3つしか発見されておらず、残り2つも発見した国が秘匿しているらしい。地獄はその難易度や、出現する魔獣の強さで他のダンジョンとは一線を画すが、明確に違う点が1つある。

それは、スタンピードを起こさないこと。悪魔王が完璧に統率する地獄は内部で完結しており、悪魔たちは決して外には出てこないのだ。

結果、長期間の秘匿が可能となってしまっていた。

「蟲人たちの国にある傲慢の迷宮。鳥人たちの国にある怠惰の迷宮。どちらも、国の管理下で運用されています」

メチャクチャ情報通だが、どこでそんな情報を知ったんだ? この場にいる者たちも、初耳の話ばかりだぞ?

「何でそんな詳しい?」

「情報神の根源の力で、神域から知識を引き出したのですよ。膨大な情報の海から、狙った情報を引き出すのは普通では不可能でしょうが、幸い私には壊れる脳なんてもうありませんから」

分割思考などと同じだ。フランが使えばひどい頭痛がするのに、俺は全く問題がない。やはり、生身の人間よりも、死者や無機物の方が上手く扱えるスキルなんだろう。

「あの仮面の少女は、このスキルを生身で扱っていたのですよね……。驚きです。全ての五感がありとあらゆる情報を拾ってしまう。生き地獄だったはずです」

ペルソナは、スキルを制御しきれていなかった。きっと聖母が言う通り、情報の海に溺れるような日々だったろう。ありとあらゆる情報が流れ込み、遮断もできない。それは確かに、地獄だ。

「ですが、その娘には支えてくれる人がいたのでしょうね」

「マレフィセント」

『だな』

きっと、ペルソナが健気に笑い続けていたのは、彼の影響が大きい。支え、支えられ、そうして生きてきたのだ。

「羨ましいことです。私には、支えてくれる人なんていなかった。ただ私を利用しようと群がってくる者たちに翻弄され、利用される人生でしかなかった。そして、死んでからも利用され続けている……」

聖女が死後に聖母となったのは、己の意思ではないのだろう。遺体を弄ばれ、死霊化されたのだ。

死霊への慈悲や尊崇の念を持つジャンのような術者であれば、今頃天へと還されていたかもしれない。だが、聖女の遺体を死霊化したのは、彼女をタダの道具としてしか見ていない術者であった。

「ですが! 情報神の根源と繋がったことで、私はレイドスの支配を脱却しました! これでようやく……」

聖母を生み出した人物はレイドス王国に臣従する死霊術士で、聖母は生み出された時から国という存在に対して臣従させられていたらしい。

当時はまだレイドス王国は非常に小国で、フィリアースに従属しているような状態だった。そこでどんな取引が行われたのかは分からないが、聖女の遺体は密かにレイドスへと流されたのだ。

しかも、聖母の生みの親である死霊術師が死んでからもその支配は残り、聖母は意志無きアンデッドとしてレイドスに縛られ続けてきた。

聖母には「眷属理智化」というエクストラスキルがある。その名の通り、眷属に理性と知恵を与えるというものだ。このスキルのおかげで、黒骸兵団のアンデッドたちは理性を手に入れていた。

他にも、様々な研究に利用され、長年レイドスにいい様に使われてきたのだ。

「もう、レイドス王国のために使われるのは、嫌なのです。だから、得た力をレイドスと戦う者に与えてしまおうと思いました。そして、最後は……」

聖母の呟きには、隠しきれない歓喜が込められていた。