軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1261 巨大魔石

破滅願望を抱える聖母は、フランに破壊してもらいたがっているようだった。それだけではなく、レイドス自体に打撃を与えてくれることを期待もしているらしい。

そのためにフランの戦力を増強しようと考え、アポロニアスたちがアヴェンジャーのようにフランに従属させられるように仕向けた。奥の手を使うなと指示したのも、その一環だったらしい。

ここへの案内役にもなるしな。

「大勢の民を生贄にして得た、超魔力。単純な破壊行為に使うのが、レイドスへの嫌がらせとしては一番簡単なのでしょう。ですが、私には無理です。どれだけ強くなろうとも、私は死霊生産特化型でした」

確かに、与えられた魔力でレイドス王国に攻撃魔術でも叩き込み続ければ、大きな被害が出るだろう。

だが、聖母には攻撃系の技能はなかった。自身が言う通り、死霊を生み出す能力に特化しているのだ。

「それに、意思を取り戻したとしても、すぐに反旗を翻すわけにはいきませんでした」

聖母の周囲には黒骸兵団やゼライセがおり、精神の自由を取り戻したことを悟られるわけにはいかなかったのである。

そこで、表向きはクランゼルへ侵攻すると見せかけ、実際はアポロニアスたちがフランに支配されるように願っていたわけだ。

もしアポロニアスたちがクリムトとフランを倒してしまった場合は、見込み違いだったということである。アポロニアスたちを使って、ネームレスとゼライセに決戦を挑むつもりだったらしい。

「ここまで上手く事が進むとは思っておりませんでしたが」

「そうなの?」

「ええ……。相性の良い死霊を数体くらいは配下に引き入れてくれるかと思っていたのですが、まさか全員とは」

聖母は本気で驚いているらしい。まあ、アヴェンジャーと英雄ゾンビは、かなり格に差があるからな。

相性の良い英雄ゾンビが数体フランの配下になるだけでも、十分だと思っていたんだろう。もっと支配しやすいように弱いゾンビじゃダメなのかと思ったが、あまりにも弱すぎると今度はフランの戦力にならない。

奪われることでレイドス王国への大打撃となり、かつフランの戦力として活躍できるレベル。聖母的には、それが英雄ゾンビたちクラスの死霊だったのだろう。

こちらの都合とか考えてはいないが、そこは死霊だしな。どれだけまともで理性があるように見えても、人とは違うのだろう。

「さあ、私を破壊してください。そうすれば、今発動している儀式は止まります。ですが、そのゾンビたちはあなたに従属しているので、儀式の効果がなくなっても残るでしょう」

「……魔石を壊すんじゃダメなの?」

全く敵対していない聖母をただ破壊するのは、何となく躊躇われるのだろう。この場にはジャンがいるし、時間をかけて怨念を浄化することもできるかもしれない。

「膨大な魔力を秘めているため、破壊は不可能です。それこそ、超魔力全てを使い切るまでは、障壁に守られ続けるでしょうから」

傷をつけることさえ難しそうってことか。

それに、吸収するのは正直恐ろしい。何故なら、危機察知が過去最大の警告を発しているのだ。僅かに近づくだけで、その警告がさらに圧力を増していく。

しかも、警告を発しているのは、危機察知だけではない。

「むむむ……」

「ガルル……」

「フラン。やめた方がいいんじゃないかい?」

ジャンは渋い顔をし、ウルシはどこか怯えたように唸り、シビュラがはっきりとやめた方がいいと言う。彼らそれぞれの直感が、危険を訴えているようだ。

この場にいる、直感力が優れていそうなトップ3全員がやめた方がいいと感じているらしい。

俺の中にいる邪神の欠片もまた、かつてないほど騒ぎ始めた。明らかに、止めろといっている。

しかも、情報神の根源を得て最も危険に晒されるのは、アナウンスさんであるようだ。廃棄される前の力を取り戻しかねない? また廃棄案件? どうやら、今のままなら、アナウンスさんも情報神の根源も、神が危険視するほどの力ではないらしい。

しかし両者が合わさったら? かつて、神が廃棄するように命じた、ケルビムの能力に匹敵する力を得るようだ。確かに、それはマズいだろう。

しかし、今までで一番、邪神の欠片の言っていることが理解できるな。明確な言葉があるわけじゃないんだが……。邪神の信頼を得たおかげなんだろう。これも、託宣とか神託って言うのかね?

とどめは、聖母の言葉だ。

「よしんば魔石を破壊――あなたの剣で吸収できたとしても、あなたの剣が破壊される恐れがあります」

「! どういうこと?」

「ゼライセは、その剣が魔石を食らう力を持つことを知っています。そしてこの巨大な魔石には、万が一の場合の保険が仕掛けられているのです。あなたの剣によって食われた時に発動する、罠が」

「罠!」

ゼライセは魔石兵に邪気を仕込んだりもしていたし、俺に対する仕掛けを施していてもおかしくはないだろう。

これだけデメリットが並んでしまえば、巨大魔石を吸収するという選択は選べない。

だが、破壊できれば、今後また利用される恐れはなくなるし、この場で儀式も止められる。そこは試してみなければ。

ようは、魔石を吸収するのではなく、魔術で砕いてしまえばいいのだ。ああ、その前に収納しようとしてみたんだけど、無理だった。所有権がゼライセにあるんだろう。

やはり、魔術での攻撃だ。

『全力だ!』

「ん!」

俺とフランによる、カンナカムイの多重起動。範囲を極限まで狭めたカンナカムイが絡み合い、巨大魔石に直撃する。さらに、その場にいる全員が、渾身の攻撃を放つ。

膨大な魔力が解き放たれ、広い部屋に爆風が吹き荒れた。障壁を張っていなければ、この余波だけで英雄ゾンビ数体は消えることになったかもしれない。

だが――。

巨大な魔石に張られた障壁を破ることはできなかった。一切の傷もなく、美しい巨大魔石がそこに浮かんだままだ。

「むぅ……」

『障壁が硬すぎる!』

「やはり魔石は破壊できませんでしたか」

「魔力、減った?」

「凄まじい魔力でしたね。魔石に残った魔力が300分の1は減りました」

今の攻撃で300分の1? そりゃあ無理だ。

「私をお斬りください。それが最も簡単なはずです」

「……いいの?」

「むしろそれが私の救いなのです」

「わか――」

ドン!

研究所全体が、大きく震えた。その直後から断続的に震動が襲ってくる。同時に、凄まじく強大な魔力がこの部屋へとあっという間に迫ってくるのが分かった。

『フラン! 邪魔される前に早く斬るんだ!』

「ん! はぁぁ!」

フランが全力で俺を振り下ろす。しかし、その一撃は聖母に届かなかった。巨大魔石の物とよく似た障壁が、聖母を包んでいたのだ。

「そんな! こんな術式が……? 本気でお願い!」

聖母も知らなかったのだろう。焦ったように叫ぶ。その直後であった。

ドゴン!

俺たちが通ってきた巨大な鉄の扉が、凄まじい音を立てて大きく歪んだ。